中村医師殺害は政治目的のプロの仕業~犯行グループの正体は
公開: 更新:
ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月5日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。アフガニスタンで医師の中村哲さんが殺害された事件について解説した。
政治目的のプロの仕業
アフガニスタン東部で医師の中村哲さんが殺害された事件。中村さんを乗せた車を襲った武装集団が警備員を先に銃撃し、その後に運転手と中村さんを撃った可能性があることがわかった。武装集団が中村さんに狙いを定め、警護のいない状態で銃撃できるよう計画を練って犯行に及んだものと見られる。
森田耕次解説委員)アフガニスタン東部・ナンガルハル州で4日、福岡市のNGO(非政府組織)「ペシャワール会」の現地代表で医師の中村哲さん73歳が殺害された事件。詳細が徐々にわかってきました。目撃者の情報によると、中村さんを襲った武装集団は男4人前後で、2台の車に分乗して現場近くのレストランにやってきたということです。中村さんの車がレストランに近づくと、男らは駆け寄って車の両側から銃撃を始め、最初にボディーガードを殺害したということです。銃声が一旦途絶えると「誰も生きていないな」と生死を確認する声が聞こえ、その後さらに複数回の銃声が聞こえたということです。そして、武装集団の男たちは「終わった。行くぞ」と話し、車で去ったということです。男たちはスカーフなどで顔を覆ってはおらず、アフガニスタンで一般的な民族衣装「サルワール・カミーズ」を着用していたということです。今回の事件について、菅官房長官が4日午前に記者会見を行いました。
菅官房長官)中村医師を含む方々が犠牲になったのは痛恨の極みであります。今回の卑劣なテロは許されるものではなく、我が国はこれを断固非難し、今後とも政府として日本人の安全確保のために全力を尽くしていくと共に、アフガニスタンの平和と発展のために引き続き貢献していきたい。
森田)いまのところ犯行声明は出ていないのですが、ロイター通信は支援活動に関して中村さんが標的になっていた可能性があると伝えています。
佐藤)中村先生をはじめ、亡くなった方のご冥福をお祈りします。関係者の皆さんにはお悔やみ申し上げます。これはプロの仕業ですよ。計画的です。しかも、目的は物盗りとかではないです。明らかに政治目的でしょう。
和平を阻止し、戦いを続けたい勢力か
佐藤)いま、アメリカのトランプ大統領がアフガニスタンのタリバンと話をして、和平に向けて動こうとしていますよね。
森田)和平協議も行っていますね。
佐藤)これを阻止したいグループがやったのではないかと私は見ています。要するに、アフガニスタンのタリバンやイスラム国もネットワーク上の組織で、上位解脱で命令の通るような組織ではないのです。そうすると、和平の実現に利益を見出していない人が中村先生のような国際的に著名な人物を殺害することによって、アフガニスタン情勢は到底安定していないということで戦いが続くことを狙っているのだと思います。
森田)ジャララバードを含むナンガルハル州では反政府武装勢力のタリバンが活動していますし、和平交渉については2018年の7月にトランプ政権が和平協議を始めるということで、今年に入って一旦基本合意して、決裂した時期もありましたが11月にトランプ大統領が和平協議を再開すると表明したので、これに対するタリバンのなかでの分裂があると。
佐藤)タリバンはパシュトゥーン族という人たちが中心なのです。これはパキスタンとアフガニスタンにまたがっているのです。両方の国境管理ができていませんからね。なので、国際的な広がりを持っている可能性は十分にあります。
森田)タリバンそのものは事件への関与を否定する声明を出しているのですが、これはあくまでも本体の話なのですね。
佐藤)その周辺においてはさまざまなことをする人たちがいるわけなのです。
森田)そもそも国際テロ組織のアルカイダを匿っているということで、このタリバン政権に対してアメリカが軍事攻撃を始めてタリバンは敗れたのですが、自爆テロなどを行う反政府組織という形で残っているのですよね。
佐藤)それから山岳地帯ですから、アメリカが山岳地帯を完全に武力で制圧することはできないのです。これはかつてソ連がアフガニスタンへ侵攻したときも山岳地帯を制圧することはできませんでした。ですから、地政学的にアフガニスタンを制圧することは無理なのです。
犯行声明を出さずに疑心暗鬼に陥れるやり方
森田)一方でIS(イスラム国)については11月にガニ大統領が「壊滅した」という宣言をして、12月1日までの1ヵ月でISの戦闘員や家族ら1000人以上が政府に投降し、弱体化が指摘されているということですけれども、ISもまだまだアフガンにはいるということで。
佐藤)ISというのもきちんとした組織ではなくて、「俺はISだ」という看板を勝手にかけて始めてしまうのです。ですから、完全な根絶は無理なのです。
森田)今回の犯行はどちらなのか、どういうものなのかまだわかってはいないのですが、こういう過激派組織のなかの一部の可能性が非常に高いのですね。
佐藤)その可能性は非常に高いと思いますし、犯行声明を出さないで誰がやったかわからないという疑心暗鬼に陥れるというのが彼らのやり方なのです。
森田)こういうさまざまな組織がいるなかで、中村さんは医師として、また農業の灌漑に携わっている人ですよね。
佐藤)信念を持って行かれているわけで、ここは非常に難しい問題なのですよ。もし危険な場所に近寄らないということでしたら、こういう活動はアフガニスタンだけでなく中東でもそうですし、アフリカでも中南米でもまったくできなくなってしまうわけです。
森田)ご遺体は首都・カブールに安置されていまして、中村さんの奥さんと長女、ペシャワール会の事務局の3人が早ければ6日に日本を出発するということです。ご遺体の搬送については外務省や現地の大使館が対応に当たるということです。それから、菅官房長官によりますと、テロなどに対処する政府の海外緊急展開チームを現地に派遣することも検討しているということです。日本人が殺害されたということですから、刑法上でも外国に派遣して調べることができるわけです。
佐藤)国外においても殺人事件ですから、これは調べることができます。それと同時にこの人たちは情報収集の専門家でもありますから、どういう背景があるのかという事情についても調べてくると思います。
トランプのタリバンとの和平協議の方向性は変わらない
森田)アメリカはこれからアフガニスタンに対してどういう関与をしていくのか、基本的には撤退していく方向ですものね。
佐藤)その方向性は変わらないと思います。
森田)トランプさんとしては選挙のときも言っていたようなことですしね。
佐藤)ですからトランプの発想は、ここのところは自分たちで平定されない。となると、アメリカが退いてしまったらまた内戦になるのですよ。どのグループが指導力を取るのかと。それに対して外部勢力が介入しないと、お互いの力の均衡ですみ分けがなされるということをアメリカは考えているのだと思います。これはかつてアフガニスタンから撤退した後のソ連が考えたことなのですが、大国が関与しないとその隙間にアルカイダが入ってきてしまったわけですよね。ですから、アメリカが関与を緩めた場合には新たなISの拠点となって、それがアフガニスタンから中央アジアへ拡大していく可能性があります。非常に複雑になっています。
森田)トランプ政権はタリバンとの和平協議をどうやって進めていくのかというところも気になります。
佐藤)特に考えはないのでしょうね。今回の件でトランプが和平交渉をやめる方向に動くのかというと、そうはならないと思います。アメリカはいまの既成方針通りで、とにかくこれはタリバンがやっていることではない、何か跳ね返った分子が行ったという整理をするでしょう。私はタリバン本体との関係は非常に曖昧で、タリバンネットワークのなかで起こったことだと見ています。
ザ・フォーカス
FM93AM1242ニッポン放送 月-木 18:00-20:20
番組情報
錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。