関連白書で米批判~中国が入って機能しなくなったWTO
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「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月29日放送)に外交評論家の宮家邦彦が出演。中国の保護主義、共産党の権力集中について解説した。
中国が初のWTO関連白書を発表、トランプ政権の保護主義的な姿勢を批判
中国政府は28日に公表したWTO(世界貿易機関)に関する白書のなかで「一国主義や保護主義の台頭で、WTO体制は挑戦に晒されている」として、アメリカのトランプ政権の保護主義的な姿勢を強く批判している。
飯田)中国の商務省が2001年のWTO中国加盟から17年間の貿易額の推移、投資環境などについてまとめた白書を昨日公表したということですが、中国というと経済統計が非常に疑問だと言われますけれども。
宮家)それ以前に、中国が保護主義に反対? 冗談じゃない、おたくこそ保護主義だろうと言いたいですよね。だいたいWTOに入るとき、彼らは途上国としてのいろいろな部分があるからと、随分優遇措置を取っているわけです。それは入った後時間をかけて全部撤廃していかないといけないのですが、撤廃していないのです。
飯田)元々このWTOというのは、関税を下げて自由貿易をやろうよ、という機関ですよね。
宮家)それで随分と特例を認められてきたのにも関わらず、その部分はいいとこ取りをして。トランプが変なのはわかるけれど、「私たちは保護主義と闘っています」というのは冗談やめてくれと言いたい。
私は、貿易交渉官だったことがあるのですよ。1994年から2年間、WTOのサービス貿易協定の交渉官だったのです。既に中国を入れる入れないの議論があって、1990年代中頃に何度も中国と交渉したことがあります。その頃は中国の経済官庁の中で英語を喋れる人がほとんどいなかった。1人の通訳で全部やっていた、こっちは全員英語を喋れるのに中国側は誰も喋れなかった。この人たちを入れても駄目だ、と私はずっと反対だったのですよ。そのときは終わったのだけれども、2000年に近付いて「また入れよう」と。
あのときの何が問題かというと、中国を資本主義化させ、改革開放させてWTOに入れ、世界のシステムのなかに取り込んでしまえば、中国社会は必ず変わるんだと。そうしたらいずれは市民社会ができる、政治も変わるんだと言わんばかりの幻想を持っていたわけです。そしたらとんでもなかった。あの人たちはWTOに入って何をやったかというと、紛争解決メカニズムがあって権利を主張する、それだけは徹底的にやる。それで自由化したかというと、あまりにも遅い。あれだけの経済規模と力を持ちながら、都合が悪くなるとすぐに途上国のフリをする。それだけは勘弁して欲しい。
残念ながら、中国を入れて失敗したのだと思います。我々が期待したような効果はなかったけれど、入ってしまったものは仕方がない。ですからWTOが機能しなくなった。だからTPPやFTAになっていったわけです。中国が入ってからおかしくなったと言っても過言ではないです。
中国が入ってWTOは機能しなくなってしまった
飯田)WTOも基本的には全員一致というか……。
宮家)そしたら中国が反対して終わりですからね。昔はブラジル、インドが反対していた。彼らを説得するのが大変だったわけですが、いまは中国が説得もへったくれもないですから。WTOはその段階で機能が低下したということです。
飯田)かつて欧米の人は、皆言っていましたよね。「資本主義のなかに組み込めば、共産党の体制が変わるんだ。それはソ連や東欧を見てもそうだったじゃないか」と。結局この20年は大失敗だったわけですよね。
宮家)ソ連のときはゴルバチョフが出てきて改革して緩めた結果、倒れちゃったわけですよね。それを見ていた中国が天安門事件のときに、逆に徹底的に弾圧した。その結果共産党は残ったわけだけれど、同時に我々の思ったような形での自由化はできなかったのです。残念ながら人のことを「保護主義だ」と批判できるような立場にはないですよね。
変わることのない中国共産党
飯田)経済でも、中国共産党の自分の体制固め、そしてその先の覇権の武器に過ぎないというわけですよね。実際のパワーもそうだし、これはもう止めることができないのでしょうか。
宮家)それは中国の国民が決めることなのでわかりません。残念ながらいまの状況は、中国共産党の指導というものが、政治だけでなく経済、そして民間企業までどんどん浸食していますから。自由化とは全く逆の方向に動いていると思います。
飯田)日本から進出している企業でも、企業のなかに共産党の委員会を作れという話がありますよね。
宮家)おかしな話でしょう? でも共産党の指導がある限りはどんどん権力の集中化が進んでいるのだと思いますよ。
飯田浩司のOK! Cozy up!
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