陸上男子短距離・桐生祥秀 なぜ9秒台を出せたのか?

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桐生祥秀

大会を終え、東洋大の陸上部員らから胴上げされる桐生祥秀=2017年9月10日福井県営陸上競技場 写真提供:産経新聞社

日本人初の10秒の壁を破った興奮が、いまだにさめやらない。9秒98の公認記録は世界99位。1998年、伊東浩司が10秒00の日本記録をマークした後、19年ぶりのレコード達成です。桐生が10秒01をたたき出して一躍、時の人になったのは、洛南高3年。それから、数字上で0秒03を更新するため、4年以上の歳月が過ぎています。距離に換算すると、わずか30センチ分。記録更新の後、高校最後のレースゼッケンが998で、大学最後の日本学生対校選手権(日本インカレ)で同じ数字のタイムが出たことなど、さまざまなエピソードが話題になっています。レースが9月9日で悲願の9秒台が出ればいいと、9が3つ並んだことに、予感めいたことを漏らしていた関係者もいたとか。

さて、ひと口に9秒台といっても、どれほどすごいことなのでしょう。日本陸連の科学委員会は、9日の走りのデータを発表。最高スピードが、秒速11.67メートルで、時速では約42キロです。桐生は何度もこれに近いタイムを出したことがありました。一方で、1秒で5歩を刻める。このピッチは、あのウサイン・ボルトを上回るそうです。当然、いつでも日本のエースになりえた存在ですが、今夏の世界陸上では、100メートルの代表から落選しています。

いったい、どういうことなのでしょうか。精神的な弱さ、メンタルの問題です。個人種目は、すべてが自己責任。桐生はそのことを十分に分かっていました。スポーツ関連の表彰式などへ出席すると、他の競技の一流アスリートへは必ず、

「ストレスをかけずに、力を発揮するには、どうしているか」

といったテーマで話を聞いている。

なるほどと感じたのは、リレーでは銀メダルのリオデジャネイロオリンピック、ロンドン世界陸上の銅メダルなどで、素晴らしいパフォーマンスを披露しています。リレーはバトンテクニックも重要ながら、責任は4分の1。つまり、プレッシャーがそれほどでもない。

ひょっとしたら…。桐生の激走を期待する人は数多く存在しました。これがオリンピック、世界陸上といった大舞台なら話は別でしょう。インカレでライバルと呼べるのは、世界陸上代表の多田修平だけ。さらには、会場の福井陸上競技場は、「いい風が吹く」と評判でした。

よく、快足自慢は足首が細く、柔軟性が必要と聞きますが、短距離ランナーの資質は、足首がカタくなればダメだそう。強い力でトラックを蹴る力がスピードを生み出すからです。実業団、大学、高校などで選手をスカウトする時、伸びるかどうか、ここがチェックポイントになる。通常、陸上の一流アスリートは練習、本番とスパイクを履き分けます。試合は超軽量で、ほとんど使い捨て。でも、桐生は練習と本番が同じものを使用する。きっとものを大事にする性格でしょう。

「夢は世界のファイナリスト。9秒台でやっとスタートラインに立てた」

とホッと胸をなでおろしています。オリンピックでは準決勝で9秒台を出さなければ、ファイナリストになることは難しい。何しろ世界を見れば126人目の9秒台。

これからが2020年へ向けての、勝負です。

9月11日(月) 高嶋ひでたけのあさラジ!「スポーツ人間模様」

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