北朝鮮のエンジン燃焼実験は、振り向いてくれない米への“パフォーマンス”

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ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月12日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。北朝鮮のICBMエンジン燃焼実験について解説した。

北朝鮮のエンジン燃焼実験は、振り向いてくれない米への“パフォーマンス”

北朝鮮の労働新聞が2017年3月19日掲載した、東倉里の「西海衛星発射場」で行われた高出力ロケットエンジンの地上燃焼実験の写真(コリアメディア提供・共同) 写真提供:共同通信社

北朝鮮、エンジン燃焼実験成功か

北朝鮮が7日、北西部の東倉里(トンチャンリ)にある衛星発射場で、エンジン燃焼実験を実施して成功したと見られるとアメリカのシンクタンクが公表した。これは最新の衛星写真に基づく分析によるもので、大陸間弾道ミサイルなどに使用されるエンジンの実験と見られている。

森田耕次解説委員)アメリカのシンクタンク戦略国際問題研究所は、北朝鮮が7日の午後に行った「重大な実験」というのは、北西部東倉里(トンチャンリ)の西海(ソヘ)衛星発射場でのエンジン燃焼実験で、成功した、という分析結果を公表しました。ICBM(大陸間弾道ミサイル)などに使用されるエンジンの実験と見られています。今回の実験は商業衛星で把握が難しい時間帯に準備されていまして、実験の兆候もわかりづらくなっているという分析をしているということです。こうしたなかで国連安全保障理事会は11日、北朝鮮の核ミサイル開発に関する公開会合を開きました。議長国・アメリカのクラフト国連大使は北朝鮮に対し、「我々が何かをする前にすべてやれとは求めていない。アメリカは柔軟に対応する用意がある」と述べ、非核化に関する米朝交渉に復帰するよう呼びかけております。

佐藤)今回は液体ですよね。ということは、技術的に大きな進歩があったわけではありません。固体は長期間燃料を装填したままで大丈夫ですが、液体だとだいたい3日以内くらいに撃たなければいけないのですよね。だから、兆候を掴みやすいのですよ。それから、わからないようにやっているとは言っても、わかるわけです。どういうことかというと、「もっとこっちを向いて」というメッセージです。悪ガキが、好意がある子に今までは消しゴムを投げていたのだけれど、それでは振り向いてくれないから画びょうを投げ始めたような感じです。しかも、トランプ自身は北朝鮮と話をしてもいいと思っています。明らかに国防総省や国務省との間に距離があるわけですからね。トランプは北朝鮮のメッセージを聞いて何か反応するのではないでしょうか。

森田)先日の朝鮮労働党副委員長の談話のなかでは、トランプ大統領のことを「もうろくした老いぼれと呼ばざるを得ない日がまた来るかもしれない」と激しい言葉で非難していましたよね。

佐藤)でも、いまのところは呼んでいないということですよね。それから、金正恩が言わない限りは大丈夫なのですよ。前に言ったのは、「チビのロケットマン」と言われたからですよね。そこから交渉が始まったわけですから、北朝鮮としてもアメリカがこっちを向いてくれないから画鋲を投げ始めたということだと思います。

北朝鮮のエンジン燃焼実験は、振り向いてくれない米への“パフォーマンス”

南北軍事境界線がある板門店で握手するトランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2019年6月30日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

トランプに再選してほしい北朝鮮

森田)金正恩朝鮮労働党委員長は「年末に最終判断をする」と言っていますので、この年末にかけてのICBM発射再開を含めて何かが起こるのではないかと警戒感が高まっています。

佐藤)警戒感を高まらせて、アメリカの関心を向けるということです。実際にICBMを撃ったらそこで終わりになることはよくわかっていますから。あともう1つ、それをやっていたらトランプの外交は何なのだ、と国内的にトランプが2018年の6月にシンガポールで会ったことが失敗だということになります。そしたら選挙には不利になります。北朝鮮としてはなんとしてでもトランプに再選して欲しいですから、決定的にマイナスになることはしないと思います。

森田)北朝鮮はトランプさんに再選して欲しいのですね。

佐藤)そうです。そうしないと、シナリオが全部崩れてしまいます。トランプと北朝鮮は上手くいっているのです。問題は、トランプ以外のアメリカです。国防総省や国務省、或いは議会。エスタブリッシュされたアメリカとトランプの間の溝があって、そのなかでトランプを振り向かせたいというのが北の狙いです。よく見ていると思います。

森田)考えた行動だということですね。

佐藤)我々が完全に牙を失っているのではないのだ、ということを見せないと交渉できないじゃないですか。

森田)ただ、アメリカも国連安保理で公式会合をしました。いま議長国ですから、短距離のミサイルでは音沙汰なしだったのが、今回は会合を呼びかけてということですから、方針転換という気がしないでもないです。

佐藤)確かにそれはそうですが、じゃあ北朝鮮に制裁を加えられるのかと言ったら、これはロシアと中国が拒否権を発動します。形だけだと思いますね。

緊張感を高めつつ大きなことはしない

森田)アメリカはビーガン北朝鮮担当特別代表が、来週にかけて日本と韓国を訪問する方向で調整しているということで、板門店(パンムンジョム)での北朝鮮側との接触も模索しているのではないかという報道が出ています。アメリカ側が動き出すという形になってしまいますね。

佐藤)譲歩したという形が見えないようにしつつ、どうやって譲歩するのかというのがトランプの宿題ですね。

森田)この年末、緊張感が高まっている雰囲気には見せているけれど、それほど大きなことは起きないかもしれないということですね。

佐藤)大きなことが起きないと見ています。ただ、そういう雰囲気が北朝鮮にとってはよくないのです。放っておいてもいいとアメリカに思われるから、何か起きるという雰囲気にしなければいけません。

ザ・フォーカス
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パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。

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