ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月28日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。イスラム国の指導者アブバクル・バグダディ容疑者がアメリカ軍によって殺害されたニュースについて解説した。
アメリカ軍、イスラム国最高指導者バグダディ容疑者を殺害
アメリカのトランプ大統領は、アメリカ軍がシリアで26日夜に過激派組織イスラム国の指導者アブバクル・バグダディ容疑者らを標的とした軍事作戦を実施、バグダディ容疑者が死亡したと発表した。バグダディ容疑者はトンネル内で追い詰められ、自爆ベストを起動させて3人の子どもと共に死亡した。
飯田)イスラム国が首都としていた北部のラッカは、2年余り前に陥落していますが、今回はイドリブ県というところで作戦行動が行われ、殺害されたということです。
トルコ軍が匿っていたバグダディ容疑者の殺害を容認した理由
須田)今回、作戦行動を行ったのはデルタフォースという特殊部隊で、かつてアルカイダのオサマ・ビンラディン氏が殺害されたのも、このデルタフォースによるものでした。今回のニュースで注目していただきたいのは、イドリブ県で今回の事件が起こったということです。ここはイスラム国最後の拠点と言われていますが、その一方でトルコ軍が駐留していたところです。これは未確認情報ではありますが、バグダディ容疑者はトルコ軍が匿っていたのではないかとずっと言われていて、この数年行方がわからなかった。
シリア北部に安全地帯を設立することはトルコの悲願だった
須田)ではなぜトルコ軍が殺害を容認したのかを考えると、その数週間前に、シリア北部の安全地帯を設定するということが決まりましたよね。アメリカ・ロシアの協力の下、安全地帯が決まったのだけれども、トルコにとっては安全地帯、中立地帯を作って、そこにトルコ国内のシリア難民を移送するということは悲願だった。これに対して、ロシアとアメリカが協力体制を取ったということもあり、ある意味でその見返りに今回の一件が起こったのではないかということです。そういった確実な情報・状況がなければ、デルタフォースが展開するはずもないだろうと思います。
飯田)しかも安全地帯を作って、兵力の引き離しも行うと。一方にはクルド人の人たちがいて、そこも叩きたいというのがエルドアン政権としてはあったわけですよね。その辺りも含めて、包括的な取引もあったのですかね。
アメリカに対し大きなカードを切ったトルコ~クルド人武装勢力も一掃
須田)クルド人の組織も、いくつかのグループに分かれています。そのなかには過激派もいます。あまり報道されていないのですが、その過激派がトルコ国内でテロ活動を行っているのです。トルコとしては、絶対に容認できない。ただ、それはクルド人武装勢力の大きな一塊の一部ですから、そこだけを切り分けて攻撃するのは、トルコ軍もなかなかできない。だから全体攻撃になる。そういう仕組みになっているのです。それについてもロシア・アメリカとの間で、トルコは何らかの話し合いの結果が出たのではないかと考えられます。だから最終的な総仕上げとして、バグダディ容疑者の引き渡しという対応をとったのではないかなと思います。
飯田)ある意味で対アメリカと考えると、トルコにとって一部言われていることが事実であれば、大きなカードだったわけですよね。それをどこで効果的に切って来るのかがポイントだった。それが今回のタイミングだったということですか?
須田)そして、そういった状況を前提とするならば、アメリカ軍のシリア撤退は揺るぎないものになるのだと思います。
飯田)最初にトランプさんのツイッターに出たのは、ここ1ヵ月もないくらいのタイミングだったではないですか。そう考えると、全部が連なっているわけですよね。
須田)そうですね。ですから不安定であり緊張が高まっている中東で、まさかトルコがシリアに軍事侵攻するとは誰も想定していなかったのです。ただ、それをやらなければ安全地帯ができなかったということではないかと思います。
飯田)そして、それを列強各国に認めてもらうためには、このカードも切ると。
須田)最終的に切ったということだと思います。
飯田)一方で先ほど引き合いにも出た、オサマ・ビンラディン氏の殺害は2011年5月でしたが、このときも翌年に大統領選挙があった。今回も翌年には大統領選挙があります。
須田)トランプ大統領がわざわざ10時間以上前、日本時間10時に記者会見をすると言った。その前段でCNNがスクープ報道をしています。盛り上げるだけ盛り上げておいて、あそこで記者会見というのは計算づくではないかと思います。一方で、ウクライナ疑惑を抱えているではないですか。それについても、今回のことでカバーしようとしているのではないかと思います。
アメリカのシリア撤退への説明ができ、ロシアとも対立構造ではないという国内向けのメッセージ
飯田)今回の記者会見で、トランプさんはわざわざロシアやトルコの協力と、クルド人の協力だということも出していました。その辺を出したのは、ロシアとの間に疑惑があると言われていたけれども、目的のためにはきちんと手を組むのだというところもアピールしたわけですかね。
須田)そうですね。加えてシリアからの一方的な米軍撤退は、アメリカ国内、共和党からの批判が強かったではないですか。それに対するきちんとした説明ができた。しかもそれはロシアとの対立構造ではなく、アメリカはロシアともトルコともうまくやっているのだという、国内向けのメッセージになったのではないでしょうか。飯田さんが言われたように、大統領選挙を強く意識した行為ではないかなと思います。
飯田)このところ言われていたトランプ批判のようなものの根拠が、これで崩れたことになるわけですか?
須田)そうですね。だからシリア撤退に関して、トランプ大統領のやっていたことは正義であり、結果的にイスラム国の事実上の崩壊まで持って行ったのだと。「その功績は大きいよね」というムードを、アメリカ国内に作ろうとしていると考えてもらっていいと思います。
飯田)またイスラム国ですが、この先リーダーがいなくても、テロ活動が続くのではないかという指摘もあります。これはどうですか?
トルコの後ろ盾を失い、存続の可能性の低くなったイスラム国
須田)まだ裏が取れていない話ではありますが、国際情報機関筋では、そもそもイスラム国に対してトルコは水面下で協力していたのではないかと言われていました。だから最終的にトルコが匿っていたという話につながるのですが、つまりトルコの協力がなければ、イスラム国そのものが存続して行けない。一体どこから彼らは、武器やエネルギーを調達していたのかという問題になりますからね。
飯田)原油の密輸出もトルコ経由でと、あの当時は言われていましたよね。
須田)エルドアン大統領の親族が絡んでいるという話もあって、それに対する証拠も突きつけられていました。ですから今回、トルコがイスラム国から完全に手を切ったということで、ますます存続する可能性は低くなるのではないかと思います。
飯田)そうすると、新たな勢力が出て来るのか、中東が安定して行くのかどうか。
須田)テロ組織、軍事組織を必要とする国が出て来ない限り、大きな広がりは持たないのではないかと思います。
飯田)トルコも中東におけるプレゼンスを示すために、サウジアラビアやイラン相手に使えると思った。そうすると次のスポンサーが出ない限り、ああいうものは出て来ない。
須田)トルコとしては、シリアとの国境地帯に非武装地帯を作るという大きな目標があったわけです。それを実現した以上、トルコにはもうイスラム国は不必要だということです。
飯田)こう言っては何ですが、用済みだと。恐ろしい世界ですね。そうすると次に不安を持っているのは、サウジアラビアなどですか?
須田)そうですね。サウジアラビア、イランです。
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