財務省の危機的状況は体質の問題 組織改編が必要
公開: 更新:
「須田慎一郎のニュースアウトサイダー」(6月10日放送)に、明治大学政治経済学部准教授・内閣府規制改革推進会議委員の飯田泰之がゲストで出演し、3役のうち2人が辞めるという財務省の危機的状況と「働き方改革法案」という今の国会を揺るがす2つのテーマについて分析した。
常に「チームで動く」 飯田さんが語る財務省の特異性とは?
須田:今日は明治大学政治経済学部准教授・内閣府規制改革推進会議委員という肩書きをお持ちの飯田さんに、財務省の問題はさることながら、「働き方改革」についても専門家でいらっしゃるのでしっかりと伺って行きたいと思います。
須田:まずは最近の財務省をどうご覧なっていますか?
飯田:財務省というのは官庁の中でも特異な組織です。私自身は10年近く財務省の財務総合政策研究所というところで研修を担当していました。その中で財務省っぽい体質はわかってきた。それは「チームで動く」ということ。
これは、経済産業省と対照的です。経済産業省は個人プレーの官庁。一方で財務省はいつでもチームプレーの官庁で、中の人はある意味ではすごく優秀な人です。研修講師をやっているとすごくわかるのは、彼らはめっちゃ相づちがうまいんです。そして、質問も的確。「自分の講義内容もレベルを上げなきゃな」とか「もう少し難しいことを教えなきゃな」と思うほど的確な質問とパーフェクトな相づちだけど、テストをやってみると全然できていないんですよ(笑)。
てっきり全部わかってるのかなと思ったら何も伝わっていなかったという経験があったりして。ですから、ある意味すごく日本的な優秀さの頂点にいる人たちなんだと思うんですよね。
須田:東島さんなんかは女性として今回の福田次官のセクハラ発言問題のようにああいったことを女性に言う官庁のトップってどのように受け止めた?
東島:正直、言葉が適切かわからないですが、ひいてしまったのは「言葉遊び」という表現が出てきたじゃないですか。言葉次第なんですか? という印象を受けました。
須田:なんであの場面であの発言をするのか、あのメンタリティってどっから出てくるんですか?
飯田:まさにチームの中で評価されていくことが重要なので、チームの中だったらなぁなぁだったり、長い付き合いだから「そういう部分もあるけど、いいところもある人なんです」などというのが通るんですよね。そのせいで、チームの中で「あいつはできる」とか「あいつ悪いところもあるけれどもそれを上回るいいところがある」という評価をされてきたので、いきなり一言で勝負が決するような場面に出くわしてこなかったんじゃないかな。だから例えば財務省内だけだったら、総合的な目で評価してもらえるというぬるま湯があったんじゃないかと思うんですよね。
須田:なるほどね。つまり「ああいった悪い癖は持っているけれども、仕事をやらせたら天下一品なんだ」というトータルで評価されてきたからそこは許されてしまったと。
飯田:そうなんですよね。さらに今回の場合は(相手が)記者じゃないですか。これは記者クラブ制の良いところであり、悪いところであると思うんですけれども、組織の中のチームの一員かのように感じちゃってくるんですよね。ですから本来であれば記者は外の人、そして情報を取りに来ている人なので、あんなゆるい、問題ある対応をしたら問題にされるに決まっているのに、そこら辺が組織・チームの中だけで出世してきた人なんだなぁって感じですよね。
財務省問題の今後 落とし所はどこに?
須田:加えて森友学園問題含めて財務省が非常にバッシングにさらされていてピンチだと思うんですが、やはり今の財務省の置かれている状況はピンチと考えていいんですか?
飯田:かなりピンチだと思います。それこそかつての「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」以来なんじゃないでしょうか。
東島:須田さんから教えてもらいましたよ(笑)。
飯田:須田さん、行かれたことあるんですか?
須田:ありますあります。あるんですけど、ただね、これを他人の金で行っちゃいけない、ご馳走になったらいけないよなと思うんだ(笑)。
どうやったら財務省は今回の問題にケリをつけることができますかね?
飯田:これはかなり厳しい状況だと思うんですよね。
公文書の改ざんと一部の意図的な抜き取りなどは、「誰が指示したんだ?」とか、または政治の強大な権力が働いたんじゃないかっていう話があるんですけれども、むしろ財務省自体の体質に根ざしているところがかなり大きい。例えば、佐川前国政庁長官もチームの中の一番大切な人のひとりなわけですよ。それを守るためにまさに流行語にもなった「忖度」に忖度を重ねて、チームが一糸乱れず動ける。それだけの組織っていうのは、それが正しい方向に向いたらものすごいいい組織なんですよ。だけど悪い方にも簡単に向くんですよね。そこら辺を見せつけられたなと。これは他の省庁だと起きないと思います。
つまりは、かなり証拠が残るような形で、大声で直接命令しないと、あんな手際よい細かいオペレーションなんかできないんですけど、財務省はできちゃうんですよね。そこが財務省の特殊なところで、特殊だからこそここまで問題が悪化したという良い例なんじゃないでしょうか。
須田:最終的にはどのあたりが一番良い落とし所になってくると思いますか?
