ヤフーとLINE……IT企業の統合劇で浮き彫りになったこと
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「報道部畑中デスクの独り言」(第161回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、11月18日に行われたヤフーとLINEの統合記者会見について---
「あれ、逆だな。待てよ……うん、やっぱり違うな」
IT企業の統合記者会見で、最初に目に飛び込んで来た光景でした。
11月18日午後5時、東京都内のホテルで開かれたヤフー(正式には親会社のZホールディングス しかし以下「ヤフー」と記す)とLINEの記者会見。印象的だったのは両社の社長のネクタイでした。
ご存知の通り、ヤフーのコーポレートカラーは赤、LINEのコーポレートカラーは緑。しかし、会見場に現れたヤフーの川辺健太郎社長のネクタイは緑、LINEの出澤剛社長は赤…それぞれ逆の組み合わせで、融合をアピールしていました。
「世界をワクワクさせる最強の“ワンチーム”へ」
冒頭、ヤフーの川辺社長はラグビーになぞらえたフレーズを繰り出し、出澤社長とがっちり握手を交わしました。
ヤフーとLINEとの経営統合。LINEの通信アプリの利用者はおよそ8000万人、ヤフーのサービス利用者は5000万人。統合により、両社を合わせた売上高は楽天を抜いて、国内のネット業界ではトップに立つことになります。ただ、これはスタート地点、世界の…とりわけアジアでの覇権争いに備えるという意図が見えて来ます。
「強いものがどんどん強くなって行く構造。他の産業よりもその流れが非常に大きい。気づいたタイミングには何もできなくなっている可能性があるというのが、このビジネスの恐ろしいところ」(出澤社長)
ヤフーやLINEも国内では有力IT企業の一翼を担いますが、アメリカではGAFAと呼ばれる「グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン」、中国ではBAT「B=バイドゥ、A=アリババ、T=テンセント」という大きな勢力があります。
IT業界の覇権争いが激しいなかで、いわば日本勢は小粒で半ば「置いてけぼり」の状態…この現状に対する危機感が、今回の統合に進んだ背景の1つであることは間違いないでしょう。
ただ、統合によって何をしたいのか…これについてははっきりとは語られませんでした。唯一、具体的だったのは今年(2019年)、各地で起きた災害にちなんだ「世界最先端の防災支援システムの構築」でした。
「AIテックカンパニーとして世界をリードする」(川辺社長)
IT業界でお題目のように言われるのは、この「AI=人工知能」に「プラットフォーム」「ビッグデータ」です。プラットフォームとは周囲より高い場所、台地のような存在を指します。そのままの意味で使われているのは鉄道の駅のプラットフォームですが、それが転じていつしか「基盤」や「土台」を意味するものになりました。
自動車でも骨格にあたる部分は、プラットフォームと呼ばれます。インターネットの世界では各種サービス……キーワード検索やSNS、通信販売、「○○ペイ」に代表されるキャッシュレス決済など…その基盤、土台となるシステムがプラットフォーム、これらを持つ企業は俗に「プラットフォーマー」と呼ばれます。ヤフーもLINEも、プラットフォーマーの一種です。
プラットフォーム=土台ですから、すべてのものの基礎になりえます。例えば、先ほど申し上げた検索、SNS、通販、金融……これらはパソコンやスマホでおなじみですが、こういったサービスから提供者が得る情報、いわゆる「ビッグデータ」はさまざまなところに応用できます。
私たちが何気なく行っている「検索」も、これだけでは単なる事実の断片ですが、積み上げると、ユーザーの関心や興味を示す「情報」となります。こうした情報を膨大に収集することによって、グーグルはユーザーの興味に対応した広告を出し、巨額の利益を挙げて来ました。
また、画像認識や音声認識と呼ばれる技術も、ビッグデータやAIによる学習で高度化して来ました。こうした技術は「IoT(Internet of Things)」と呼ばれるインターネットとモノがつながる社会、あるいは自動車の自動運転にもつながって来る技術です。「プラットフォーマーを制する者が世界を制す」と言われる所以です。
「いまあるものの単純な組み合わせだけでは道半ば」
出澤社長は会見でこのように語りました。これまでの「検索」「通販」「SNS」「スマホ決済」というサービスの延長線上にとどまるものなのか。新しい分野に切り込んで行くことになるのか…注目したいと思いますが、いずれにしてもこれまでの「検索大手のヤフー」「SNSで支持を得るLINE」「スマホ決済の○○」というようなくくり方では、この業界の全貌を理解できなくなって来ると思います。
一方、今回の経営統合には、「群戦略」という多額の出資を進めるソフトバンク・孫正義会長兼社長の「野望」も見え隠れします。
会見で川辺社長は「これに関してはあまり関与して来なかった」と、孫氏の直接の関与を否定しましたが、孫氏からは報告の際、「いままでになかったような課題解決につながるようなことをしない限り、やってる意味はないからね」と、くぎを刺されたそうです。
折りしもソフトバンクグループは先の決算では、投資事業の巨額損失によって連結で営業赤字となりました。今回の統合劇は反転攻勢の一手ではないか……そういう風にどうしても見えてしまいます。
こういった統合は多くの課題も抱えています。独占、寡占を進めることにもなるため、独占禁止法の審査というハードルも立ちはだかります。法体制の整備を進めながら、こうした産業を日本はどう育んで行くのか。
また、巨大化する一方のビッグデータがもたらす「監視社会」が生まれる可能性について、人々はどう向き合って行くのか…これらについてはまた機会を改めて論じて行きたいと思いますが、今回の統合劇はさまざまな面で、いまの社会に一石を投じたことは間違いないようです。(了)