ありがとう平成! 映画と共に過ごした愛しき日々
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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第608回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
平成も残すところ、あと5日。そこで今回は、平成の世に公開された映画を振り返りながら、私、八雲ふみねの映画体験を振り返ります。
あんなコトやこんなコト。いろんなコトがありました…。
吸血鬼に魅入られ、不老不死となってしまった青年が遂げる数奇な運命を描いたホラー・ロマン『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』。永遠の命を生きるヴァンパイアの苦悩と孤独が、妖しく華麗な映像によって幻想的に綴られた耽美的な作品です。キャストもトム・クルーズ、ブラッド・ピットの2大イケメン俳優が共演と、いまとなっては考えられない豪華さ。
そんな『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』は、私にとってはある意味、運命的な出会いをした作品です。
本作の公開前、渋谷の街を歩いていると、偶然、知人と出会い 「いまから映画の試写会に行くんだけど、一緒に行かない?」と、誘われて同行することに。会場である渋谷パンテオン(平成15年閉館)に到着すると、客席は熱気にあふれ、何十台ものテレビカメラやスチールカメラがズラリ。
「テレビの撮影があるのかな…」なんて呑気に構えていると、黄色い歓声のなか颯爽と登場したのは、主演のトム・クルーズ! 知人にノコノコとついて行った場所は、何と来日中のトム・クルーズをゲストに迎えたプレミア試写会の会場だったのです!
当時の私は、まさか自分が映画コメンテーターとして、テレビ、ラジオ、Web等のメディアを通じて映画を紹介したり、映画イベントで司会を務めることになるとは、まったく頭をよぎったことはなく…。しかしいま、トム・クルーズやブラッド・ピットをはじめとする映画スターの方々とご一緒させていただく度に、あのときの光景を思い出し、あの場所に行くことになったのは決して偶然ではなかったのだという、“縁(えにし)”のようなものを感じずにはいられません。
もしも平成6年当時の、のほほんと生きていた私に会えるなら「あなた、いま目の前にいるトム・クルーズと一緒に仕事することになるんだよ!」と伝えたいです。
「歌えば死ぬ」という呪いの歌“伝染歌”が引き起こす恐怖を描いた都市伝説ホラー映画『伝染歌』。ヨーロッパで自殺ソングとして知られる「暗い日曜日」をモチーフに、『着信アリ』シリーズをヒットさせた秋元康が企画・原作を手がけ、AKB48が映画初出演を果たしたことでも注目されました。
メンバーは大島優子、秋元才加、前田敦子、小嶋陽菜、河西智美、小野恵令奈、峯岸みなみ、野呂佳代、宮澤佐江、高橋みなみ、…と、AKBグループを平成ナンバーワンのアイドルグループへと躍進させた初期メンバーがズラリ。その顔ぶれに懐かしさを覚える人も多いのではないでしょうか。
『伝染歌』と聞いて思い浮かぶのは、1日4回、8日間にわたって開催された「ギネスに挑戦!30回連続舞台挨拶」。AKB48の皆さんとご一緒に、毎回、池谷幸雄さん、稲川淳二さんをはじめとするスペシャルゲストをお迎えしてお届けした、まさに怒涛の8日間。1回1回、一所懸命ステージを務めるAKB48のメンバーの皆さんの姿は初々しく、私も毎回、心が洗われる思いだったのをいまでも覚えています。
平成19年、私にとっても“青春”と呼べるような、暑い夏でした!
