3.5本脚の人見知りの保護犬が救ったペットロス
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【ペットと一緒に vol.139】
ペットロス症候群に陥っていた滑川茂人さんは、動物看護師の妹さんがきっかけで、運命の犬と出会いを果たしました。今回は、滑川さん夫妻と3.5本脚の保護犬とのエピソードをお届けします。
愛犬を失ってまだ1ヵ月なのに……
滑川さん夫妻は大の犬好きで、結婚してから犬が自宅にいないときはありませんでした。ところが、2016年と2017年に相次いでシェパードミックスのらんちゃん、そしてマルチーズのクッキーくんが空へと旅立ってしまったそうです。
「もう自分たちの子供も独立して、夫婦2人暮らしでした。愛犬もいなくなると寂しさが半端なくて……。テレビに動物の姿が映っただけでも、泣いてしまうくらい。完全にペットロス状態に陥っていましたね」。
悲しみに浸っていた日々に変化が訪れたのは、茂人さんの妹さんからの誘いだったとか。
「妹は当時、ランコントレ・ミグノンと言う動物愛護団体で働いていたんです。そこに100頭にもおよぶ多頭飼育崩壊の現場から保護された一部の犬が来たんだけど、以前飼っていたマルチーズによく似ているから譲渡会に来てみないかと」。
滑川さん夫婦には「前の子が亡くなってまだ1ヵ月しか経っていないのに次の子なんて……」と、躊躇する気持ちもあったそうですが、「見るだけでも行ってみようか」と会場に足を運んだそうです。
まるで運命の出会い
譲渡会でその犬を見た瞬間、滑川さん夫妻は思わず「うわ~! かわいい」と声をあげていたと言います。
「すぐにでも抱っこしたい気分になってしまいました。ところが、その子は全然人懐っこくなくて、ボランティアスタッフさんの後ろに隠れてしまうんです。呼んでも来ません」。
その真っ白な保護犬には、シェルターで“てんご”という名前が付けられていたそうです。
「右前肢の先が欠損しているんです。人で言うと、手首から先がない状態ですね。それで、4本脚ではなくて3.5本脚だから、“.5”の部分を名前の由来にして“てんご”なんですよ」と、滑川さん。
多頭飼育されていて近親交配が進んだために、てんごくんに奇形が生じたのではないかと考えられているとのこと。
「身体の障害もあるし、性格も臆病で愛想がない。これでは譲渡先を探すのは大変かもしれないと思うと、すっかり情が湧いてしまいました」と言う滑川さん夫妻は、まずはトライアルで2週間、てんごくんと一緒に暮らしてみることにしたそうです。
義足をつけるか悩む日々
滑川さんのもとへ来たてんごくんは、散歩に出るとフリーズするは、おもちゃに興味を示さないは、女性を見ると吠えるはと少々手を焼いたとか。
「推定2歳。これまで1度も散歩をしたことがないのを知っていたので、まぁ想定範囲内ですかね。でも、妻をはじめ姪っ子など女性に吠えるのには驚きました。何か、過去に女性に虐待されたなどのトラウマがあるのでしょうか?」と、滑川さんは語ります。
そんなてんごくんでしたが、滑川さん夫妻は正式に譲渡してもらうことを決断。
「気づけば、てんごが来てから私たち夫婦に笑顔が戻り、ペットロスの状態から抜け出していたんです」。
正式に家族の一員になったてんごくんのために、滑川さんは義足を入手しようかと検討を始めたそうです。犬は上半身に全身の7割ほどの体重をかけて動くと考えられています。てんごくんの場合は、その重みを左前肢1本で支えなければなりません。
「かわいいてんごが少しでも楽な生活を送れるように、いろいろと調べました。すると、もともとあった肢を切断するなどして失った場合は義足があったほうが良いけれど、初めから足がなかったケースでは、義足をつけるとかえって違和感を感じてストレスになる可能性が高いことを知ったんです。てんごは生まれてから2年の間に、肩や左前肢の筋肉をかなりつけていましたね。3.5本脚でもそれほど不自由なく歩いていたので、義足は付けずそのままにすることにしました」(滑川さん)。
愛情を注ぐうちに現れた、てんごくんの変化
滑川さん夫婦と接しているうちに、てんごくんはどんどん変化して行ったと言います。
「まず、散歩が好きになりましたね。3.5本脚でも、元気にピョンピョンと小走りをしています。あまり負担にならないように、30分ほどで帰宅するようにはしていますが、外へ出ると笑顔ですよ」と、滑川さんは微笑みます。
ソファにも飛び乗って来て、てんごくん自ら、夫妻に抱っこをせがむようにもなったとか。
また、いままでは多頭飼育のために飲食物が行き届かなかったせいか、フードボウルに入れたごはんはもちろん、水でさえも一気にガブガブと飲み干していたそうです。それが、滑川さん宅に来てしばらくすると安心したのか、てんごくんは焦る様子を見せなくなり、必要とする分量だけを落ち着いて飲むようになったとも言います。
「相変わらず、妻の帰宅時や女性のお客さんには吠えてしまうのですが。妻も『もぉ~、女の人もそろそろ大丈夫になってよ~』と笑っているので、それもご愛敬としてとらえています(笑)。いずれにしても、てんごのおかげで私たちに毎日、笑顔が増えているのは間違いありません」。
てんごくんが滑川家の一員になって、1年余り。その間、箱根や軽井沢や山中湖にも一緒に旅行をしたそうです。これからも滑川さん夫妻の愛情を一身に受けながら、まだスタートしたばかりのてんごくんの第2の犬生は、豊かに彩られて行くことでしょう。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。