数々の挫折を乗り越えて夫婦で宅配弁当店を開業した方のストーリー
公開: 更新:
番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、事業の失敗、勤め先の倒産など、数々の挫折を味わいながら、独立して夫婦で弁当店を始め、苦労の末に成功を収めた男性のグッとストーリー
江戸時代、商人や職人が住む町として栄えた、神田司町。現在はオフィスビルが立ち並ぶ町に姿を変えていますが、生まれてからずっとこの界隈で育ち、宅配専門の弁当店「斉屋(さいや)」を経営しているのが、斉藤好行(さいとう・よしゆき)さん・63歳。
チャキチャキの江戸っ子で、地元への愛情もとりわけ深く、斉屋の自社ビルも斉藤さんが子供の頃に建てられた古いビルを、丸ごと買い取って本部にしています。
「昔から、自分が生まれ育ったこの町で商売をするのが夢だったんです」という斉藤さん。一階には配達用のバイクが並び、お昼前から従業員が、得意先のオフィスに向けて次々に出発。
「斉屋」は系列店を含め、一日平均1,500食を売上げるまでに成長しました。しかし、ここに至るまでに、斉藤さんはいくつもの挫折と、困難を乗り越えてきたのです。
斉藤さんのお父さんは神田で布団販売を営み大成功。子供の頃、当時まだ珍しかったテレビが家にあるのが自慢でした。
「近所の人たちが、みんなウチに力道山や長嶋を見に来てね。それはそれは賑やかでしたよ」・・・しかし斉藤さんが12歳のとき、お父さんが病気で突然亡くなり、布団店は閉店。一家の大黒柱を失い、生活は苦しくなり、お母さんが働きに出たり、あんみつ屋さんを始めて家計を支えました。
斉藤さんも働きながら、大学の水産学科に進みましたが、仕事があまりに忙しくなったため、やむなく中退。辛い決断でしたが、
「やっぱり私には、オヤジから受け継いだ、商人の血が流れてるんでしょうね。自分もいつか商売をやって成功させたいという思いを、ずっと持っていました」
そして25歳のとき、斉藤さんは実家を拠点に、ついに夢への第一歩を踏み出します。
最初に手掛けた商売は、外国から輸入した美術ポスターの販売でした。「美術を観るのが好きで、趣味の延長で始めたんですが、それが失敗のもとでした」という斉藤さん。
注文はサッパリ来ず、すぐ資金繰りに行き詰まって閉店。その後勤めた健康食品会社も半年で倒産。転職先の画廊も、雰囲気になじめず、すぐ退職。次に勤めた雑貨の会社も入社して1年で倒産・・・「その会社で最後にもらったのは現金じゃなく、売れ残った真珠のネックレスでした(笑)」
「やることなすこと、すべて行き詰まるのは何故だろう? もしかして、自分は世の中に必要とされていないんじゃないか?」・・・日比谷公園の噴水前のベンチに腰掛け、空を見上げてはため息をついていた斉藤さん。そんなとき黙って支えてくれたのが妻の和子(かずこ)さんでした。
「最初に商売を始めた頃に結婚したんですが、私がこんな情けない状況なのに、本当によく付いてきてくれました」と感謝する斉藤さん。知人が経営する会社に拾ってもらい、ようやく生活は安定しましたが、心の中では「また商売をやってみたい…」という思いがくすぶっていました。
そして91年冬、35歳のときに斉藤さんは決断。会社を辞めて宅配専門の弁当店を始めることに。家の近所の弁当店から、バイクが忙しく出入りするのを見て「これだ!」と直感した斉藤さんは、その弁当店にアルバイトで入社。妻の和子さんも別の弁当店にパートで勤め、二人で開業に必要なノウハウを学びました。
顧客の好みを分析するために、残飯の混じったゴミ袋から伝票の控えを探して分析したことも…。半年ほどの準備期間を経て、92年、斉藤さんは「斉屋」を設立。
はじめ、メニューは4つだけ。和子さんが調理した弁当を、斉藤さんがバイクに乗って届けました。斉藤さんが飛び込みで企業のオフィスを廻り、直接手渡しで「よろしくお願いします」とメニューを渡していったことも功を奏して、注文は右肩上がりで増え、翌年銀座店がオープン。順調に人も店舗も増やし、2002年には、地元・神田司町に念願の自社ビルを構えることができました。
ところが・・・2008年、リーマンショックが日本経済を直撃。企業からの大口注文がパッタリと途絶え、斉屋も店舗をいくつか閉店せざるを得なくなりました。しかし、苦境を何度も乗り越えてきた斉藤さんは、いまどんな飲食店が人気があるのかを、街に出て自分の目でリサーチ。個人客をターゲットに、安くて量が多い豚丼の店「豚大学」を始めました。
「食べていくと、ご飯じゃなくて肉が余る、というのが売りなんです」という斉藤さん。たちまち人気店になり、同時に「斉屋」の注文数も回復していきました。
「私は何か特別な才能があったわけではなく、やってきたことは人真似なんですけど、お客さんの求めているものは何かを必死で考えてきたからこそ、今があると思っています」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2017年10月14日(土) より
番組情報
あなたのリクエスト曲にお応えする2時間20分の生放送!
今、聴きたい曲を書いて送ってくださいね。