2004年に公開され、日本をはじめ世界中で大ヒットを記録した「エイリアンVS.プレデター」が、スケール、アクションなどフルバージョンアップした『AVP2 エイリアンズVS.プレデター2』。公開当時はツッコミどころ満載な本作に不満(?)を漏らすファンも多かったものの、改めて観てみると『エイリアン』シリーズや『プレデター』シリーズへのオマージュや小ネタも盛り込まれており、コレはコレで楽しめるのかも…と、私のなかでは最近になって評価がちょっぴり上がった珍しい1本です。
さて、珍しいと言えば、本シリーズの試写会会場。2004年公開の『エイリアンVS.プレデター』は、作品の舞台が南極大陸の地下600メートルにある巨大ピラミッドということで、選ばれたのは北海道と青森県を海底で結ぶ青函トンネル内。そして、平成の天皇誕生日である12月23日に開催された『AVP2 エイリアンズVS.プレデター2』ジャパンプレミアの地は、富士山麓に広がる青木ヶ原樹海。
富士の樹海と言えば、毎年自殺者が多く発見されることでも有名なスポット。そんな場所で、何故、『AVP2』のジャパンプレミア??? と、きっとお思いでしょう。
本作でエイリアンとプレデターが激突するのが“山林の町”ということから、“日本でもっともエイリアンとプレデターの激突がふさわしい場所”として、樹海が選ばれたとのこと。そんな史上初のジャパンプレミアの司会として私もファンの皆さんと一緒に富士の樹海を歩きましたが、前日までの大雪の影響で足元はぬかるみ、映画さながらのサバイバルを体験?! 異色の映画イベントで司会を務めることが多々ある私ですが、実はこうした奇想天外な企画は大好物。
ただし…。平成19年、世間で言うところの”クリスマス休暇”に富士の樹海を歩く自分にアドバイスを送るなら、「防寒はしっかり!」の一言に尽きますね。ロケは、暑さ寒さ対策が大切です!
“太陽の沈まぬ国”とまで称せられた栄華が少しずつ陰り始めた17世紀のスペイン王国を舞台に、孤高の剣士アラトリステの愛と闘いの日々を壮大に描いた スペイン映画『アラトリステ』。今年度アカデミー賞で作品賞に輝いた『グリーンブック』で、イタリア系ボディガードを熱演したヴィゴ・モーテンセンが主演。アメリカの俳優でありながらすべてスペイン語で演じるという離れ業を成し遂げている1作です。
映画のプロモーションで海外からキャスト・スタッフが来日する際、裏側では様々なドラマが展開されています。突然のアクシデントにより来日そのものが中止になったり、予定どおりゲストが到着しなかったり…ということも、ごく稀にあります。
この『アラトリステ』公開直前、ヴィゴ・モーテンセンの来日時には、エアチケットのトラブルのため約束の日時に到着できず、このままでは日本でセッティングしていた来日会見もプレミアもすべてキャンセルになってしまうかも…という事態が発生。
普通ならそこでリスケになってしまいそうですが、そこは不屈の男・ヴィゴ様。「必ず日本に行くから!!!」と、日本の配給会社スタッフに連絡が来たかと思うと、彼は少しでも速く日本に到着するルートを自力で検索。エアチケットを自ら手配し、トランジットを繰り返し、約束どおり日本にやって来たのです。
プレミア会場で待つ私たちの前に現れたヴィゴは、一睡もせずに着の身着のままで、さすがに疲れた様子。しかし大勢のファンを目の前にすると、すっかり優しい表情を見せてくれました。
平成20年、強烈な記憶に残る俳優さんに出会った年でした。
平成23年以降、映画館の閉館が続きました。特にミニシアターの激戦区だった渋谷エリアは、1980~90年代にミニシアター文化を形成した“単館系”と呼ばれる映画館が相次いで閉館。その一方でシネコンの数が急激に増えたのも、平成映画興行の大きな特色と言えるでしょう。
そんななかで、私にとって特に強烈な印象として残っているのが、銀座シネパトスの閉館です。晴海通りの真下に潜り込むように存在した、この映画館。ビルの階段を降りて行くと“昭和”の香りが漂う異空間が目の前に広がり、まるでタイムスリップしたかのような味わいがありました。しかし、銀座のど真ん中に立地する映画館なのに、施設そのものは決して恵まれた環境下にあるとは言えず…。
