北極の世界でいちばん大きな島、グリーンランドの暮らしに触れる
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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第660回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。支配人の八雲ふみねです。シネマアナリストの八雲ふみねが観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、7月27日から公開の『北の果ての小さな村で』を掘り起こします。
シンプルでしなやかな生活の向こうにある“本当の豊かさ”とは…
北極に位置し、国土の80%が氷河に覆われている世界最大の島、グリーンランド。この氷の大地の沿岸部には4000年以上も前からイヌイット族が住みつき、厳しくも豊かな大自然とともに暮らしています。
そんな地元の人々とデンマーク人教師との交流を描いたフランス映画『北の果ての小さな村で』。2018年サンダンス映画祭ワールドシネマ部門に出品されるなど、世界各国の映画祭で注目された作品が日本にやって来ました。
監督は、初長編作でヴェネチア国際映画祭批評家週間作品賞の受賞歴を持つサミュエル・コラルデ。グリーンランドに魅了され、2年の歳月をかけて旅して回ったコラルデ監督がたどり着いたのは、グリーンランド東部にある人口わずか80人の小さな村、チニツキラーク。
この地にデンマークから新人教師が赴任するという情報を知ったコラルデ監督は、その青年を主人公に据え、彼らの生活を捉えた映画を撮影したのです。
チニツキラークの小学校に赴任して来た28歳のデンマーク人教師、アンダース。家業の農業を継ぐか否かを迷った末の“自分探し”の選択だったが、そんな甘い考えはすぐに打ち砕かれる。極寒の地での慣れない生活に加え、言葉も習慣も異なる生徒たちとはうまくコミュニケーションが取れず、散々な有様。さらに村人の“ヨーロッパのよそ者”への視線は厳しかった。
ある日、生徒のアサーが連絡もなしに1週間欠席する。アンダースはアサーの家を訪ね、祖母のトマシーネに毎日学校に来させるように伝えるが、彼女の答えは意外なものだった。
「アサーの夢は、猟師になること。人生に必要なことは、すべて祖父のガーティが教えてくれるわ」。アンダースはアサーのために自分ができることを模索するが…。
登場人物すべてが本人を演じ、リアルとフィクションの間を行き来するという異色の演出方法が光る本作。どこまでも広がる雪原や雄大なフィヨルドなど、手つかずの豊かな自然が眼前に広がり、その美しさには圧倒されるばかり。
そしてその大自然の下、伝統を守りながら暮らす村人たち。その生活は決して便利なものではないけれど、足ることを知りシンプルに生きる姿から、“本当の豊かさ”とは何かということについて考えさせられることでしょう。北限の地にある“かけがえのない世界”に触れてみて。
『北の果ての小さな村で』
2019年7月27日(土)からシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
監督・撮影・脚本:サミュエル・コラルデ
音楽:エルワン・シャンドン
プロデューサー:グレゴワール・ドゥバイ
脚本:カトリーヌ・パイエ
出演:アンダース・ヴィーデゴー、アサー・ボアセン、ガーティとトマシーネ、ジュリアス、トビアス、チニツキラーク村の人々
(C)2018 Geko Films and France 3 Cinema
公式サイト http://www.zaziefilms.com/kitanomura/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/