飯田:今回の件で、いわゆる公文書管理という、かなり官僚制度のコアの部分っていうのに傷がついちゃったので、組織改編は必要になると思います。そして、その組織改編が金融庁がスピンオフした時のような、本当にもう分裂させるという、例えば「国税を外に出す」とか「主計(お金を使う方法を考えるところ)と主税(お金を集める方法を考えるところ)を分離させる」となると、事実上、財務省解体ということになります。それをなんとか防ぐことが財務省の今の一番の目標になっているんじゃないでしょうか。
須田:なるほどね。でも、その辺りってなかなかメディアで出てこない話ですよね。
飯田:現時点だと森友・加計っていうところに集中していますがも、僕自身は森友・加計問題そのものよりも公文書の取扱に関するところの方が本当はもっと大きく取り上げないといけないと思う。なのにちょっとやはり見た目の派手さ、特に森友は登場人物のバラエティ豊かさというのにちょっと引っ張られ過ぎているところで、これは僕がテレビの映像的なメディアの弱いところだと思うんですよね。公文書の話って、テレビの映像でやっても絵にならないですよね。一方でやっぱり森友関連の問題は映像がたくさんあるじゃないですか。そっちに引っ張られてしまうのがテレビメディアの弱さじゃないでしょうか。
労働改革は景気の良い時にすべき。「働き方改革法案」はネガティブ法案なのか!?
須田:今日は、財務省問題に加えてもう1点、「働き方改革」に関してもお話を伺いたいんですが、その前にこれは別名「残業代ゼロ法案」なんて言われているわけじゃないですか。東島さん、どう? 残業してもお金もらえなくなるって思ってるんじゃない?
東島:そう思うとドキッとしますけどね。困ったなぁという印象になりかねないですよね。
須田:あの法案に関してはネガティブに捉えてるでしょ?
東島:そうですね。またぐんと状況がよくなるような希望的な見通しっていうのもなかなかたてにくかったりもしますね。
須田:そんな世の中の見方に対して、どうですか、飯田さん?
飯田:特に高度プロフェッショナル制度は対象になるのが年収1,000万円以上、かつ管理職じゃない人というかなり特殊なんですよね。で、現時点で管理職は残業手当がついてないですから「年収1,000万円を超える管理職じゃない人」っていうと特殊な働き方をしている人ですよね。で、実際高度プロフェッショナル制度とほぼ同じ制度が世界各国あるんですけど、対象になっているのは全労働者の1割〜1.5割くらいで、それに比べると日本はもっと少ないのでかなり控えめな制度と言えます。
どんな人が対象に当たるかというと、かなり特殊知識を持った技術者。そういう人の働き方を、いわゆる一般のタイムカードではかれる労働者と同じにすることの問題の方が大きいと思うので、私自身は「高プロ」は賛成なんですよね。
須田:ちょっと補足すると残業が一定程度で打ち切りにというのは今、飯田さんが言われた「高度プロフェッショナル」と呼ばれている人で、具体的には技術者、エンジニアとか・・?
飯田:あとは会社に勤めている弁護士資格や税理士資格を持った人とか。そうでないと管理者じゃないのに年収1,000万超えるってないですよね。そういう特殊技能を持っている人を管理職にすることなく、ずっと現場で新しいものを開発したり研究したりとプロの仕事をやってもらいたいと。これまでだとその人たちは年齢を重ねるごとに課長とかにされたりしてもったいなかったですよね。せっかく一流の技術者・研究者なのに業務といえば管理職業務になってしまう。そういうことを防いでいわゆる高い年俸・高い成果に対する報酬に分けていく。これに対する反対論は働いている労働者をエリート組とそうじゃない組に分けるということについて。実はそれが組合等の抵抗の理由になっているのではと勘ぐっているんですよね。
須田:そしてもう一つ反対派から指摘されているのは、一旦、法律では「高度プロフェッショナル」という枠にはめるけど、なし崩し的に、それがどんどん拡大していくんじゃないかということ。最終的には普通に働いている人も裁量労働制になってしまうんじゃないかということについてどうですか?
飯田:これはですね、法律を変えたら適用範囲が広がるというのは全部がそうなんじゃないかなと。これが法律を変えることなく拡大していく形にしてはいけないと思うんですよね。むしろ大切だと思っているのは人手不足の深刻化、特に高度な技術者なんてひくてあまたですよ。こういう人手不足の状況を続けている時に入った制度って労働者に味方してくれるようにビジネスの現場に浸透していく。これ、面白いことで、失業率が高くて労働者が余っている時に入った制度はどんどんどんどん運用が悪い方に向かっていって、もっと安く労働者を使う手法になりがち。一方、景気が良くて、もっと待遇をよくしないと辞められちゃうと企業が思っている時に入った制度っていうのは、むしろ労働者をもっと働きやすくしてくれる方にまわる。なので、景気が良い時にこういった労働改革は入れるべき。
重要な法案の際は野党は対決姿勢をやめて対案を出すべき!
その他にも、今回の働き方改革法案の審議で、野党が最初から対決法案だと決めつけて反対していることについて、むしろ野党の方から大きな対案が欲しかった、また最近の野党は「なんでも反対!」という状態でそのリスクも大きなものだと解説した。
▼Youtubeで視聴いただけます
須田慎一郎のニュースアウトサイダー
FM93AM1242ニッポン放送 日曜 18:50-19:20