手作り通夜で愛犬を送り出した、飼い主の決意とは
公開: 更新:
【ペットと一緒に vol.84】
愛犬の亡骸を前に、祭壇を手作りして通夜をしようと思った小川類さん。類さんに、そう思わせた愛犬の遺志とは? 8カ月にわたる愛犬の壮絶な闘病生活を終えてからの、類さんの気持ちの変化に迫ります。
ふと思い立った、別れの儀式
犬のフリーマガジンの編集長でもあった小川類さんが、愛犬のモコスを見送ったのは、ちょうど1年前のこと。
「10歳という若さでした。歯茎から血が出て歯周病かと思って病院に行ったら、悪性メラノーマ。切除手術をしましたが、再発とガンの転移があり、8カ月の闘病生活の末に旅立ってしまって……」と、類さん。
夫も娘も寝ていた夜中の1時頃、ふと目を覚ました類さんに看取られてモコスくんは息を引き取ったそうです。
「リビングでひとり、亡骸を目の前にしてモコスとの思い出を噛み締めていました。涙が溢れ、悲しさが込み上げてきた時、『そうだ! モコスのためにお通夜をしよう』と思い立ったんです。一緒に出社していたので、会社のメンバーにも来客にもかわいがられていたモコス。だから、たくさんの人に囲まれながら見送ってあげたい! と」。
そこで類さんはさっそく、ネットでペットのための通夜や葬式のサービスについて検索。
「スマホの画面で祭壇の写真を見ているうちに、これなら自分で作れそうだな……。よし、モコスらしい雰囲気の祭壇を手作りしよう! と考え始めました」。
朝になると、家族でホームセンターや手芸ショップなどをまわり、最後は数万円分の花もじっくり吟味してそろえたとか。
たくさんの仲間に囲まれて
祭壇用の品々の買い出しをしながら、類さんはモコスと縁の深かった人たちに連絡。
「お通夜はちょうど、GWの初日。みんな予定があるかもしれないとも思いましたが、もし可能なら一緒に見送ってほしくて。自宅に祭壇を作り、お寿司とビールを買い込んで準備をしました」。
こうして夕方には、類さんのお母様や妹さんをはじめ、類さんが勤める会社の仲間、かかりつけ動物病院の看護師さんなど、モコスのもとに大勢が集まったそうです。
「お通夜では、モコスの思い出を語り合いました。『闘病生活も、モコスらしく頑張っていてカッコよかったよね』、『会社でも活躍してくれて、本当にお疲れさま』、『最期までみんなのことを気遣ってくれて、さすがだね』と、みんなでにこやかにモコスを見送ることができました。モコスの性格だと、こんなふうに見送られたかったはずですから」と、類さん。
手作り祭壇で眠るモコスは、なんだか満足そうな顔に見えたそうです。
ペットロスにならなかったのは……
モコスくんが旅立ったあと、類さんは後悔の念を抱きそうになった時期があったと言います。
「独身時代から一緒にいたのに、私に娘ができたことで愛情が減ったように感じてさびしい思いをさせちゃったかな。もっと、モコスのためにできることがあったかも……、と。でも同時に、そんなふうに思わないでとモコスが願っているようにも感じたんです」。
そこで類さんは、モコスくんが「飼い主を後悔させてしまった」と思わないように、後悔をするという行為を手放したそうです。
おかげで、類さんはペットロスにならないでGW明けからまた、精力的に仕事に取り組むことができました。
「それは、モコスの計らいだったのではないかと感じますね。『ペットロスにならないで』って。それから、お通夜という別れの儀式をとおして、モコスのことをたっぷりみんなで分かち合いながら話せて、満足いくように見送れたのも、ペットロスに陥らないで済んだ理由のひとつかもしれません」。
その後、類さんはモコスくんとの楽しい思い出を大切にしながら、1年間を過ごしてきました。
3歳の娘さんは、小さなトイ・プードルのぬいぐるみにモコスという名前をつけて、かわいがっているそうです。
「モコスの記憶が残っているかわかりません。でも、娘のお兄ちゃんのような役割をしてくれていたモコスの話を、よく聞かせてあげているんです。娘にとっては、モコスのぬいぐるみは弟なのだそうですが(笑)」。
類さんは、また犬を家族に迎えたいと語ります。
「もう、絶対に! モコスが私に、犬と暮らす人生の豊かさを教えてくれたから」。
どんな犬とのご縁があるか、ワクワクしながら待っているという類さんのことを、きっとモコスは今日も空の上から「ね、ボクとの思い出はキラキラ輝いているでしょ? 犬との暮らしってすばらしいでしょ?」と語りかけながら見守ってくれていることでしょう。
連載情報
ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。