横綱・鶴竜が「ひと味違う優勝」と言った3つの理由

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、7月21日の大相撲名古屋場所で7場所ぶりの優勝を飾った横綱・鶴竜関にまつわるエピソードを取り上げる。

横綱・鶴竜が「ひと味違う優勝」と言った3つの理由

【大相撲七月場所】祝勝会で鯛を手にする鶴竜。左は井筒親方=2019年7月21日 サイプレスガーデンホテル金山 写真提供:産経新聞社

「ひと味違う優勝でした」

21日にドルフィンズアリーナで行われた大相撲名古屋場所・千秋楽。4大関が全員休場するという異例の場所になりましたが、両横綱が最後まで優勝を争ったことで、何とか面目を保った格好になりました。

結びの一番は、1敗の鶴竜が、1差で追う白鵬と激突。立ち合い、鶴竜は上手を取られましたが、すぐに巻き替えて左四つへ。さらに白鵬のスキを突いてもろ差しにすると、一気に寄り切りました。

鶴竜は、7場所ぶり6度目の優勝。40秒9の長い相撲でしたが、相手の得意な右四つになるのを阻止し、時間をかけて優位を拡大して行った鶴竜の執念が光る一番でした。くしくも鶴竜はこの日、幕内出場1000回を達成。その節目の日に、令和になって初の優勝を決めたのです。

ところで、優勝後のインタビューで、鶴竜が「ひと味違う優勝」と言ったのには、3つの理由がありました。1つめは、

「名古屋ではまだ優勝していなかった。ここ3年間は途中休場。このままじゃ終われないと思っていたので、優勝報告ができて最高です」

過去、東京(両国)・大阪・福岡で賜杯を手にしている鶴竜ですが、唯一名古屋だけは“無冠”の場所でした。しかも名古屋場所は、3年連続で場所中に休場。年に1場所しか自分の相撲を観る機会がない名古屋のファンに、申し訳ないという思いもあったのです。

2つめは「ケガとの戦い」です。

実は名古屋場所が始まる直前の7月1日、鶴竜は出稽古先で腰痛に見舞われました。かかりつけの医師から安静にするよう指示され、初日(8日)まで6日間、まわしも着けられない状況が続きました。

しかし鶴竜は、名古屋場所を4年連続で休むわけにはいかないと、ぶっつけ本番で初日に臨みました。朝稽古も1日おきに減らし、極力腰に負担をかけないよう配慮。場所中も毎日治療を受け、長い相撲は腰に響くため、速攻を心掛けました。

「少しずつ良くなった。相撲に集中して、腰に負担をかけないようにやった」

結果的に、新しい相撲のスタイルも発見でき、これはまさにケガの功名でもありました。13日目、平幕の友風に不覚を喫しましたが、その後も崩れずに自分の相撲を取り続けた精神力も、大きな勝因となりました。

3つめの理由は、「白鵬に勝って優勝した」ことです。

横綱同士の対戦ですが、過去の対戦成績は、鶴竜の7勝41敗。大きく水をあけられており、鶴竜にとって白鵬は、まさに“天敵”でした。鶴竜は、本割で負けても決定戦で勝てばいいという優位な立場でしたが、この対戦成績に加えて、白鵬には過去何度か、千秋楽で優勝をさらわれた苦い経験があるのです。

2012年3月の春場所、当時関脇だった鶴竜は、14日目を終えて13勝1敗。優勝争いの単独トップに立っていました。大関昇進はほぼ決まっていましたが、このとき鶴竜を追っていたのが、すでに横綱になっていた白鵬でした。

初優勝で大関昇進を飾りたいという思いがプレッシャーになったのか、鶴竜は千秋楽、豪栄道に敗れ、白鵬に並ばれてしまいます。決定戦でも白鵬に敗れ「本当に情けなかった」と言う鶴竜。

その2年後……大関時代の14年1月、初場所の千秋楽では、1敗の鶴竜が全勝の白鵬に土を付け並びましたが、決定戦でまたしても白鵬に敗れました。その悔しさをバネに、続く春場所で14日目に白鵬を破ってトップに立ち、千秋楽も琴奨菊に勝って悲願の初優勝。同時に、横綱昇進も決めたのです。

あれから5年……ともに綱を張り続けて来た、鶴竜と白鵬。千秋楽で宿敵・白鵬に勝って優勝を決めたのは初めてのことで、7場所ぶりの復活Vは、その意味でも鶴竜にとって格別の味がする優勝だったのです。

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