と言うのも、映画館のすぐ上は地下鉄の線路。電車が通過する度に映画館が揺れ、ゴーゴーと走行音が鳴り響くという有り様。壮大なクライマックスも感涙必至のシーンも、映画の世界にじっくり浸るムードなんてなかったかもしれません。しかも上映ラインナップは、往年の名画からインディペンデント映画、B級・C級、Z級(?)まで、何でもアリ! “銀座シネパトス”が映画文化そのものと言っても過言ではないほど、不思議な魅力に包まれた映画館でした。
盛大に行われた閉館イベントでは劇場支配人から直々に司会を仰せつかり、銀座シネパトスを愛した映画関係者、そしてファンの皆さんと共に劇場との別れを惜しみました。最後に上映された作品は、銀座シネパトスを舞台に、銀座シネパトスのために作られた、映画『インターミッション』。映画になぞらえて、「銀座シネパトスはインターミッション(休憩)に入ります。またどこかでお会いしましょう!」と、涙ながらに挨拶した鈴木伸英支配人の姿が、いまでも瞼に焼き付いています。
平成25年、昭和から平成にかけて映画ファンに愛された名物映画館が、半世紀の歴史に幕を降ろす瞬間に立ち会うという、貴重な体験をさせていただきました。
平成は私にとって、映画に広く深く接した時代となりました。映画館という暗闇のなかに身を置き、スクリーンに吸い込まれるかのように登場人物たちの人生を“疑似体験”できるのは、映画の魅力のひとつでしょう。私はやっぱり、映画が、そして映画館という空間が大好きです。
「令和」という元号は、飛鳥時代に定められた最初の「大化」(645年)から数えて248番目の元号。奈良時代に編まれた日本最古の歌集「万葉集」からの出展により命名され、元号が漢籍(中国古典)からではなく、国書(日本古典)から引用されたのは初めてとのこと。
日本に現存する最古の和歌集に相応しく、令和の世が、映画に限らず豊かな日本文化が育まれる御世になることを切に願っています。
<作品情報>
インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア(1994年公開)
DVDリリース、デジタル配信中
監督:ニール・ジョーダン
出演:トム・クルーズ、ブラッド・ピット、アントニオ・バンデラス、キルスティン・ダンスト、クリスチャン・スレーター、スティーヴン・レイ
公式サイト https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=4206伝染歌(2007年公開)
DVDリリース、デジタル配信中
監督・脚本:原田眞人
原作:秋元康
出演:松田龍平、大島優子、秋元才加、前田敦子、小嶋陽菜、堀部圭亮、阿部寛、伊勢谷友介、AKB48AVP2 エイリアンズVS.プレデター2 (2007年公開)
DVD&Blu-rayリリース、デジタル配信中
監督:コリン・ストラウス、グレッグ・ストラウス
出演:スティーヴン・パスカル、 レイコ・エイルスワース、ジョン・オーティス、ジョニー・ルイス、アリエル・ゲイド
公式サイト http://www.foxjapan.com/aliens-vs-predator-requiemアラトリステ(2008年公開)
DVDリリース
監督・脚本:アグスティン・ディアス・ヤネス
原作:アルトゥーロ・ペレス=レベルテ
出演:ヴィゴ・モーテンセン 、エドゥアルド・ノリエガ、ウナクス・ウガルデ、ハビエル・カマラ、エレナ・アナヤ、アリアドナ・ヒルインターミッション
DVDリリース
監督:樋口尚文
出演:秋吉久美子、染谷将太、香川京子、小山明子、水野久美、竹中直人、佐野史郎、佐伯日菜子、中川安奈、ひし美ゆり子、畑中葉子、水原ゆう紀、夏樹陽子、寺島咲、杉野希妃、上野なつひ、大島葉子、勝野雅奈恵、中丸シオン、森下悠里、奥野瑛太、森下くるみ、岡山天音、門脇麦、小野寺・グレン・光、玄里、与座重理久、大瀬康一、古谷敏、中丸新将、大野しげひさ、利重剛、樋口真嗣
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/