ビジネスで危険なメールやSNSの短すぎる文章
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「メディアリテラシー」では、フリーアナウンサー柿崎元子が、メディアとコミュニケーションを中心とするコラムを掲載している。今回は、メールコミュニケーションについて解説する。
今回はメールコミュニケーションについてお話します。
みなさんは気に入っているスタンプはありますか? メールスタンプは言葉や感情表現の代わりにSNSで使うハンコのようなものです。イラスト、デフォルメされた数字や文字。アニメのキャラクター、テレビドラマの主人公やCMの出演者がイラスト化したもの。なかには数秒ちょこっと動くものや、コメントが入っているメッセージシリーズなどたくさんのスタンプがあります。
私はあまり多くの種類を使う方ではありませんが、ある絵本作家のスタンプが気に入っています。この方はイラストレーターで、日常のたわいもない出来事やおもしろいと思うことを切り取ったイラストが、SNSを中心に話題になりました。
【メールコミュニケーション・ツールのスタンプ】
こどもをモチーフにしたイラストが何ともかわいらしく、キャラクターの表情はもとより「スゴーイ!!」「ウケるー」「許可します」などニヤッとするコメントが楽しくてよく使っています。このようにコメントがついたものは、文字を打つのが苦手な場合や、めんどうくさがりやは大変重宝します。よくできたコミュニケーション・ツールとして使い勝手がよいと思っています。
【 ! の使い方に注意】
それにしても会話が短くなっています。特にメールのやりとりにおいての会話です。そもそも「一文は短く」や「無駄な修飾語や接続詞は使わない」など、皆さんも意識していることがあるでしょう。そのため文章がどんどん短くなっています。
「おはよう」「きょうはよろしくお願いします」は、全部文字にすると長いため、「おはよう」というキャラクターのスタンプと、「よろしくお願いします」という別のスタンプを2つ選んで送るだけ。5回程度画面をタップすれば終わりなのでとても簡単です。メリットは早く頻繁にやりとりできること。即レスを心がけている人もいるぐらいです。
しかし、デメリットもあります。短い文章はダイレクトに単語の意味を反映するため、意図しないことも伝わってしまうことがあるのです。
【ビジネス文書の3大NG】
ビジネス文書において3つのNGは、1.変換ミスしない、2.記号を使わない、3.命令しない、です。
まず、ひとつ目の“変換ミス”は読み返さないことから発生します。「よそひくおねがいしもす」と送信されると、意味するところはわかりますが読み返していないことがバレバレなので恥ずかしい上に、信用度を疑われるでしょう。
ふたつ目の“記号を使わない”は、例えば「!」「?」です。これは意外に意識してない方もいるのではないでしょうか。「その程度のこと」と思わないでください。 記号は文字ではありません。記号は言葉の代用でしかないので正確さに欠け、相手によって受け止め方に違いが生じる可能性があるのです。
私は全く別の意味に取り違えた経験があります。「なるはやよろしく!!!」という文字の印象を例にとってみましょう。伝える側はお願いする気持ちを込めて、「期待しているよ」という意味で軽く「!!!」と3連発で使ったかもしれません。でも受けた私は「なるはや=なるべく早く→できるだけ早く→最速で早く→ほかの何よりも優先して早く→絶対に遅れないように」と、催促×3倍の感覚で最重要問題と捉えました。
【最大級のプレッシャーをかけられた】
つまり「絶対にミスすることができないようなプレッシャー」を「!!!」に感じてしまったのです。考えすぎと言われればそれまでですが、ビジネス上では相手と感覚が違うことがよくありますので、このようなイメージの違いを引き起こさないよう注意が必要です。また、文章が短いことで、そもそも締め切りを突き付けられている気さえします。追い立てられていると感じられても仕方がありません。
文が短くなればなるほど発信する人の思いは伝わらず、受け手に過剰な妄想を膨らませてしまうことがあるということです。クエスチョンマークも同様に、「大丈夫かな?」などと発信サイドの疑問をよりわかってもらおうと使いますが、むしろ「?」は、直球をはずす感覚、おどけた印象を持っている記号だと認識してください。同僚、友人同士で使うのがギリギリだと思います。
【意図しないデメリット】
仲間同士でいつも何気なく使用している記号ですが、上司や先輩とのメール、また、外部との正式文書では意図しない内容に発展する可能性があることを意識した方がよいでしょう。
3つめの命令形については、以前にこのコラムにも書いたことがあります。「~してください」という表現です。これはNGに挙げられます。「お願い」と「命令」はだいぶニュアンスが違うのでどうしてなのか意味が計りかねるでしょう。でも私たちは以下のような場面によく出くわしませんか?
「健康診断は11月末までに受けてください」
「シフトの変更は1週間前までに出してください」
「朝は9時までに席についていてください」
これらは「お願い」の体をなしていますが、明らかに“強制”のにおいがします。皆さんも総務や人事、自部門の部長からメールが来て、焦ったことがあるのではないでしょうか。
実際の会話では、「先日ご提案させていただいたプランについて明日までにお返事をください」と、「先日ご提案させていただいたプランについて明日までにお返事いただけますでしょうか」では、相手への印象の柔らかさがだいぶ違うと思います。
日本語における書き言葉は、単語の種類が多く、それぞれに微妙にニュアンスの違いがあるため、言葉の使い方によって、強くも、柔らかくもなります。短い文章では直接的にならないよう命令形を避けることが、ビジネスの成功の秘訣です。
【ボキャブラリーや表現を鍛える】
学生が内定をLINEで断ったとか、新入社員が上司に「遅れそう」とメッセンジャーのグループで送ったとか、びっくりするような行動がありました。LINEやFacebookで仕事のやり取りをすることは控えた方が賢明です。もちろん便利な機能はビジネスに取り入れるべきだと思いますが、オンとオフは使い分けなければなりません。
また、一度書き込んだら消えないのがSNSです。相手のメディアリテラシーを考えた上でコミュニケーションを深めましょう。信用力を無くさないように気をつけたいですね。そして、短文を直接的にしないための工夫を(記号ではなく)ボキャブラリーでしたいと思っています。日本語は同じ意味でも違う表現がたくさんあります。相手に合わせて表現力豊かに話すことこそ、理想のコミュニケーションなのではないでしょうか。
連載情報
柿崎元子のメディアリテラシー
1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信
著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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