成長しない手の平サイズの病猫を家族に。ミルクボランティアの決意
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【ペットと一緒に vol.98】
以前の記事でご紹介した、子猫のベテランミルクボランティアの墨田由梨さん。つい最近、先天性疾患の疑いでなかなか育たない子猫を、4頭目の愛猫として家族に迎え入れる決心をしました。
母猫から飼育を放棄されて
4月の終わり頃、猫の保護団体である“ねこけん”を経由して、墨田家に茶白の小さな兄妹猫がやってきました。ケンタくんと小春ちゃんです。
「実は、お母さん猫に育児放棄されてしまったんです」と、墨田さん。
愛護団体では、臨月の猫が保護された場合はひとまず出産をさせるケースが少なくありません。離乳まで母猫に子猫を育ててもらい、それから、母猫と子猫の新しい家族を探すパターンが多いのだとか。
「もしかすると、小春ちゃんが育たないというのをお母さんは本能的にわかって、育児をしなかったのかも」と、墨田さんは考えているそうです。
墨田さんのもとへやってきた小春ちゃんとケンタくんに、数時間置きに授乳をするミルクボランティア生活がスタートしました。
ずっと手の平サイズの小春ちゃん
ミルクをたっぷり飲んでぐんぐん大きくなっていくケンタくんとは対照的に、小春ちゃんはミルクを飲まなくなり、そのままでは生きることもままならない状態になってしまいました。
「朝晩、動物病院に通って胃にカテーテルを入れてもらってミルクをあげました。そうしたら、数日後には元気に復活! うれしかったですね」と、墨田さんは振り返ります。
お兄ちゃん猫のケンタくんとはもちろん、同時期にミルクボランティアとして一時預かりをしている子猫たちと遊んだりして、キラキラと輝く笑顔を取り戻してくれたのだとか。
「ところが、今度はお腹の調子が良くなくて……。室内じゅうにポタポタと下痢便を落とすので、ほかの猫にも不衛生な環境になってはいけないと、直径1メートルほどのソフトケージで安静にさせて様子を見ました」。
それでも改善しないため、再び動物病院に入院。
その際に血液検査をしたところ、肝臓の数値が悪いことが判明しました。
「先生によると、精密検査をしないとはっきりしないそうですが、門脈シャントの疑いがあるそうです。
もし門脈シャントだとすると完治はむずかしいですし、時間と費用を要する治療は大変です。ひとまず、小春の里親探しは断念せざるを得ませんでした」(墨田さん)。
充実した時間を過ごさせてあげたい
墨田さんのもとには、3頭の先住猫がいます。
「夫とは以前、4頭までは飼ってもいいね、と言っていました。
なにかあったときのために確保しておいた1頭分の枠を、小春で埋めたいと夫に相談したところ、大賛成してくれたんです。だって、小春はこれまで出会った中でも最強の甘えんぼうで、夫もメロメロになっていましたし」と、墨田さんは笑います。
生後3カ月弱で480gと、同胎のケンタくんより体重が半分以下しかない小春ちゃん。
病院で処方された薬の内服を始めてからは、下痢も収まり、あとから預けられた子猫とリビングで走り回って遊んでいるといいます。
「体が小さすぎて他の猫たちのように高いところに上れず、地面をチョロチョロ動いている様子は、チワワの子犬のようでもあり、小さな妖精のようでもあり……。ともかく、別次元でかわいいんですよ」と微笑む墨田さんは、小春ちゃんにだけ離乳食用のおいしいウエットフードを与えたりして、甘やかしているのだとか。
「もしかすると、自然界では淘汰される運命だった命かもしれません。そんな小春を、『人の手で生かしてしまった』責任も感じています。だから、最後まで見届けたい」と、墨田さん。今後は、小春ちゃんとともに前向きに闘病生活を送っていきたいといいます。
「ご縁があって、小春はうちに来てくれたのですから。命の長さや短さではなくて、いかに楽しく充実した時間を過ごせるかが大切だと思うんです」。
そう語りながら、墨田さんは膝の上で小さく丸まる小春ちゃんを、手の平で包み込むかのようにしていつまでも撫でていました。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。