コミュニケーションのために「専門用語は使わない」

By -  公開:  更新:

コミュニケーションのために「専門用語は使わない」

まもなく、3番線に電車が参ります。黄色い線の内側にお下がりください。

「The local train will arrive shortly on Track 3 , Please stand behind the yellow line」

山手線のホームに立っているとこのような英語が流れてきます。いえ、聞こうと思わないと聞こえないかもしれません。なぜなら内回り、外回り、隣のホームなどの構内アナウンスが交錯し、電車の侵入の音も耳に入り、母国語ではない言葉はほとんど耳に入ってこないからです。そもそも電車を待っている時、私はぼーっとしていることが多い気がします。みなさんはいかがでしょう。何も考えていないか、逆に考え事に集中しているか。最近は携帯を見ていることも多いですね。


【初めて聞こえてきた単語】

普段、私たちは意識的に友人の話を聴いたり、学校の先生の話を聴いたり、商談でお客様と話をしたりしています。漢字で表すなら「聴く」です。傾聴ということ言葉があるように、耳を傾けてしっかりと聞こうとします。しかし、興味がない話や、聞いたことがない言葉は、聞こえていません。耳に入ってこないのです。もちろん、他国の言葉で習ったことがない言語は聞こえたところで内容はわかりませんが、日本語でも初めて聞く単語はわかりません。習ったことがない、初めて出会う言葉。例えば「セミノールってうまいよね」と言われたらどうでしょう。セミノールは柑橘系の果物でみかんに似ています。関西方面に出回っているそうで、知っている人にはごく当たり前の果物なのかもしれません。青森県出身の私は残念ながら食べたことがありませんでした。「セミノール」と一瞬聞いて、受験ゼミナールか薬品のルミノールかと思ったぐらいです。

コミュニケーションのために「専門用語は使わない」

出展:農水省 2015年特産果樹生産動態等調査より

 

コミュニケーションのために「専門用語は使わない」

出典:大分県HPより

【カタカナは専門用語のオンパレード】

続いてちょっとしたクイズです。
以下の3つの文章を読み、何のことを言っているのか理解できる順に並べてみてください。

1.ディズニーが開発したブロックチェーンプラットフォームは、スマートコントラクトがプログラミング言語で利用できることが特徴です。
2.トランプ大統領の日・中通貨安誘導批判を受けて、NY外為市場では米系ヘッジファンドなどの動きが活発化しました。
3.心血管イベントリスクが高い2型糖尿病患者のアウトカム試験で、日本製薬のZ錠はCVリスク減少における優位性が示されました。

いかがでしょうか。たったの60文字前後の文章なのに、何度も読み返そうとしたのはないでしょうか。しかし、この場合どういう意味なのかは重要ではありません。どうして理解できないかのかがポイントなのです。なぜわからないのでしょう。それは、業界用語や専門用語が多いからです。そもそも、「ブロックチェーン」「外国為替市場」は一般的に誰でも知っている話題ではありません。「医療分野」も家族に病気の方がいれば聞いたことがある病名だと思いますが、医療関係者以外で詳しいことがわかる人は多くないでしょう。カタカナを多く使うIT、金融、医療などの他に、法律や不動産なども難しい言葉が多いと私は感じます。それでは、これはどうでしょうか。

「イミフ」「テンアゲ」「マジ卍」。

よく使うと言う人、何となくイメージできる人、まったく意味不明(イミフ)の人、様々かもしれません。テンアゲ=テンション上がるは気持ちや気分が上昇するという意味だそうです。「マジ卍」は特に意味がない時も使うらしいです。返事をしないと無視していることになるので、「とりあえず返す単語」という感じでしょうか。それにしても言葉を短縮させるのが上手だなと感心してしまいます。たとえ話が長くなりましたが、人と話をしていて相手に伝わるように話すためには、イミフな言葉を使ってはいけないことがわかっていただけたと思います。

コミュニケーションのために「専門用語は使わない」


【相手に伝わるように話すには】

私たちは会社や学校など様々なコミュニティーに属しています。ビジネスマンは社内で話す時は、会社だけで通じる言葉をたくさん使いますが、家に帰ってきてそのまま家族や兄弟に話しても全くわからないことがあります。業界で使用している業界用語は、業界の仲間内で通じても、別の業界では知らない、わからない言葉になってしまうのです。日本語であってもことばの意味がわからなければ伝わりませんので、使わないようにするのが賢明でしょう。

同じように漢字熟語を多用するのも問題です。先ほどの例でいうと、日・中通貨安誘導批判が最もわかりにくいと言えるでしょう。これはひらがなに丁寧に置き換えます。“日本と中国が通貨を安く誘導していることへの批判”という感じです。実際は通貨を安くするとは?誘導するとは?などもかみ砕く必要がありますが、とにかく漢字をたくさん並べないことと覚えてください。「動きが活発化」→「動きが活発になった」、「~における優位性」→「~にまさる性質」というふうに、漢字の熟語をひらがなに言い換えるとわかりやすくなります。私は時折、セミナーや講演を聞きに行くことがありますが、講師の方は、論文を書く研究者だったり、分析する立場にある人がどうしても多くなります。その分野のスペシャリストですから登壇する訳なのですが、往々にしてスペシャルな言葉が多く「???」となることもしばしばです。相手に伝わりやすくなるコツは、お子さんでも理解できる言葉を使うことだと言えるでしょう。

コミュニケーションのために「専門用語は使わない」

インターネットの世界では、コミュニティーを作りやすく、その中でわかる特別な言葉を使うことで、より簡単に便利に意思疎通ができるようになりました。その反面、常に同じ趣味の人と集い、自分の好きな物や人に囲まれて、異物の侵入を不快に思うことも多くなっています。それでは新しい言葉やモノには触れることができず、知らないことがどんどん増えてしまいます。人は知らないことで不安になります。外の人とコミュニケーションを取るのがさらに大変になるのです。そうならないために、好きではないことにも目を向けて、知識や教養を増やしたいですね。そして自分の伝えたいことをしっかりと伝えるために、「専門用語は使わない」を心がけて行きましょう。人前で話をするのが苦手な人こそ、聴衆との共通言語を選ぶことが大切なのです。

柿崎元子 メディアリテラシー

連載情報

柿崎元子のメディアリテラシー

1万人にインタビューした話し方のプロがコミュニケーションのポイントを発信

著者:柿崎元子フリーアナウンサー
テレビ東京、NHKでキャスターを務めたあと、通信社ブルームバーグで企業経営者を中心にのべ1万人にインタビューした実績を持つ。また30年のアナウンサーの経験から、人によって話し方の苦手意識にはある種の法則があることを発見し、伝え方に悩む人向けにパーソナルレッスンやコンサルティングを行なっている。ニッポン放送では週1のニュースデスクを担当。明治学院大学社会学部講師、東京工芸大学芸術学部講師。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修士
Facebookページ @Announce.AUBE

Page top