春限定版も登場! 沼津の名物駅弁「港あじ鮨」は、どのように作られるのか?

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【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

メディア作品とコラボレーションしたまちおこしで話題の静岡県沼津市。最近は、いわゆるコンテンツツーリズムを超えて、作品の聖地に住みたいという移住の動きも広がっていると伝えられています。そんな沼津は、古くは城下町にして、東海道の宿場町。そして港町、さらには「鉄道のまち」として栄えてきた歴史もあります。今回は、沼津駅のアジを使った名物駅弁の製造に密着いたしました。

N700S新幹線電車「のぞみ」、東海道新幹線・三島~新富士間

N700S新幹線電車「のぞみ」、東海道新幹線・三島~新富士間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第49弾・桃中軒編(第1回/全6回)

東海道新幹線でよく富士山が見える区間といえば、三島~新富士間。車窓に富士山が広がると、車内のいたるところから、スマートフォンのカメラのシャッター音が聞こえてくることもしばしばです。やっぱり駅弁を美味しくいただくには、最高の車窓と言ってもいいでしょう。でも、この美しい富士山が眺められるところを通過してしまうのは、本当にもったいないもの。今回は富士山も眺められる三島駅ホームで販売されている駅弁の製造元を訪ねました。

株式会社桃中軒本社

株式会社桃中軒本社

三島から在来線の東海道本線で1駅、沼津駅南口から沼津港行の路線バスに揺られて15分ほど、沼津港のすぐ近くにあるのが、沼津駅・三島駅の駅弁を製造・販売している「株式会社桃中軒」です。訪れた日は天候に恵まれ、沼津港からも雲一つない富士山が、顔をのぞかせてくれました。桃中軒は明治24(1891)年創業、130年以上の歴史ある鉄道構内営業者。「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第49弾は、この桃中軒に注目します。

港あじ鮨

港あじ鮨

桃中軒の名物駅弁といえば、何といっても「港あじ鮨」(1080円)。平成15(2003)年の登場で、発売20年を超え、着々とロングセラー駅弁への道のりを歩んでいます。登場時はニッポン放送でも盛んに「港あじ鮨」のラジオコマーシャルが放送されました。駅弁業者のCMは各地域だけで流れているものがありますが、「新作駅弁」に特化したスポットCMは、放送局に出入りしている私でも、珍しく感じたものです。

港あじ鮨の盛り付け

港あじ鮨の盛り付け

●3つの味が楽しめる「港あじ鮨」!

「港あじ鮨」は、酢飯に山葵の茎を混ぜ込んで山葵の葉で巻いた「にぎわい鯵鮨」、特製の酢と昆布で〆た鯵をにぎり風にして、しその葉で巻いた「ぬまづ鯵鮨」、そして、鯵に大葉とごまを合わせて海苔で巻いた「鯵わい太巻き」の3つの味が楽しめる鯵の寿司です。盛り付けは、「鯵わい太巻き」、「にぎわい鯵鮨」、「ぬまづ鯵鮨」の順に進んでいきます。ベテランの方も多く、一度流れ始めると、手際よく盛り付けられていきます。

港あじ鮨の盛り付け

港あじ鮨の盛り付け

手作業で近海もののアジをさばき、昆布で〆て、1日寝かせてから作られているという「港あじ鮨」。現場の方に伺うと、山葵やしその葉を巻いたり、太巻き寿司などを作るのも、最終的には1つ1つ手作業で仕上げていると言います。加えてアジをはじめとした魚は、個体差が大きいため、素材の良さにこだわりながら、1つ1つの弁当をほぼ同じ分量に仕上げていくところにもご苦労があるということでした。

港あじ鮨の盛り付け

港あじ鮨の盛り付け

●自分ですり下ろす、伊豆天城産のわさび

そして、桃中軒の駅弁では外せないのが、おろし金も付いた「自分ですり下ろすわさび」。「港あじ鮨」では、3種類の寿司が盛り付けられたあと、醤油と共に盛り付けられていきます。このわさびには地元である静岡・伊豆天城産のものが使われています。わさびをモチーフとしたプラスチック製の“おろし金”は、現在のものが2代目。卸器の突起部分の改良や葉っぱの部分を持ちやすくするといった、すり下ろしやすくする改良も行われたと言います。

港あじ鮨の包装

港あじ鮨の包装

3種類の寿司とわさび・醤油・おろし金が折箱に詰められると、セロファンを挟んでふたをされたあと、割り箸と一緒に機械で帯を施されて、独特な形をした箱に詰められていきます。これにて「港あじ鮨」の盛り付け完了。これに値札などが貼られると、三島駅の南口や、新幹線の待合室やホームに複数ある売店、さらに沼津駅南口の改札脇にある売店へと運ばれていきます。

【おしながき】
・にぎわい鯵鮨(山葵葉巻き)
・ぬまづ鯵鮨(しその葉にぎり)
・鯵わい太巻き
・伊豆天城産本山葵
・ガリ

港あじ鮨

港あじ鮨

桃中軒によると、発売から20年以上経ったいまもお客様に受け入れてもらっているのは、酢で〆すぎず、昆布で〆た、酸っぱすぎないアジの美味しさが第一。そして、すり下ろしていただく伊豆天城産のわさびに加え、茎わさびを酢飯に混ぜ込んだり、わさびの葉っぱを使うといったわさびの隠し味ではないかと分析していると言います。静岡近海のアジに加え伊豆天城のわさびを手間を惜しまずに使うことで、沼津らしさが際立つ「港あじ鮨」です。

港あじ鮨(春限定)

港あじ鮨(春限定)

この「港あじ鮨」ですが、例年3月1日から4月30日の間は、「春限定バージョン」として販売されています。「春限定」が通常と異なる点は、「ぬまづ鯵鮨」に使われているしその葉が、「桜の葉」になること。ふたを開けた瞬間から、フワッと桜の香りが広がる、春らしさ満点の駅弁です。ちなみに、桜餅などに使われる桜の葉は、全国の約7割が伊豆半島にある静岡県松崎町で生産されており、じつは「ご当地らしさ」も満点なのです。

313系+211系電車・普通列車、東海道本線・原~片浜間

313系+211系電車・普通列車、東海道本線・原~片浜間

春の青春18きっぷシーズンも始まって、東海道本線を走る普通列車も、いつもより多くの人で賑わうこの時期。3月16日のダイヤ改正からは、熱海~浜松間を直通する列車も増えるようですが、青春18きっぷで長旅をするときのポイントは、しっかりと食事や休憩を取ること。列車代を浮かせたら、食事にはちゃんとお金をかけたいものです。次回は明治時代から東海道の旅人のお腹を満たしてきた桃中軒のトップに話を伺っていきます。

連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/

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