大谷翔平の高いコミュニケーション能力に学ぶ
公開: 更新:
大谷翔平ブームがやってきています。アメリカの大リーグが開幕してから、いやもっと前から連日大谷選手のニュースを見ない日はありません。昔、テレビやラジオで巨人の試合を観戦していたお父さん世代は、子供時代の野球をした自分と重ね心を躍らせているでしょう。野球をしない女性たちにもとっても、翔平君はすでにアイドルとなっています。それは1994年生まれの同世代の女性だけではなく、妙齢のおば様にも広がり「息子にしたい」あるいは「娘の婿に」という声も聞こえてきます。しかし最も騒いでいるのは、実はマスメディアかもしれません。なぜなら、大谷翔平は多くの点で「メディア向き」だからです。今回はメディアが注目するポイントをひも解き、そこにピッタリはまっている大谷選手のスター性について考えてみます。
【SHO TIMEは偶然?】
外国人は大谷選手が出る時を「SHO TIME」と呼んでいます。日本人でも「イッツ・ア・ショー・タイム!」と使うことがあるほど、これからショーがはじまるんだ、それは注目すべき貴重な時間だという意味でメジャーな言葉です。SHOWとSHOをかけるとはなんとすばらしいアイデアでしょうか。誰が言い始めたかわかりませんが、名前を呼ぶことに直接つながるセンスに脱帽します。大谷選手のご両親は、ここまで考えて翔平という名前をつけたのでしょうか。私はそれもあり得ると思いました。以前、テニスの錦織圭選手の両親は、息子に世界を目指す選手になってほしいとの願いから、外国人でも呼びやすい「Kei」と名付けたそうです。発音しやすい音や覚えやすい名前にするのはワールドワイドで活躍するには必須項目のようです。「SHO TIME」は誰でも簡単に発することができ、盛り上がるきっかけになります。もちろんメディアもご多分に漏れることはありません。
【出場すれば何かやってくれる!】
次に、大谷選手がメディア向きである理由は何と言ってもその信じられないパフォーマンスです。さらに言うとそれを何度か「続けている」ことが最大のポイントです。メジャーデビューからの連続ホームラン、それも単独ではない、3ランや2ラン、そして投げては連続奪三振。打者が立て続けに空振りするのは圧巻でした。日本でプレイしている時から二刀流はおなじみですが、ことわざに二兎追うものは一兎も得ずとあるように、凡人は一度に二つのことができません。大谷選手の場合、二刀流がメジャーで今十分通用していることを表していて、試合に出れば何かやってくれる、期待に必ず応えるパフォーマンスがブームを作り出していることは言うまでもありません。大谷祭りで視聴者や読者を稼ぎたいメディアの意図ともがっちり重なっています。
【短く印象に残るコメント】
そしてメディアが大谷選手を取材しやすい3つめの理由。それは話が短く、わかりやすいということです。人間は基本的にしゃべりたい生き物です。知識がたくさんあったり、教えたいことがあると際限なくしゃべり続けます。しかしメディアはアウトプットに制限がありますので、短く、簡潔で、見出しになるような言葉を求めています。
例えば、大谷選手のエンゼルス入団インタビュー。「メジャーリーグのスタートラインに立つことが出来て本当に感謝していますし、これからエンゼルスの一員としてファンの皆様とともに優勝目指して頑張りたいと思っています」10秒程度。
4月3日の初打席3ランホームランのインタビュー。「フェンスに当たるかなと思って走ってたので入ってくれてすごくうれしかったです」6秒程度。コメントが短いです。これは聞く方も理解しやすい上に、記事にする方も字数が少なく済むので助かります。また、いわゆる大谷語録の中には、「のびしろしかないと思っています」や「満足はしていませんけど、納得はしています」など、印象に残る言葉が数多くあります。
同じように、平昌オリンピックフィギュアスケート競技でも羽生選手が、彼しかできないコメントを発しました。ショートプログラムで完璧な演技を披露し、トップに立った直後「僕はオリンピックを知っていますし、元オリンピックチャンピオンなので…」と。いずれも数秒で短いコメントです。声には力があり、自信ものぞく。メディアにとって大歓迎のコメントでした。彼らがメディアインタビューの訓練を受けているか否かはわかりませんが、これから東京オリンピックを迎えるにあたり、活躍する選手たちにはぜひ、短く自分の考えを伝える練習をしてほしいと思います。また、その能力はビジネスの現場でも十分通用する能力です。何を言っているかわからない、話がそれていく、結論は何? と言われる人には「短く結論から話す」ことはお勧めのコツです。
【高いコミュニケーション力が人気の秘密】
最後に4つ目。とても当たり前のことなのですが、話す相手と信頼関係を作る上でとても重要なことがあります。それはしっかり聴くことです。大谷選手は記者の質問をとてもよく聞いています。取材側から言うと「囲み」とか「ぶらさがり」と言われる取材はスポーツ選手にはよくある光景です。一対一ではなく、一人の選手を、多くの報道陣がぐるりと回りを囲んでインタビューを行うのです。皆同じ目の高さですので、どこから質問が飛んでくるかわかりません。そんなときでも大谷選手は一瞬正面を見て、声の主を探し、次の瞬間、質問をした記者をまっすぐ見つめ返し、相手の目を見て頷きながら聞くのです。先に出てきたテニスの錦織選手も勝った直後のインタビューで、質問に対して真面目に頷きながら聞いているシーンを何度も見ました。「あなたの話をちゃんと聞いています」という意味で、視線を合わせ、頷く行為は人との信頼関係を作る際に極めて重要な行動です。多くの報道陣の中から自分を見つけてくれる訳ですからインタビュアーはとてもうれしいはずです。そんな大谷選手についての記事を良く書きたくなるのは無理もありません。渡米してからおそらく追いかける記者が何倍にも増えた中で、これを実行するのはなかなか容易ではないと推測します。人の話を真摯に聞くとことは普段の生活で実行できるコミュニケーションのポイントですから、マネしてみましょう。
四季のある日本では新年度の始まりは期待や希望に満ちた明るいスタートであり、何かを始めたり、何かに挑戦してみたくなったりするものです。大谷ブームを引き起こした大谷選手の高いコミュニケーション力は私たちが見習うべき能力です。皆さんも新年度、新たな出会いの場面などで心がけてみてください。そして大谷選手を一緒に応援しましょう。
連載情報
柿崎元子のメディアリテラシー
1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信
著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
Facebookページ @Announce.AUBE