米朝首脳会談に学ぶプレゼンテーションの印象の大事さ

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【自分ではやっているつもりは要注意】

米朝首脳会談に学ぶプレゼンテーションの印象の大事さ

会談場所のホテルで笑顔で手を振る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領=2018年6月12日、シンガポール(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

先日、史上初の米朝首脳会談がシンガポールで実現しました。アメリカの現役大統領と北朝鮮トップがはじめて直接会う世紀の一瞬をめぐって、テレビ、ラジオ、新聞、SNSではお祭り状態になりました。どのような形でメディアの前に登場するのか、初対面の瞬間はどうなるのか。握手は何秒行うのか。すでに多くの記事を皆さんは読まれたことでしょう。ちなみに、私は両者の緊張度合いに着目し、金委員長の緊張マックスを垣間見た気がしました。握手をした瞬間、金委員長は少し目線を落としたように見えて、言うべき言葉(英語)に自信がなかったのでは…という印象。また、カメラに向き直って並んだ時に一瞬、笑顔が消えた? この2点が緊張していただろう理由です。逆に「人前」は百戦錬磨、選挙で多くの支持者やメディアを前にした経験を持つ大統領には余裕を感じました。両首脳にとって初めて会う瞬間は、人前での大プレゼンテーションの場であったことは言うまでもありません。笑顔や視線、歩き方や姿勢、しぐさなど、私たちはひとつひとつの行動に何かを強く感じます。その印象という概念は満足、不満足、矛盾、あるいは統一感や不一致などの感覚を、間接的に私たちにもたらし、影響を大きく残すという意味でとても重要な概念です。


【テクニックは完璧?】

私たちが普段、人前で何かを話す場面では「何を話すか」についてかなり時間を割いて吟味するのですが、相手の印象についてはあまり気を配らないことが多くあります。例えば、こんな事例があります。知り合いのAさんから「プレゼンのテクニック」を教えてほしいと連絡がありました。Aさんは1週間後に企画の提案を控えていました。これまでも何度かプレゼンは経験しているようですが、「きょうはうまく行った」「よい感触だった」「伝えたいことが伝わった」という感覚がないとのこと。Aさんは、「自分としては、内容をしっかり伝えているつもり」と言い、よく整理された資料を使っていました。話し方は、比較的短い文章を接続詞でつなぐ方式で、会話をしていてもわかりやすいと感じる話し方です。本人も「話も長い方じゃない。ユーモアもいれている」と言っています。では伝わらないと感じる原因はなんなのでしょうか。私は「人に何か言われたことはない?」と聞いてみました。すると、「面白くなさそうとか、何を考えているかわからないと言われることがあるんだよね」と自分の印象の話が出てきたのです。


【客観的に自分を分析する】

Aさんは自分のプレゼンを客観的に自分で見たことがありませんでした。いえ、普通は自分の話している映像を見たことはないでしょう。ここに落とし穴がありました。自分がどんな風に話しているのか、どんな印象を与えているのか気づいていなかったのです。何を考えているのかわからないとか、面白くなさそうな感じと言われていたのに、自分はそのつもりがない → 相手が気づかないのが悪い → 自分はちゃんとやっている → プロからテクニックを習おうというロジックでした。Aさんは視線には気を付けているのですが、目から下の使い方が下手でした。表情がないのです。一般的に「笑ってください」というと、皆さんは口の端を引き上げます。しかし、頬骨あたりの筋肉はどうでしょうか。笑顔は口角を上げれば良いというわけではありません。口角を上げただけの笑顔はむしろ不気味な感じがします。顔全体で、おでこなど頭部、目の周辺(眉も含む)、鼻の周り、口元など表情筋をすべて使う必要があるのです。


【笑顔の作り方と表情】

まず、口を閉じた状態で奥歯をかみしめてください。その状態で口角を上げます。そして鼻から上、頬の筋肉を上げます。仕上げは目尻を下げます。いかがでしょう。「自分では笑っているつもり」が如何に笑えていないかを実感することができるでしょう。その表情を筋肉に覚えさせて、プレゼン中は常に保っていることをお勧めします。また、表情がない方は口を動かさずに話す傾向があります。いつもは口をあまり開けない形で「あいうえお」が言えるかもしれませんが、それはもったいない状態です。逆にしっかり口を開けて「あいうえお」と発音する方が口の周りの筋肉を動かすことになり、「表情」を作ることにつながります。言葉を発する際にも、頬の上の筋肉や口の周りを意識してみましょう。

米朝首脳会談に学ぶプレゼンテーションの印象の大事さ

【「思い」を語る】

印象についてもう少し掘り下げてみます。「自分はやっているつもり」は自分が主語になっています。しかし、印象とは相手が感じるものですから、主語は相手でなければなりません。相手がどのように感じるかにポイントを置き、客観的に見るためにビデオを撮影してみましょう。スマホで簡単にできますね。ます自分が何をどう話すかは相手目線で考え、表情に気を配る必要があります。私はアナウンサーなので、プレゼンのテクニックについて教えることが多いのですが、実はテクニックに溺れるとうまく行かないことも必ずお話しています。プレゼンは目的を持って相手を行動させるために行います。自己PRであれば相手に自分を知ってもらうことが目的です。好きな人を振り向かせたいと思ったら熱が入りますよね。お客様に商品を買ってもらいたかったら、一生懸命商品をわかってもらおうと話します。つまり、そこには「思い」があります。それはテクニックではありません。話す人の熱意そのものです。思いのエネルギーはあなたの話全体に好印象をもたらします。「いつのまにか話に引き込まれていた」という経験があると思いますが、話す相手の思いがあなたに伝わった瞬間です。「一生懸命だな」「話を聴いてあげたいな」といった感情を呼び起こすことも思いを語るメリットです。

米朝首脳会談に学ぶプレゼンテーションの印象の大事さ

【人前で話す極意】

ただ、この「思い」は数値化することができません。どのぐらいエネルギーを入れ込んだら伝わるのかデータを示すことができないのです。相手に話が伝わったかどうかは感覚でしかつかめません。最終的に行動に移してもらう、例えば営業であればモノを買ってもらってはじめて証明できるでしょう。ここがプレゼンの難しいところだと私は思っています。Aさんは、テクニックを教えてほしいと言いましたが、技術はすでにいろいろ身に着けていらっしゃいました。むしろ技術を追求しすぎて「企画への思い」が伝わらなくなっていました。日本人は人前で話す経験が少なく、謙遜を美徳とする文化を持つため、人前で話すことを苦手だと認識している人が多くいます。皆、苦手を克服するためテクニックを磨くことを考えます。しかし、一旦立ち止まって見てください。客観的に自分を振り返ったら、印象がイマイチ、思いを入れることを見落としているかもしれません。

柿崎元子 メディアリテラシー

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
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