タイ永住を決意させた愛犬との生活が導いた、生きがいと笑顔の日々
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【ペットと一緒に vol.82】
タイに暮らす日本人のドッグオーナーさんたちから、とても慕われている二川広昭さん。偶然の縁が重なってタイでトリマーとなった二川さんが、愛犬のためにも、その後タイ永住を決意して自宅兼ドッグケア施設を開くまでのストーリーをご紹介します。
愛犬とのゆとりある暮らしを移住で実現
二川さんが日本からタイに初めて渡ったのは、20年近く前のこと。
当時はペットショップの仕事をしていて、プードルを仕入れるために訪れたそうです。
「すごく心地よい空気感の国だと思いました。でも、まさかその時は自分が『永住組』になるとは夢にも思いませんでしたが(笑)」。
その後、タイでのビジネスパートナーの誘いで、バンコクの高級トリミングサロンのトリマーとして働くことに。
「その前は日本のペットショップの店長をしていたんです。でも、長時間の会議などもあり、かなりの多忙を極めていて、心のどこかで新天地を求めていたのかもしれません」と、二川さん。
タイ生活が始まってから、いったんは7カ月の一時帰国をしましたが、「早朝5時から23時まで、愛犬にひとりで留守番をさせてしまう生活でした。疲れ果てて帰宅した私の枕元に、愛犬がおもちゃをポトンと落とすんです。『ねぇ、遊ぼうよ』って。それを見て、『やっぱりタイに戻ろう! 自分にも愛犬にも、ゆとりのある生活をしよう』と思いましたね」。
タイで新境地を開拓
タイへ戻った二川さんは、2012年にご自身がオーナーを務める、ASILO Pet Spa and Hotelをオープン。アジーロとはイタリア語で幼稚園という意味で、ここはトリミングサロンとしてはもちろん、ドッグホテルやデイケアサービスも利用できます。
「日本人の駐在の方などが多く暮らすスクンビット地区という場所柄、お客さまも日本の方が8割です」とのことで、筆者が取材に訪れた日も、トイ・プードルやチワワやミニチュア・シュナウザーなど、日本で人気の犬種が広いフリースペースで仲良く遊んでいました。
そのなかには、二川さんの愛犬も。
「トイ・プードルの、ショウショウと言います。実は、転勤先に犬を伴うことができなくなったお客さまから引き取ったコなんです」。
犬を不浄の動物とするイスラム教の国々への転勤や、高齢や病気のため飛行機搭乗のリスクが高くなった場合など、残念ながらタイから犬を出国させられないケースもあるようです。
「名前の由来は、私がいつも電話で『少々お待ちください』と言っていることから(笑)。その、少々、という言葉を取りました」と、二川さん。
バンコクへ来た当初はイングリッシュ・スプリンガー・スパニエルのハッシュくんと暮らしていましたが、2年目にガンが発覚して9歳で亡くなってしまったのだそうです。
「昔、私が浪人生活に終止符を打ち、東京にトリマーの見習いとして出ていく時に18歳の犬生を終えた雑種の愛犬がいました。私のことを見届けたのだと思っています。どの犬も、ちゃんと旅立つタイミングを見計らっているように感じるんですよね」と、二川さんは振り返ります。
今はショウショウくんのほかにトイ・プードルのタワンくんもタイでの二川さんのパートナーとなり、毎日アジーロ2階の自宅からみんな一緒に通勤し、ずっと二川さんのそばで過ごしています。
ペットホテルを利用する方も、なにかあったらすぐに愛犬の様子を見てもらえるので安心されているのだとか。
飼い主さんとのコミュニケーションも生きがいに
二川さんは、タイでの今の仕事にとてもやりがいを感じていると言います。
「お客さまとの結びつきが、とても強くなるんです。駐在の方やタイ人と結婚された方などにとっては、異国の狭いコミュニティーでの慣れない暮らし。犬に関する相談はもちろんのこと、愛犬の送迎の際に飼い主さんの人生相談を受けることも少なくありません。愛犬が亡くなったら、わざわざ報告してくださったり……」。
これは二川さんの温かい人柄あってのことに違いありませんが、「お客さまとはあっさりしたやり取りだった日本でのトリマーや店長時代からは、このようなお付き合いは考えられませんね」と語ります。
犬たちも、アジーロを第2のマイホームのように感じている様子。筆者にも近寄ってきてくれましたが、二川さんが席を立とうものならば、ゾロゾロとあとを追っていきます。
「ここで楽しく過ごして帰っていったコが、また次にシッポを振って元気で来てくれるのを見ると、本当にうれしい気持ちになります」と、笑顔で犬たちを撫でる二川さん。
これからも、タイに暮らす日本人の、ドッグライフはもちろん海外生活における頼れる存在として、アジーロを訪れる犬たちと飼い主さんたちを懐広く包み込んでくれることでしょう。
連載情報
ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。