ジャーナリストの視線の先にある、“戦場”という現実
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【しゃベルシネマ by 八雲ふみね 第687回】
さぁ、開演のベルが鳴りました。支配人の八雲ふみねです。シネマアナリストの八雲ふみねが観ると誰かにしゃベりたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
今回は、9月13日から公開の『プライベート・ウォー』を掘り起こします。
“伝説の記者”メリー・コルヴィン、その壮絶な半生に触れる
世界各国の戦地に赴き、レバノン内戦や湾岸戦争などを取材。2012年にシリアで命を落とした実在の女性ジャーナリスト、メリー・コルヴィン。
紛争に巻き込まれた人々について伝えることを信条に、危険な場所に長く身を置くことも厭わない。その勇気と献身的な取材ぶりから“生きる伝説”と称えられた彼女の半生を映画化した『プライベート・ウォー』が公開となります。
エール大学を卒業後、UPI通信を経て、英国サンデー・タイムズ紙の特派員として活躍するアメリカ人ジャーナリスト、メリー・コルヴィン。
2001年、スリランカ。ジャーナリスト入国禁止を無視して潜入したスリランカ内戦の取材時に、手榴弾の破片が当たり、メリーは左目を失明する。しかし黒い眼帯姿をトレードマークに、自分の天職だと自負する戦場記者の仕事に邁進していた。
そんな最前線での過酷な体験は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)となって彼女に襲い掛かる。1度は病院での治療に同意したものの、彼女を駆り立てるのは、現場に復帰したいという思いだった。
そして、2012年。過酷な状況で包囲されている28,000人の市民の現状を伝えるため、シリア入りしたメリー。砲弾の音が鳴り響くホムスから、チャンネル4・BBC・CNNの英国公共放送全局が同時ライブ中継を行うという、彼女の記者人生において、もっとも危険で過酷なレポートに挑むが…。
本作のメガホンを取ったのは、オスカー候補にもなった『カルテル・ランド』をはじめ、骨太なドキュメンタリーを手掛けて来たマシュー・ハイネマン監督。単なる伝記映画としてではなく、戦場に魅せられてしまった女性の苦悩や葛藤、恐怖をリアルに描き切り、その壮絶さにただただ目を奪われるばかり。
そして、反逆精神溢れるメリーを演じたのは、ロザムンド・パイク。全身全霊をかけた演技は、まるでメリー・コルヴィンが乗り移ったかのよう。彼女が体現した強く逞しく美しいメリーの生き様は必見です。
サンデー・タイムズに寄せた最後の特報記事で、メリー・コルヴィンはホムスの様子をこのように残しています。
「ここは、砲弾と銃撃戦の音がこだまする冷気と飢えの街だ。人びとのくちびるは、こう問いかけている。『私たちは世界から見捨てられてしまったのか』」
自らの使命に燃える戦場での凛々しさとは裏腹に、私生活では酒とタバコに溺れていたメリー。その姿に「何故、そこまでして戦場に赴くのか」と、心が痛くなってしまいますが、それでも「現地に行ってみなければ分からないことがある」という信念が彼女を突き動かしていたのでしょう。
世間の関心を紛争地帯に向けようと努めたジャーナリズム精神が、痛切なまでに伝わって来る1作です。
『プライベート・ウォー』
2019年9月13日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督・製作:マシュー・ハイネマン
脚本・製作:アラッシュ・アメル
製作:シャーリーズ・セロン
出演:ロザムンド・パイク、ジェイミー・ドーナン、トム・ホランダー、スタンリー・トゥッチ
主題歌:アニー・レノックス「Requiem for A Private War」
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公式サイト http://privatewar.jp/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/