番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、被災地の復興支援に力を注ぎ、子供たちの心をケアする活動も始めた、元タカラジェンヌのストーリーです。
東日本大震災が発生した翌年・2012年から7回にわたって被災地支援のためのバスツアーを組み、ファンや仲間と一緒にボランティア活動に取り組む、元タカラジェンヌがいました。月組で娘役として活躍した ひのあんじさんです。なぜ華やかな世界から、被災地でのボランティア活動に身を投じようと思ったんでしょうか?
「宝塚を退団したのは、母がガンになって、看病に専念しなければと思ったからです」
というあんじさん。公演スケジュールの都合で、2011年10月に退団することを決めましたが……退団を待つ暇もなく、お母さんは2月に天国へ旅立ってしまったのです。心にぽっかり穴が開いたその直後、3月11日に、今度は未曾有の震災が日本列島を襲いました。なんとか最後まで舞台をつとめ上げたあんじさんでしたが、退団後も心の穴は埋まらず、何の希望も目標も持てない、むなしい日々が続いていきました。このままではいけない、と感じたあんじさんは、ある決心をしました。
「悩んでいてもしょうがない。私もボランティアに参加しよう!」
その前にまず、ファンから「次の活動のために」ということで受け取った応援費を、義援金として被災地に直接届けようと、被災地の中から南三陸町を選んだあんじさん。町長と面会することができ、「元・宝塚娘役の最後のお役目として、義援金を持ってまいりました」と告げると、町長はこんなことを話してくれました。
「偶然ですね! 宝塚市と南三陸町は、前から支援協定を交わしていて、昨日も宝塚市長がこちらまで挨拶に来てくれたんですよ」…それを聞いて、南三陸を選んだことに特別な縁を感じたあんじさん。「自分に何ができるかよく考えて、必ず戻ってきます!」と言い残し、町役場を後にしたのです。
丸1ヵ月、あんじさんが考え抜いた末の答えが、2012年から始めたボランティアツアーでした。バスのチャーター費用は、すべて自腹。宝塚時代のファンや、身内から有志を募り、南三陸町や石巻市に入って、講演活動から、お年寄りたちの話し相手、時には遺体捜索のボランティアにも参加。あんじさんが最初に南三陸町へ行ったとき、こんなことがありました。仮設住宅でおばあさんの話し相手をしていたとき、ある漁師のおじさんがこう叫んだのです。
「宝塚上がりのお嬢に、何が分かる! とっとと出て行け!!」
あまりの剣幕に、ショックを受けたあんじさん。そのときは落ち込みもしましたが、その後2年間、毎月毎月、顔を合わせるうちに、そのおじさんにも、あんじさんの真剣さが伝わっていきました。ある日、仮設住宅に住むお年寄りに、体を動かしてもらおうとフラダンス教室を開いたところ、そのおじさんが真っ先に会場に現れ、あんじさんに尋ねました。「俺に似合うスカートはどれだ?」それがおじさんとの初めての会話だったというあんじさん。2年かけて気持ちが通じ合った瞬間でした。
2014年、あんじさんはこれなでのボランティア活動から一歩進んで、一般社団法人を立ち上げ、被災地で暮らす幼児期の子供たちを対象にした活動をスタート。
これは、親が不安を抱えて暮らす中、子供たちが心の面でも厳しい状況に置かれていることを知ったあんじさんが考案したもので、あんじさんらプロの講師が、プロジェクターに映された童話のアニメを子供たちと一緒に観ながら、登場人物になりきって、歌ったり踊ったりするものです。たとえば『三匹のこぶた』では、防災教育を学ぶことで、命を守ることにつながっています。いまは「Huuug」(ハーグ)という一般社団法人で、「なりきりステージ」という名称でこの活動を続けているあんじさん。
「こうやって一緒に歌ったり踊ったりすることで、被災地の子供たちの心のフタを取り除いてあげることが、宝塚にいた私がやるべき活動だったんだなって思います。これからもいろんな縁を大事にして、被災地復興のため長く活動を続けていきたいですね」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2018年3月10日(土) より
番組情報
あなたのリクエスト曲にお応えする2時間20分の生放送!
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