米中貿易協議~3月1日までに妥結できないこれだけの理由
公開: 更新:
ニッポン放送「宮家邦彦のOK! Cozy up!」(2月22日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。米中貿易協議が開始されることを受け、米中貿易関係の今後の見通しについて解説した。
米中貿易協議がスタート
アメリカのライトハイザー通商代表と中国の劉鶴副首相の協議がスタートした。アメリカが強く求める知的財産権の保護などを中心に、2日間にわたって話し合う予定と見られている。米中両政府が知的財産権や為替などの6つの分野について、覚書を作成しているところだとも報じられており、中国が踏み込んだ譲歩を示すのかが注目されている。
新行)交渉期限が3月1日に迫っていますけれど。
宮家)3月1日には終わらないでしょう。お互い、簡単に譲るわけのない人たちですから。日米の貿易摩擦に比べてみると大きく違うわけです。日米の場合は同盟国同士だったわけですから、そう滅茶苦茶なところまではいかない。しかも日本は自由民主主義でやってきているわけですから、その点では、喧嘩はするけれども、それには自ずから限界がある。
ところが米中の場合は、当然ですが同盟国ではない。しかも中国の体制は自由でも民主主義でもない。やっていることは国ぐるみの不正行為、もしくは国ぐるみの何らかの脱法行為がある。自由が制限され外国企業にとっては不利になっていて、どうも中国がうまくやっているのではないかと怒っている人たちがいるわけです。その意味では深刻だとまず思います。
2つ目に、ようやくライトハイザー通商代表と中国の副首相の協議となりましたが、このレベルで物事が決まるのでしょうか。中国の人たちから見れば、「トランプさんってちょろいんだよと、親分の習近平さんと2人で話さえすれば、話は進むんだと。だからライトハイザーさんなんかほっておけ」と思っているかもしれない。
閣僚レベルでは覚書を交わしても両論併記ばかりで決まらない
宮家)合意の内容を口頭で決められたら困るから、当然のことながら紙に書いているわけです。「こうしてああしてくれ」ということをアメリカがまず紙に書きます。それを中国が「とんでもない、そんなことできない」と反論する。そうするとその対立する部分の文言は、例えば「知的財産権については何月何日までに撤廃する」とアメリカ案を書く。それに対して中国案としては「知的財産権については最大限の努力をして撤廃するよう努める」とか書き直すわけです。両論併記になるわけです。そういう紙が分厚くできて、覚書にも両論併記の部分がたくさんできる。それを一本化しようとするから、閣僚レベルではなかなか決まらない。
トランプ大統領が即決できない2つの問題
宮家)問題はトランプさんがこれを早く決めようと思うかどうかです。だけど大統領には2つの問題がある。1つは国内的に中国に対し厳しく対応している姿と見せたい。それと同時にマーケットに対しては米中の経済関係がうまく続いていくと見せたいのです。悪い情報ばかり流れたら、株は下がるしロクなこと無いわけだから、トランプ氏もそこまで強硬策はできない。
そこを中国はちゃんと見ていて、落としどころを探している…という状況ですから、私は3月1日までに合意できると思いません。3月1日までにはトップで会わないわけでしょう。そのレベルまで持って行くためには、ある程度争点が絞られてこなければならない。その状況ではないみたいですよね。まだまだ時間かかると思います。
新行)中国側が農産物や半導体など、アメリカ産のものを10品目買うというようなことも出しているそうですが。
宮家)それはその程度のことは当然考えますよ。日本も昔やったもの。
新行)一方で安全保障の部分ですよね。
宮家)それは中国にとって1丁目1番地で、これを譲歩してしまったら、共産党の指導も無くなってしまうし、中国企業を保護するいろいろな仕掛けが全部取られてしまう。その意味では本当の自由主義になるのだけれども、そんなこと中国ができるわけない。残念ながら、私が中国だったら徹底的に抵抗すると思います。
新行)3月1日以降もこの状態が続いていくと。
宮家)3月1日をめどにやるでしょうけれど、少し遅れても首脳会談が開かれるまでには頑張ってやる。それができなければこのまま続くということではないでしょうかね。
中国のアキレス腱はどこか
新行)メールもいただいています。“はると”さんから、「米中協議が難航しそうだということですが、アメリカ、中国のアキレス腱はどのあたりだと思われますか?」といただきました。
宮家)貿易のアキレス腱で言えば、やはり中国の経済システムそのものです。透明性も無いし、政府主導で、相当外国企業に対しては不利なことを平気でやる。そして、もしかしたらサイバー攻撃などを通してアメリカの企業の秘密情報まで取っているということですから、中国の政府の物事の決定の仕方、また、政策決定のあり方自体が最大の攻防の対象だと思います。
そこが切れたらもう中国共産党は終わるから、そんなこと絶対認めないと思います。中国のアキレス腱というのは中国の体制そのもの、もしくはシステムそのもの、物事の決定の仕方そのものです。アメリカはそれを責めるけれども、それは絶対に中国は受けないでしょう。
飯田浩司のOK! Cozy up!
FM93AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。