【ペットと一緒に vol.75】
昨年12月3日、東京都中央区の中央小学校防災拠点の防災訓練が行われました。そこでは、平成28年度からの試みとしてペットとの同行避難訓練を実施しています。その訓練の主催者や参加者の声をお届けしながら、ペットとの同行避難の大切さや、飼い主さんの防災対策について考えてみたいと思います。
犬や猫は大切な家族の一員だから
筆者は昨年12月3日、中央区の中央小学校に隣接する区立鉄砲洲児童公園を訪れました。その日に開催される防災訓練で、ペットの同行避難を想定した説明や展示があると聞いたからです。
「この防災拠点において、ペットの同行避難が受け入れられる体制を整えるのが今回の目的のひとつです」と、中央区保健所の職員の方々は話します。「同行避難に必要なことを、飼い主さんが学ぶ機会になればよいと思っています」とも。
当日は、3頭の犬がペットの同行訓練に参加しました。公園に設置されたケージ(クレートなど)には、寒さを防ぐためにブランケットが敷かれ、太陽光や外部の刺激から犬たちを守るために布やダンボールでの目隠しもなされました。これは、有事の際にもペットの健康を守るために必要な配慮です。
実は、同行避難と同伴避難は異なります。同行避難とは、災害時に飼い主がペットとともに避難し、避難先では別々の場所で避難生活を送ることです。中央区では、避難先で同じ部屋で飼い主とペットが過ごす「同伴避難」はできません。
3頭の横では、地区ごとに分かれた4つのグループの訓練参加者が、交互にブースを訪れ、公益社団法人 日本愛玩動物協会 東京都支所の渡邉正美さんの解説に熱心に耳を傾けていました。
渡邉さんからの「同行避難には、2つの大きな意義があります。ひとつは、動物愛護の観点。もうひとつは、動物を放置せずにまとめて管理することで、住民の安全を守ることができるという観点です。もし災害発生後に自宅が安全でなくなったら、ペットを連れて避難していただきたいと思います」という言葉に、「なるほど」と、ペットを飼っていない区民の方々もうなずいていました。
最低限、防災に備えて用意しておきたいもの
もちろん、災害に備えてハード面でもソフト面でも様々な準備が必要ですが、渡邉さんによると、「マテ、オイデ、ハウスという3つだけは、誰が言っても従うように愛犬にしつけておいていただければ安心ですね」とのこと。
猫も、ふだんからケージに入れる練習を重ねておけば、避難所でのストレスを減らしてあげられるそうです。
「ペットが飼い主以外の方になつかなかったり、ケージが苦手だからと自家用車でペットと避難生活を続けてしまうと、エコノミークラス症候群を飼い主さんが発症して命を落とす危険性もあるので、車中泊はできれば避けていただきたい」と、渡邉さんは語ります。
また、渡邉さんが強調されていたのは、「ぜひ、飼い主さんとペットが一緒に写っている写真のご準備を」ということです。ペットの大きさがわかったり、ペットが万が一迷子になってしまった際の発見の手がかりになるほか、飼い主を特定する際にも役立つからです。
筆者の携帯電話にも愛犬の写真は入っていますが、見直してみると筆者と愛犬たちが一緒に写っているものがありませんでした。また、携帯電話は電池切れになると使い物になりません。印画紙に出力した写真を用意しておこうと、筆者もあらためて感じました。
ご近所づきあいも大切!
実際にペットと同行避難をすると、まずは避難所の運営本部に相談して、飼育場所やルールを確認することになります。その後、飼い主同士で協力しての管理がスタートするでしょう。
ここで大切なのが、ほかの飼い主さんたちと、ゴハン、散歩、トイレなどを助け合って飼育スペースを運営していくこと。スムーズな運営のためにも、ふだんからのご近所づきあいや犬友づくりは大切だと言えます。
「中央区では、平成17年から『動物との共生推進員』が、ペットの飼育や管理について地域の方々の相談にのっています。定期的に部会を開いて、中央区保健所の職員と、災害対策に関しても意見を交換したり同行避難の準備を進めたりしています。避難所では共生推進員の方々も、ペットと同行避難されてきた区民の方をサポートしてくださるでしょう」と、中央区生活衛生課の職員の方は話ます。
今回、防災訓練に参加した犬を連れてきたのも、動物との共生推進員の一員のご家族です。
「共生推進員としても、ぜひ愛犬と参加して、今日の体験をドッグランや公園で犬友に伝えておきたいなと思って。今日は5時間もの間、愛犬たちはケージに入ってほとんど吠えずにいてくれて感心しました。飼い主の姿が見えなくなると、キュンキュン鳴くかと思っていたんですけどね。2頭で同じケージに入っていたから落ち着けたのかな? これならば、同行避難も安心してできそうです」と感想を聞かせてくださいました。
また、今回の避難訓練への参加者のうち、ペットを飼っていない方が約7割。そのうち、ペット同行避難ブースでの解説後のアンケートによると、ペットの同行避難に反対する方は0%、無回答が17%、賛成は83%となっていました。
災害は、いつ起こるかわかりません。ペットのストレス軽減を考えれば、自宅で避難生活が送れるにこしたことはありませんが、自宅を離れるケースも視野に入れ、準備を万全に整えつつ、地域でペット同行避難の訓練に参加できる機会があればぜひ参加してみてください。
連載情報
ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。