北朝鮮が体制保証をアメリカに求めるのは国交樹立を果たすため
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6/13 FM93AM1242ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』今日の聴きどころ!②
米朝首脳会談~北朝鮮が非核化を約束も共同声明に具体策なし
7:10~お早う! ニュースネットワーク:コメンテーター藤井厳喜(国際政治学者)
北だけではなく中国も視野に入れて観察する必要がある
昨日開催された、史上初の米朝首脳会談。トランプ大統領と、金正恩朝鮮労働党委員長が、共同声明に署名した。共同声明ではトランプ大統領が北朝鮮に、体制保証を与え、金正恩委員長が、完全な非核化に取り組むことを約束。しかし、非核化の時期や具体策に言及はなく、朝鮮戦争終結や、日本の拉致問題についても、盛り込まれなかった。
飯田)トランプ大統領は記者に対して、「日本の拉致問題について、問題を提起・言及した」と答えました。具体策がないことについて、国内外で批判が出ていますが、いかがですか?
藤井)アメリカでも、当然反トランプのリベラルな大部分のメディアはこう言うだろうなと思っていたし、案の定言っているわけです。だけど、まず始めないと、プロセスも始まらない。これは前からこの番組でも申し上げましたが、北朝鮮側は遷延(引き延ばし)策をやりたいのです。原則合意だけど、「どうやって核やミサイルを廃棄するの?」については、「ゆっくり考えましょう」と引き延ばしてくる、ということです。
これに関して、今回非常に気になったのは、金正恩が中国の飛行機に乗ってきたことです。自国の専用機では、シンガポールまで航続距離がギリギリ。しかも、整備ができていなくて、たびたびどこかで緊急着陸するような飛行機なのです。なので、ロシアか中国から借りると思っていましたが、中国機だったでしょう? よく「北朝鮮問題」と言われますが、非常に大きな枠組みでは、「米中対決時代」が来ているのです。中国側からすれば、アメリカに北朝鮮問題に長くつまづいていて欲しいのです。アメリカ側は、早く問題を片づけて、南シナ海を中心とする、対中包囲網をやりたい。5月7、8日の大連会談で、相当金正恩は習近平にネジを巻かれたというか、「もっと抵抗しろ! ベタ降りするな!」と言われてきたのでは、と思います。中国の飛行機を使っていたので、これは難しいだろうな、という感触も持っていました。リビアの場合と同じく、相手を立てながら廃棄させていく方針
藤井)だけど、トランプとポンペオがこの会談の直前になって、「時間がかかる」という言い方をしましたよね。リビアの非核化をしたときもそうでした。まあ、リビアは核兵器の発展段階が低かったから簡単でしたが、リビアの、カダフィのメンツを非常に重んじてアメリカとイギリスはやりました。
飯田)あの当時も、そうだったんですね。
藤井)そうですよ。驚くくらいにカダフィのメンツを重視して、彼を侮辱するような言葉はいっさい使わず、褒め殺しました。すると、北朝鮮の、金正恩のメンツも立ててやる。開発した核弾頭を廃棄させるのですから。そのためには、実は英米とカダフィ間も交渉も、9カ月続いていました。2003年3月くらいに「ギブアップしてもいいよ」とカダフィが言って、合意が表に出たのが12月です。けっこう長い間交渉していたのですよ。
今回は実際に核弾頭も持っているし、長距離ミサイルも実際に持っているし、ウラン濃縮装置もある。それらを全部運び出すのは、ものすごい時間がかかる。これは実務的に考えても分かりますよね。
ただ、方向性を早く決める。アメリカとして一番大事なのは、ここで妥協してご褒美を与えない、ということです。そのことについては、アメリカは何も妥協していません。
なので、そこがあれば、我々もいいのです。「北朝鮮がゆっくりやってもいいよ、代わりに、経済制裁も続けるよ?」と。強化はしないけど、現状の経済制裁を日本も続ける。「頼りになるのは、中国とロシアくらいかもしれないませんが、裏でいろいろあるでしょう。しかし、お宅は厳しくなるよ。時間をかけるのはいいけど、その分困るのも自分だけど、いいの?」とトランプは優しく脅して言っているわけでしょう。
だから、おそらくポンペオのレベルで、書いていない部分というか、非核化の細かいプロセスの話をしていて、それをこれから我々が見ていくと分かっていくのでしょう。体制保証は非核化が完全に成功してから
飯田)確かに、会見でトランプ大統領は「制裁は緩めない」と、ハッキリ言っていますよね。完全にアメリカが負けたわけではない。
藤井)それをやってしまうと、いままでと同じ間違いを繰り返すと、ポンペオもトランプも散々言ってきたことです。ただ、相手に安心感を与えるというか。最終的に体制保証です。日本の一部の新聞では「体制保証した」と書いていますが、別に保証していません。核を廃棄すれば、です。体制保証ということは、正式な国交樹立ですよ。今回はおそらく、実務的な話をするために、お互いに代表事務所みたいなのを開くのだと思います。事実上の大使館ですね。
飯田)では、北朝鮮がワシントン、アメリカが平壌に開く?
