番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、鉄道の映像を撮り続けて30年。
日本全国のあらゆる路線を撮り続け、600本以上の作品を世に送り出してきたディレクターのグッとストーリーです。
吐く息も凍る、真冬の北海道・道北地区。
かつて、深川駅と名寄(なよろ)駅の間を走っていたJR深名線(しんめいせん)は、赤字路線の代表として有名でした。
道路が整備されたことを理由に、1995年ついに廃止が決定。
しかし、消えゆく路線の姿を映像に収めようと零下30℃の地にわざわざ赴き、カメラを回す人がいました。
福岡県久留米市にある映像制作会社・ビコムの鉄道ディレクター、花谷浩和(はなだに・ひろかず)さん・49歳。
極寒の中、凍傷で爪の下は黒ずみ、極端な冷気を吸い込んだため、肺にもダメージを受け、帰ってからも咳が止まらなかったという花谷さん。
なぜそこまでして鉄道の映像を撮るのでしょうか?花谷さんは言います。
「廃止になった路線は、二度と撮れないですから」
この道に入って、ちょうど30年の花谷さん。
元々は「ただの旅行好き」だったそうですが、高専に通っていた頃、故郷・岡山から鹿児島へ鉄道で一人旅をしたのがきっかけで、鉄道そのものに魅せられていきました。
そのうち「学校に通っているヒマはない」と中退して、1988年、現在の制作会社に入社。
「鉄道の旅はいいですよ。列車を乗り換えるたびに景色も変わり、乗ってくる人の方言も変わる。旅先での人との出逢いも、魅力の一つですね」
車両の置き換えが正式に発表されてから、現地へ撮影に行っても、それでは遅いという花谷さん。
たとえば、ある路線で新型車両が出るニュースを聞くと「じゃあ、あの車両は引退するんだな」と予測をつけ、旧型の車両が運行しているうちに、前もって映像を残しておきます。
最近発表した、宇都宮駅から烏山(からすやま)駅までを走るJR烏山線を撮った作品では、蓄電池で走る最新型の電車「アキュム」をメインに撮影しましたが、その新型車両が引退することになる車両「キハ40型」とすれ違う瞬間を狙い、カメラに収めました。
まさに引退前にしか撮れない映像です。
「車両がどこですれ違うかが分かるダイヤグラムを見ながら、臨機応変に動いています」という花谷さん。
ディレクターとしてのポリシーは、ラストカットにいちばんいい画(え)を持ってくること。その画だけで感動できる、余分な説明が要らない映像が理想です。
「北海道で撮影中、線路にキタキツネがヒョコッと現れたことがあるんです。その瞬間、『あ、これがラストカットだな』と直感しました』
どの季節に、どこに行けば、どんな映像が撮れるのか、企画の段階で頭に浮かぶそうで、そのデータの元になっているのが、入社以来書き続けている取材ノート。
すでに14冊目に突入、ノートにちょっと書き留めた旅の思い出が、次の作品のヒントになることもあるそうです。
花谷さんの映像作品に出てくるのは、基本的に鉄道と風景だけですが、映像に映っていないところで、同じ鉄道好きの人に出逢ったり、列車を待つ間に、地元の人たちと仲良くなったり…
「千葉では『キャベツ持ってくか?』って言われたこともありますよ」と笑う花谷さん。
30年間で、全国350本近くの路線を撮ってきましたが、全国至る所に、そういう“心の友”がいるのです。
さきほどの深名線も、廃止されて20年以上が経ちましたが、北海道に撮影に行くと、いまだについ立ち寄ったりするという花谷さん。
かつて線路があった場所は言われないと気付かないほど、痕跡がすっかり消えてしまった所もあります。
しかし、深名線のビデオを出したとき、地元の人たちに言われた言葉が花谷さんは忘れられません。
「映像を残してくれて、ありがとう!」
花谷さんは言います。
「路線の廃止で、日常の風景を失ってしまう沿線の人々にとっては、心に穴が開くのと同じこと。当たり前に毎日走っている、普段の様子を、しっかり映像に収めておきたいですね」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2017年7月15日(土) より
番組情報
あなたのリクエスト曲にお応えする2時間20分の生放送!
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