番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、二度の災害を乗り越えて、地元オリジナルの新しいネギを生みだした千葉の生産農家の、グッとストーリーです。
九十九里浜に面した、潮の香りがする街・千葉県山武郡(さんぶぐん)と山武市(さんむし)。このあたりは昔から、ネギの産地として知られ、国内トップクラスの出荷量を誇っていますが、2006年、この山武(さんぶ)地区に、新たな「ブランドねぎ」が誕生しました。その名も「九十九里 海っ子(うみっこ)ねぎ」。
普通のネギよりも太くて長く、甘みがあって美味しいと評判ですが、実はこの「海っ子ねぎ」が生まれたのは、2002年、九十九里を襲った災害がきっかけでした。大型の台風21号が、海から大量の海水を含んだ潮風を運び、山武(さんぶ)の農業に深刻な被害をもたらしたのです。
「沿岸の畑で作っていた農作物は、塩害でみんなダメになってしまいました」と語るのはJA山武郡市(さんぶぐんし)で「海っ子ねぎ」を担当する部門の委員長を務めている小川一成(おがわ・かずなり)さん・56歳。
小川さんは、かつてトラックドライバーでしたが、15年前から実家の畑を受け継いで専業農家に転身しました。その矢先に襲った、厳しい災害。ところが…不思議なことに、唯一ネギだけが塩害の影響もなく無事に育ち、掘って食べてみると、むしろ例年より味も良くなっていたのです。
「もしかして、ネギは海水と相性がいいんじゃないか?」…そんな声が上がり、ものは試しと、一部の農家は、ネギにわざと海水をかけて育ててみました。小川さんも、その中の一人。
「何度も何度も、かける回数を変えてみたり、いろいろ試して、みんなで成果を報告し合いました」…すると予測は的中。海水をかけて育てたネギは、通常のネギより太くなり、食感も軟らかく、かつ甘みも増して美味しくなっていたのです。
JAと、地元の農業事務所も協力して、さらに研究を重ねたところ、その秘密は海水に含まれるミネラルにあることが分かりました。「みんなで研究した結果、出荷前に5回、海水をかけるのがいちばん美味しく育つ、という結論になりました」という小川さん。
台風被害から4年後の2006年、このネギは、海水で育ったネギということで、「九十九里 海っ子ねぎ」と名付けられ商品化。災害で受けたマイナスを、プラスに変えた「海っ子ねぎ」は美味しいと評判になり、都内のスーパーでも販売されるようになりました。
そこまでは順調でしたが・・・2011年、再び思わぬ災害が襲います。3月11日に発生した、東日本大震災。海沿いにある山武(さんぶ)地区も、大きな被害を受けました。
「うちの畑は高台にあったので、幸い無事でしたが、海沿いの畑では、津波をかぶったところもありました…」という小川さん。津波を逃れたネギ農家も、試練に直面しました。
それは「風評被害」。原発事故の海への影響が懸念される中、海水をかけて育てる「海っ子ねぎ」も、大きなダメージを受けました。たくさんの人に、美味しいネギを食べてほしいけれど、販売しても、果たして消費者に買ってもらえるだろうか?…議論の末、販売6年目にして初めて、「海っ子ねぎ」の作付けが見送られることに。小川さんにとっても、辛い1年でした。
「美味しいネギを作りたいのに、作れない・・・悔しかったですね」
しかし、震災から1年後、消費者やバイヤーから、こんな問い合わせが相次ぐようになりました。
「海っ子ねぎは、今年は出荷されないんですか?」
「あの軟らかくて、甘い味が忘れられないんです。また作って下さい!」
「そういう声は、すごくありがたく、嬉しかったですね」という小川さん。「お客さんたちは、海っ子ねぎを待っている。前向きに販売していこう」という方向でまとまり、2012年11月、販売が2年ぶりに再開。減農薬で、海水をかけて育てられた「海っ子ねぎ」。
小川さんは言います。「今年の出荷は、もう間もなくです。困難に打ち克ってきた「海っ子ねぎ」のように、これからも頑張って、栽培を続けていきますよ」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2017年10月7日(土) より
番組情報
あなたのリクエスト曲にお応えする2時間20分の生放送!
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