藤井)米中間でも、大使館を開く前にはリエゾンオフィス(連絡事務所)を作るのです。そこまでやれば直接話し合いできるし、「将来これが大使館になるよ」と前提になる。
アメリカは別に体制保証はしていないのです。核放棄しなければ、体制保証しないし、経済制裁も緩めない。その点では、勘所は押さえていると思います。北朝鮮はアメリカと正常な外交関係を築き国交樹立を目指す
飯田)今回の米朝共同宣言のなかで、米朝の新しい関係というような表現がありますが、それは連絡事務所とか、そういう部分までも?
藤井)そうですね。正常な外交関係。国交樹立する方向に動くということでしょう。そうすれば、最終的に体制保証になりますから。アメリカが大使館がある国を何も前触れなく攻撃するのはあり得ないわけですから。「その辺へ向けて動きます」と、今回はお互いに意思を確認したということではないでしょうか?
飯田)そうなると、今後は?
藤井)北朝鮮にとっては、「核・大量破壊兵器は廃棄します。その代わり、将来はアメリカと正常な国交関係を、平和条約を結び、普通の国家としてやる」と。
あとは、南の大韓民国は大統領や世論が親北ですから、朝鮮半島から最終的に在韓米軍は撤退すると思います。飯田)そこまで、視野に入っている?
藤井)平和条約を結べば、いる理由がないですから。
最終的に冷戦は終わり在韓米軍は撤退する
飯田)トランプ大統領は「プレゼンスは維持する」と会見で言っていましたが……
藤井)とりあえず言いますよ。それは最後の切り札だから、(撤退を)言ってはお終いです。ただ、「削減は考える」とは言っていますから。削減から、アメリカ側の妥協のカードとして、最終的に与えるのは、事実上の在韓米軍撤退。これをやれば、北朝鮮としても、「核放棄したけど、アメリカと正常な外交関係を樹立して、在韓米軍を撤退させた。金正恩は偉大なリーダーだ!」と言えるわけです。その辺のメンツは考えているでしょう。
飯田)そうすると、日本にとっては、対馬海峡のところがパワーバランスの結節点みたいになっていく?
藤井)日本の国防ラインは38度線から対馬海峡に移ります。アメリカの防衛ラインもそうです。
飯田)そうすると、いまの日米安全保障条約の枠組みより、もう少し踏み込んだ形にしないといけないかもしれない?
藤井)当然、アメリカは日米関係を強化。日本も強化する方向ですので、問題はないと思います。日本にとってはありがたいことに、これからは韓国の気を使わなくていいですから。米韓関係に気を使わず外交できるのです。
飯田)すると、米韓同盟も、形が変わってくる?
藤井)長期的に考えると、事実上廃棄されると思います。時間はかかるけど、最終的にそうなると思います。
飯田)まさに、朝鮮半島における冷戦が終わるということになるわけですね。
藤井)行き着く先はそうなると予測しています。
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