理学療法士だった彼が、映画監督になった理由

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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第504回】

さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は、10月26日公開の『』を掘り起こします。


三浦貴大が理学療法士の葛藤をリアルに体現する人間ドラマ

理学療法士だった彼が、映画監督になった理由
映画監督になりたい! 志を持って映画業界に飛び込んでくる人は数多くいますが、その動機や経歴は様々。初監督作の短編映画「平穏な日々、奇蹟の陽」で「Short Short Film Festival & Asia 2014」のJAPAN部門にノミネートを果たし、Jリーグ・FC東京の2015シーズンを追ったドキュメンタリー映画『BAILE TOKYO』の監督も務めた榊原有佑監督は、元理学療法士という経歴の持ち主。

病気やケガ、老化、過度の運動などが原因で身体機能に障害を持つ人の身体機能回復を目的に、運動の指導や治療を行うリハビリの専門家として、大学病院で患者さんひとりひとりと向き合ってきました。

理学療法士だった彼が、映画監督になった理由
理学療法士は毎日一定時間、患者さんと1対1でリハビリを行うため、医者や看護師よりも共に過ごす時間の密度が濃く、患者さんとの間に信頼関係や絆が生まれやすい職業。患者さんにとっても理学療法士は、心身ともに自分をサポートしてくれる心強い存在です。やりがいある職業に従事しながら、何故、彼は映画監督へと転身したのでしょうか。

理学療法士だった彼が、映画監督になった理由
それは、理学療法士という仕事を多くの人に伝えたいと思ったから。きっかけは、高齢化社会を見据えた医療費削減に関するニュースを耳にしたことでした。

自分の目の前にいる患者さんはリハビリを必要としているのに、治療費の負担が増えてしまうと、リハビリを続けたくても続けられない人が増加するかもしれない。もっと多くの人に、医療の現場と現状を知ってほしい。そう思ったときに「自分の使命は理学療法士という仕事の現場を、そして医療行為を必要としている人がいる現状を伝えることだと気付いた」と、榊原監督は語ります。

理学療法士だった彼が、映画監督になった理由
自分が本当に伝えたいことを伝えるには、メデイアの力が必要だ。そう感じた榊原監督は、理学療法士の現実を映画にしようと決意。映画製作に関する勉強を重ね、さらに4年の歳月をかけてようやく完成させたのが、映画『栞』です。

本作には榊原監督自身が体験したエピソードも盛り込まれており、ドキュメンタリーを思わせるようなリアリティにあふれ、あまり知られていない医療従事者が抱えている葛藤が伝わってきます。そしてこの映画で描かれていることは、昨日もきょうも明日以降も、日本のどこかで実際に起こっている出来事だということに気づかされることでしょう。

理学療法士だった彼が、映画監督になった理由

2018年10月26日(金)から新宿バルト9ほか全国順次公開
監督:榊原有佑
脚本:眞武泰徳  共同脚本:岡本丈嗣  音楽:魚返明未
主題歌:「Winter」作曲:Liam Picker/西川悟平
出演:三浦貴大、阿部進之介、白石聖、池端レイナ、前原滉、池田香織、福本清三、鶴見辰吾 ほか
Ⓒ映画「栞」製作委員会
公式サイト https://shiori-movie.com/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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