ミーアキャットの室内放し飼いで増える思い出の数々
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【ペットと一緒に vol.143】by 臼井京音
ひょんな縁からミーアキャットを迎えた、ペット保険会社のアニコム損害保険株式会社に勤める獣医師、宮下めぐみさん。動物のプロでありながら、ミーアキャットのアリスちゃんとの生活は驚きの連続で、苦労が絶えなかったと言います。
今回は「いまでは、アリスをひとり残して旅行には行けません」と語るほどミーアキャットの虜になった、宮下さんの暮らしぶりをご紹介します。
完全フリーで生活させてあげたい!
宮下めぐみさんが縁あって生後3ヵ月余りのミーアキャットのアリスちゃんを迎えたのは、4年ほど前のこと。
「もともとウサギ、ハムスター、ハリネズミ、ニワトリ、インコなどを飼った経験があったので、犬や猫以外の動物と暮らすことにまったく抵抗はありませんでした」と語ります。
ミーアキャットは、マングース科の雑食動物。生息地のアフリカでは、30匹ほどの群れで暮らしながら、10km四方の距離を頻繁に移動しているそうです。
「本来の習性を知ると、ケージ内で過ごさせるのはストレスになると思ったので、我が家では完全放し飼いを決意。ところが、ガリガリとあらゆるものを引っ掻かれたり、どう工夫してもトイレを覚えてくれなかったり……。エキゾチックアニマルと呼ばれる野生動物を飼うのはやっぱり大変だなぁ、と最初は頭を抱える日々でした」。
アリスちゃんと暮らし始めてから、宮下さんの自宅は一気に柵だらけになったそうです。
野生の本能は、窓外を飛ぶ鳥を発見したときなどにも発揮されるとか。
「野生環境下では鳥が天敵なんです。だから鳥の姿を見ると『大変だよ~、みんな。敵が近づいて来たよ!』と、警戒音を発するんです。玄関の外で物音がしたときも同様。仲間に危険を知らせようとアリスは必死なんでしょうけれど、慌てふためく様子がすごくかわいいんですよね」と、宮下さんは微笑みます。
仲間意識が強い
宮下さんによると、群れの仲間と同調する度合いは、同じように群れで生活する犬よりも強く感じるそうです。
「私が料理をしていると、後方でアリスが両手を使って何だかゴソゴソしています。『ママが働いているから、私も働かなくっちゃ』という感じなんですかね(笑)。次にみんなで食事を始めれば、必ずアリスもテーブルと同じ高さの棚に上って来ます。だから『は~い、アリスの分ね』と、バナナをおすそ分けしたり。食後にソファに座ってテレビを観ていると、アリスもクッションを背もたれにして座ってじーっとテレビを観ているんですよ。犬や猫は、そばにいても寝てしまったりして同じ行動はしませんが、アリスはとにかく私たちと同じことをしますね」(宮下さん)。
アリスちゃんが1歳半のときに来たチワワのクレアちゃんの散歩にも、アリスちゃんは同行するのが日課です。
「アリスは好奇心が旺盛なので、散歩をとても楽しんでいるみたいです」とのことで、宮下さんの肩に載りながら外の世界を興味深そうに眺めているそうです。
夜は、アリスちゃんはテレビ台の引き出しのなかを寝床に眠るそうです。
「最初は長男の部屋にある、勉強机の引き出しがお気に入りでした。おしっこで汚されるので、なかにトイレシーツを敷き詰めて寝床っぽくしてあげたりしたんですが、何がきっかけだったのか、半年ほど前からテレビ台の引き出しに移動しました」と、宮下さんは語ります。
猫の登場で訪れた劇的変化
宮下家に、縁あって引き取ったマンチカン(猫)のジルちゃんがやって来てから、アリスちゃんに大きな変化が訪れました。
「何と、猫用のシステムトイレで排泄をするようになったんです。あんなに、あちこちに排泄をされて困っていたのがウソのよう」と笑う宮下さんは、アリスちゃんにとってジルちゃんはライバル的な存在なのではないかと分析しています。
「負けるものかと、同じ場所におしっこをしてニオイの上書きをしているのではないでしょうか」(宮下さん)。
アリスちゃんは宮下家の愛犬や愛猫、さらには、長男や次男の友人たちとも仲良くやっていると言います。
「この間も次男の友達が集まってテレビゲームをしている輪のなかに入っていました。すっかりなじんでいるのがおかしくて、つい写真を撮りましたよ」と、宮下さん。
留守番をさせたらげっそり
写真を見る限りではなごやかに思えるアリスちゃんとの毎日ですが、発情期になると性格がきつくなって咬んで来たりと、苦労もあるのだとか。
「社内にミーアキャット仲間もいるんですが、それぞれかなり性格が違いますね。アリスは、気が強いと思います」。
また、犬や猫ほど一般的なペットではないので避妊・去勢手術をする習慣もなく、病気に関しても知られていないことが多い点でも、飼育しやすいとは言えないそうです。
宮下さんが一家で旅行をしたときには、アリスちゃんはげっそりやせ細ってしまったとも。
「旅行中、ペットシッターさんに依頼したものの、まったくごはんを口にせず。ミーアキャットは、群れの秩序を乱したりした個体を追放するそうなんです。家族みんながいなくなって、アリスはきっと群れから追放されたと思ったんじゃないかな。それでショックで、食事も喉を通らなかったのかと。以来、アリスのために、長期の不在時は家族の誰かが自宅に残るようにしています」と、宮下さんは言います。
野生のミーアキャットの寿命は、約10年と言われています。
「飼育下では、15~20年と考えられているようですね。アリスとの4年余りは、初めてのことばかりで戸惑ったり笑ったり。この先10年以上、どんな思い出が増えて行くのか、楽しみです」と、顔をほころばせる宮下さん。
Webサイトのアニコム ユーでの「ミーアキャット飼育日誌」の連載などをとおして、これからもミーアキャットの役立ち情報を多くのミーアキャット愛好家に届けてくれることでしょう。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。