サウジ検事総長がトルコ検事と会談~背景に変化しつつある中東情勢
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ニッポン放送「飯田浩司の OK! Cozy up!」(10月31日放送)に国際政治学者の高橋和夫が出演。現在の変化しつつある中東情勢について解説した。
サウジアラビアの検事総長がトルコ側の検事と会談
トルコのサウジアラビア総領事館でジャーナリストのジャマル・カショギ氏が殺害された事件を受け、サウジアラビアのモジェブ検事総長がトルコを訪れ担当検事と会談した。捜査の内容について情報交換を行ったと見られている。
飯田)トルコのアナトリア通信によりますと、この協議時間はおよそ1時間15分。詳しいことは出て来ていませんが、いろいろと情報交換をしたのではないかと言われています。これからどういう展開になりますか?
高橋)サウジの検事総長というのは、「あの事件は殺人事件だった」と認めた人です。ですから、サウジアラビアは「知らない」、「殺された事故だ」、それで今度は「殺人事件だった」と千夜一夜物語みたいに展開しています。まだ3話ですから、あと997話くらいあるのかもしれませんが。それを認めた方なので、サウジとしては精一杯譲歩したつもりでしょう。当然、トルコ側としては実行犯の引き渡しを求めていますが、サウジは自分の国で裁くのだからそれはやらないということで、最初からわかっていましたが物別れ、ということです。
ジャマル・カショギさんの祖父はサウジ王家の侍医だった
飯田)この事件、ジャマル・カショギさんがどんな人物か、「反政府のジャーナリストでヒーローだ」と書かれる一方で、王族との関わりもかなりあるという話も聞きますね。
高橋)カショギさんのお爺さんにあたる方がサウジ王家最初の王様の侍医で、カショギ一族は政権内で要職を占めてきた人たちです。そういう意味では体制派の塊だと思われていました。ところがムハンマド皇太子と交代して合わなくなって、反体制側に回ってしまった。それだけに、「こっちの人間だと思ったのに向こうに行きやがって」という怒りがあったのかもしれないですね。
飯田)なるほど。ムハンマド皇太子と言うと改革派、開明派みたいな書かれ方もしますが、王族をたくさん捕まえたりもしていますね。
高橋)汚職の嫌疑で王族を皆捕まえて、「稼いだ金を出せ」と巻き上げたりしています。いちばん大きいのは、実はイエメンで戦争をしていて、誤爆も多く沢山の子どもたちが殺されています。イエメンは食料の輸入国なのですが、港が封鎖されて入って来ないので何百万人が飢餓状態で、子供たちが本当に育たないという状況です。ですから決して明るい面だけではなく暗い面もある方なのですが、この暗い面がこれまであまり取り上げられて来なかったと思います。
飯田)欧米の新聞の風刺画などで、カショギ氏1人の生き死に関して大騒ぎしている一方で、「イエメンで何百人も死んでいるのに、君たちは何もかまわないじゃないか」というようなものがありました。国際社会がそういう動きになっているというのが。
高橋)そうですね。すべてのメディアがそうだというわけではないのですが、アメリカの代表的な新聞であるニューヨーク・タイムズの有名なコラムニストが、この人は改革者なのだとずっと持ち上げていたし、この間サウジアラビアで開かれた、「砂漠のダボス」と呼ばれている経済会議の主催団体にも、CNNやニューヨーク・タイムズとか、アメリカのリベラルと呼ばれているメディアが名を連ねていましたね。途中から皆引っ込めましたが、そういう意味では世界のメディアがきちんと仕事をして来なかったという印象は持っています。
泥沼化するイエメンとの戦争
飯田)イエメンの話が出ましたが、サウジアラビアが乗り出して行ったのは、一方でフーシ派と呼ばれる人たちのバックにイランがいる。だからイランを叩くのだといった話の文脈ですよね。
高橋)イランが関わっているのは確かで、どのくらいかは不明ですが、フーシ派にはそんなに入れ込んでいなくて、サウジがこれだけ入って行くのでイランも仕方なく入って行ったというところがあります。
サウジがこれほど介入しなければ、イランはフーシ派に頑張らないようにと、止め役に回っていた節もあるのですよね。サウジが条件反射的に大規模に入って行って、おそらくすぐ戦争に勝てると思ったのでしょう。ただイエメンはアフガニスタンのような山国で、部族の人たちで大軍を送ればすぐに決着がつくというものではありません。ベトナムのようなジャングルではないですが、サウジアラビアのベトナム戦争になっていますよね。
飯田)もう泥沼化してしまっていて。
高橋)60年代にエジプトがイエメンに介入したことがあって、ナセル大統領という人がやったのですが、結局勝てなかった。だからイエメンに入って行っても勝てっこないと我々は皆思っていました。あまり教訓を学ばない皇太子でしたね。
飯田)イエメンには何か資源が出たりするのですか?
高橋)何も無いのですよ。何も無くて貧しいから非常に強い。食料を封鎖されようがいじめられようが、普段から厳しい生活をしているから強い。アフガニスタンの人とよく似ていますね。
変化しつつある中東情勢
飯田)イスラエルと周辺各国の関係がちょっと変わって来たと、昨日の新聞で読みましたが、UAEで初めてイスラエルの国歌が流れた。この2カ国は中東戦争で戦っていたことを思うと、変わって来ているのですか?
高橋)イスラエルの柔道の選手が金メダルを獲って、イスラエルの国旗が上がり、歌が流れた。日本もそうですが、アラブ人は本音と建前があります。イスラエルとは対抗していることになっていますが、裏ではビジネスをやらないとうまく回らないところもある。そのためずっと関係はあったのですが、今回は表向きにそれが出て来たということです。そしてイスラエルのネタニヤフ首相がアラブ諸国連邦の南の国オマーンを公式訪問して、スルタンと会談するという写真が流されましたが、これも新しい展開かなと思いますね。
飯田)前から言われていた通り、イランに対して中東アラブ各国が団結するなかでイスラエルも実は居る、という話を聞きますが。
高橋)アラブ首長国連邦の方は恐らくその構図だと思いますが、オマーンというのは不思議な国で、イランと仲が悪くない。あそこに行けばイランと話ができるという国なのです。だからアメリカとイランがオバマ政権で交渉したときも、事前にオマーンにイランとアメリカの代表が行って、隠れて交渉をした。そしてうまく行きそうだということで正式に交渉を始めたのですね。今回の我々の期待は、オマーンにイスラエルが行ったということは、もしかしたらイランと話すつもりがあるのかなと、そういうメッセージなら良いなと思っています。なぜこの時期にイスラエルの首相がそこに行ったのかは我々専門家でも首を傾げていて、真意はまだ読み切れないところはありますね。
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