自己肯定感を高め、寝たきり患者をゼロにする!? アニマルセラピーのすごい力

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【ペットと一緒に vol.78】

アニマルセラピー

人が人には成し得ない力を、動物は人に対して持っていると実感しています。言語も国籍も年齢も社会的環境も……、すべての壁を超えて、その人に対するなんの先入観も持たず、犬や猫や馬は人と交友ができるのがすばらしいと、アニマルセラピーの取材をとおして筆者はひしひしと感じました。

今回は、海外も含め様々なアニマルセラピーについてご紹介します。


筆者が断念した「愛犬をセラピードッグにする」夢の理由

筆者は愛犬をセラピードッグにするのが小さな夢でした。

10年ほど前、オーストラリアにドッグトレーニング留学をしていた頃のこと。ドッグ・ビヘイビアリスト(問題行動矯正の専門家)のオルガに、老人ホームへの訪問セラピーに同行させてもらい、「こんなにも犬が人々を笑顔にするなんて! 私も愛犬をセラピードッグにしたい」と思ったのがきかっけです。

アニマルセラピー

オルガが愛犬バブと訪問すると「この鼻ぺちゃ顔がたまらないわ~」と、ケアホームに笑顔の花が咲きます

ところが、筆者がオーストラリア滞在中に迎えたノーリッチ・テリアのリンリンは、残念ながらセラピー犬には向いていませんでした。テリア気質と呼ばれる、気が強く、嫌なものは嫌だとはっきり伝え、人に触られるのはそれほど好まず、マイペースという性質が満点なのです。

前回の記事のための取材でも、アニマルセラピーの活動には、やはり人と一緒にもともと仕事をしてきたようなレトリーバー種や、人に抱っこされることや触られることが仕事と言っても良い愛玩犬(トイ・プードルやパピヨンなど)が適していると実感しました。

もちろん個体差があるので、人が大好きで穏やかな性質ならば、どんな犬種でもセラピー犬の適性はあるかと思いますが、じっとしているのが苦手なアウトドア派の我が家のテリアは、訓練を積まないとセラピー犬にはむずかしいと感じました。

見た目はずんぐりむっくり、オーストラリア人曰く「ウォンバットみたい」、日本の近所の小学生曰く「小さなカピバラみたい」で愛らしいのですが……。

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筆者の愛犬。小さいけれど活発で少々気が強いテリア種

愛犬が望まないことや愛犬に向いていないことを強要するのは飼い主のエゴだと考えてしまう筆者は、リンリンが2歳になった時点であっさりと、愛犬をセラピードッグにする道を断念しました。

けれども、その後アニマルセラピーに関して調べたり取材をしたりしているうちに、愛犬にもできることがあると思いつきました。


犬は人を笑顔にする!

愛犬にできるセラピー活動のひとつは、散歩中に出会う「犬が大好きなんだけど今は住宅事情のせいで飼えないの」、「うちにも昔犬がいたんだけど死んでしまってね。でも、こうしてヨシヨシさせてもらえると幸せな気分になるわ」という方々と触れ合うこと。とてもささやかな活動ですが、愛想の良い愛犬リンリンが少しでも出会う人を笑顔にできるかと思うと、飼い主としてもうれしい気持ちになります。

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「あら~! 雪玉くわえて~」と道行く人をなごませたリンリン

もうひとつは、筆者の娘の「読み聞かせ犬」としての活動です。

アニマルセラピーの本場であるアメリカでは、以前から、読み聞かせ犬がやってくる図書館や小学校があります。声を発するのが苦手な子どもや、友達と活発に交われない子どもなどが犬に本を読み聞かせることで、心が癒されたり自信がついたり活発になったりすると言われています。

我が家の娘はひとりっ子なので、自宅では愛犬と関わっている時間が豊富。そこで「リンリンに本を読んであげたら?」と、筆者は娘の国語力のアップや情操教育になると信じて、たまに読み聞かせを推しています。“教育”という名の下心満載の母の心は、娘のピュアな読み聞かせで洗われることも多々。やさしい声色で、娘は時折リンリンの顔を見ながら、本当に心を通わせ合うかのようにして読んであげているのです。

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愛犬に読み聞かせをする筆者の娘

幼稚園や保育園や小学校への訪問活動や、読み聞かせといった動物介在教育は、AAE(アニマル・アシステッド・エジュケーション)と呼ばれ、日本での実施も年々増えてきています。


動物の力が、人の心身を健やかに

アニマルセラピーと一言で言っても、前述の「動物介在教育(AAE)」、筆者がオーストラリアや日本で取材をした「動物介在活動(AAA)」(アニマル・アシステッド・アクティビティ)、そして「動物介在療法(AAT)」(アニマル・アシステッド・セラピー)の3つに大きく分けられます。

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ニューヨークの高齢者施設でのAAAの様子

動物介在療法(AAT)は、病院などで行われる、動物を介在させた専門的な治療行為。医療従事者のもとで、ハンドラーが動物を扱いながら、治療を受ける人のために組まれたプログラムどおりにセラピーを進めます。

たとえば、犬と一緒ならば歩行訓練に積極的にチャレンジできたり、犬にせがまれてボールを投げることで肩や腕の機能を向上させられるなど。人の交流を心から楽しんでいるセラピードッグだからこそ、患者さんのやる気を引き出せるという例が多いようです。

1970年代のアメリカのオハイオ州立大学のコーエン博士の研究報告によると、人とコミュニケーションがまったく取れず病院で寝たきりの精神病患者が、セラピードッグの世話などをした結果、独立心が育まれていき、ベッドから離れて退院できるほどに回復した例もあると言います。

アニマルセラピーによって、精神や情緒の面でも改善がもたらされるのです。

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犬や猫をなでることで血圧が低下するという研究結果も多数

セラピーアニマルは、犬や猫だけに限りません。

特に欧米では馬を使ったホースセラピー(和製英語)もポピュラーで、保険適応が認められている国もあります。

ホースセラピーの歴史は古く、なんと紀元前の古代ギリシアで負傷兵の身体機能回復のために行われていたとか。

乗馬による身体運動は、半身不随や対麻痺に効果があり、1952年のヘルシンキ・オリンピックでは、小児麻痺をホースセラピーによって克服したリズ・ハーテル夫人(デンマーク)が、馬術で銀メダルを獲得したことも知られています。

ホースセラピーは、発達障害児や不登校児のコミュニケーション能力の向上などにも役立つと言われています。

馬 アニマルセラピー

馬は犬と同様、人の心を読み取れる能力にすぐれている動物

アニマルセラピーという活動をひとつ取ってあらためて考えてみても、動物が、人の心と身体にどれほど力を与えてくれているかを感じずにはいられません。

連載情報

ペットと一緒に

ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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