小池都知事の発言から学ぶ 言葉の威力とネットの拡散力
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師走がやってきました。今年も「2017年新語・流行語」が1日に発表されました。大賞に選ばれたのは「忖度」と「インスタ映え」。毎年、ノミネートの言葉を見て、私には全く意味がわからないものがいくつかあるのですが、今年はあらゆる分野からまんべんなくさらった感じがします。納得するけれどもサプライズではなく、大きなインパクトもない。特に今年は30個のノミネートが発表された段階で材料出尽くしの感がありました。
特徴で言えば、「働き方改革」や「共謀罪」、「魔の2回生」などの政治関連用語が多く、その中に、一時大旋風を巻き越した小池都知事の発する言葉が2つ入りました。「〇〇ファースト」「アウフヘーベン」です。小池知事はご自身がメディアでご活躍されたこともあり、選挙でのメディア戦略やテレビでの発言など、上手にメディアを使う人として印象深く感じていました。
質問の落とし穴
そこで突如出てきた「排除」発言。新党を設立した小池知事が、民進党議員を全員合流されるか否かの方針を示したときに発した言葉です。
小池知事は言葉をよく選んで発言する方だと思っていましたが、この言葉に足元をすくわれたと言わざるを得ません。記者会見の場は、一言では言い表せないほど異質の空気があり、メディアはこの場で言質を取ろうと必死になります。記者は、相手に失言させるためにわざとネガティブな言葉を向けることがあります。9月29日の都知事会見で、記者が発した言葉は「希望の党に公認申請すれば排除されない」「安保・改憲を考慮して一致しない人は公認しない」「前原代表をだました」、「共謀した」などネガティブワードのオンパレードでした。テレビやラジオ、新聞の実際の記事では、記者が発した言葉はカットされます。このため、発言者自身がネガティブワードを繰り返しただけでも、いかにも本人主体で話したかのようになってしまいます。実際に記者の発言は前半の都知事会見時の言葉であり、問題の発言は後半の希望の党代表としての会見でした。ここに時間のズレがあったにも関わらず、端折った形になり、言葉が独り歩きしたのです。
さて、発言を分解してみましょう。『排除されないということはございません。排除いたします。というか、絞らせていただくということです。』まず「排除されないということはない」と二重否定になっています。そのうえで「絞る」で言い換えをおこなっています。これは「政策が一致する人に絞らせていただきます。」と言えばシンプルでした。おそらくご自身も相手の発した言葉をうっかり引用して返答したことに気づいたのではないでしょうか。「というか」とすぐに言い直しています。しかし、時すでに遅し。ネット上に痕跡を残し、超高速でスピード拡散するインターネットの力を思い知らされることになりました。
言葉の威力
言葉を声に出すと気持ちや行動に結びつくことはよく知られています。ダイエットをする時は人に話すと、自分の気持ちが固まりやる気になるというのです。口に出したら最後、なんとしてもやり抜くぞというプラスの気持ちが醸成されて、結果良いエネルギーが体重を落とすというロジックになると言われています。このことは逆の意味でも同じです。ネガティブな言葉を発する人は、マイナスのハートを持ち、やる気をそぎ、思考を逆回転させる、つまりうまく行くことも行かないエネルギーになってしまうのです。ですから、私たちも会話の中で、ネガティブな言葉はできるだけ使用しない方がよいと言えます。
例えば、コップに水が3分の1ほど入っている時の表現として、「あと少ししかない」と思うか、「まだこれだけある」と思うかで、同じ喉が渇いている人でも感覚が違います。同様に「無愛想」は「クール」、「あきっぽい」は「切り替えが早い」、「計画性がない」は「行動力がある」に変えることができます。「うるさい、静かにしろ」というよりも「きょうはにぎやかですね。私の声が聞こえますか」などという方が柔らかい言い方になり、摩擦が起きなくてすみます。ほんの少しの気遣いですが、ネガティブなことはポジティブに変えていくきっかけになると思うのです。言葉にすることでオープンな空気を広げていく。これを常に実践することで、将来に前向きになり、笑顔が増え、希望に満ちて、よい行動循環がまちがいなく生まれます。
ネット利用時間は1.6倍に
ところで、総務省の平成28年版情報通信白書によると、いち早く世の中のできごとや動きを知るために最も利用するメディアとしては、全年代でテレビが約6割と根強い数値になりました。テレビに次いでは、多くの年代でインターネットが選択されており、20代・30代ではインターネットがテレビを上回る結果がでています。また、29年版の白書では、スマートフォンの個人保有率は56.8%と5年間で4倍に増加し、モバイルインターネット利用時間(平日1日あたり)を2012年と2016年とで比較すると、全体で38分から61分と1.6倍に増加しました。
数字で見ると大変な変化の中に私たちはいると言えます。そして、スマートフォンの普及にともなって情報はシンプル&ショートになってきています。テレビを見ながら、食事をしながら、電車に乗りながらと「ながら」行動が増え、簡単にすぐに読めるシンプルで短い内容を良しとするようになっているのです。言葉に込めた思いや気持ちは人それぞれ。本来様々な表現があってこその人間関係も、シンプル&ショートが定着することで画一化されそうな怖さを感じます。言葉を話せる動物は人間だけです。言葉の意味を間違えずに、適切に、吟味して使い、自らの気持ちをオープンに表現していくことが求められると感じます。
連載情報
柿崎元子のメディアリテラシー
1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信
著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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