NHKのネット常時同時配信~誰が地上波を観ているのか
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月15日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。日本の放送メディアの未来について解説した。
NHKの放送とネットの常時同時配信を総務省が認可
総務省は14日、NHKがテレビ番組を放送と同時にインターネットでも配信する常時同時配信の計画を条件付きで認可した。同時配信は4月から始まる見通しで、追加の受信料なしにスマートフォンなどで番組を観ることができるようになる。
飯田)視聴スタイルの変化に対応して行くということになっています。
佐々木)いまさらというか、5年くらい前にやっておくべきだったのですよね。なぜすぐにできなかったのかというと、民放連が「民業圧迫である」と反対していたからなのです。要するに、「NHKばかりが観られるようになって、我々が観られなくなる。民放はネット配信できていないのにNHKだけできるのはけしからん」ということなのですが、民放は完全に敵を間違えています。NHKを敵だと思うからそうなってしまうわけで、気が付いたら何が起きているのかというと、10代~20代の若者は地上波をほとんど観なくなり、いまはユーチューブです。昔は子どもの知っている有名人はお笑い芸人でしたが、いまのいちばんの有名人は、ユーチューバーのヒカキンさんです。30、40、50代の大人はどうしているのかというと、地上波をだんだん観なくなって、いまはネットフリックスやアマゾンプライムビデオ、あるいはフールーです。さらに2020年からは日本でも、アップルTVプラスというアップルのネット配信が始まります。また、日本ではまだですが、ディズニーがディズニープラスというものをやっています。
飯田)アメリカでは、ネットフリックスと2分するくらいの人気だそうですね。
佐々木)アメリカのアカデミー賞ノミネートが14日に発表されたのですが、24部門がネットフリックスです。
飯田)お金のかけ方がまったく違うと。
テレビからスマートフォンへ~視聴インフラの変化
佐々木)いまや有名監督の映画が映画館ではなく、ネットフリックスで観られるような時代になって来ているわけで、テレビは梯子を外されつつあります。日本の現状で、地上波を常時観ているのはお年寄りだけという状況になってしまっています。もちろん、単独の番組で人気のものはあります。例えば、テレビ東京でやっている『孤独のグルメ』、NHKの『NHKスペシャル』『チコちゃんに𠮟られる!』などです。しかし、それは単体として観られているわけで、今後はもっと簡単に、ティーバーやNHKオンデマンドのようにネット配信で気軽にその番組だけを観られるようになれば、どんどんそちらへ流れて行くでしょう。昔のように1日中テレビをつけて、いつでもCMが流れている状況はなくなって来ています。
飯田)5歳になるうちの子どもは、普通にテレビを観ていることもありますが、ユーチューブはテレビについているので、それで観ています。たまにテレビ放送を観ていると「もう1回、戻して」と言うのです。生放送という概念の境目がないのですよね。
佐々木)最近の赤ちゃんは、テレビ画面を触ってスワイプさせようとするらしいですね。
飯田)うちは紙焼きの写真もそうでした。スワイプしようとしていましたね。そこにゾッとするものを感じたのですが。
佐々木)でも、その世代が大人になったら、全然違う世界になるのではないでしょうか。
飯田)結局、これはテクノロジーの変化で、ある意味インフラとコンテンツが完全に分かれるというか。
AIによるインフラとコンテンツの再統合が行われつつある
佐々木)インフラとコンテンツが分かれつつも、ネットフリックスではAIが分析して人気のものを流すようになって来ているので、もう1回統合されつつあるのですよ。
飯田)佐々木さんが光文社から出された『時間とテクノロジー』に、垂直統合と水平統合という話が出ていますね。
佐々木)水平になって1度分離されたものが、AIとデータによって2回目の垂直統合が始まるという話を書いたのですが、そういう状況なのです。
飯田)ネットフリックスやフールー、ディズニーもそうですが、インフラを持っているところから逆算してコンテンツをつくると。
佐々木)ヤフーの時代にはヤフーが基盤だけ提供していて、そこに流れるニュースは新聞社や出版社が提供していました。ネットフリックスはコンテンツを自分たちでつくっていますからね。
飯田)しかも、潤沢な予算を投じて。
ラジオの今後~アメリカではスマートスピーカーの普及でポッドキャスト・ユーザーが増加
佐々木)ラジオはどうなのでしょうか?
飯田)ラジオはネット常時配信については先行している部分があって、ラジコというプラットフォームに、ほとんどの会社が参加しています。
佐々木)いつでも聴けるようになって、復権しつつありますよね。
飯田)行動を制約せず、耳だけというところが強みなのかもしれません。
佐々木)アメリカはポッドキャストが盛り上がっていて、ポッドキャストに新ビジネスとして参入するスタートアップが増えています。スマートスピーカーが普及したのが大きいようですね。画面がなくても「ニッポン放送を聴かせて」と声をかければ流れ始める技術が出て来たおかげで、インフラとしては音声コンテンツが整いつつあります。ここに上手くビジネススキームを乗せることができれば、ラジオは十分に再生の可能性があるので、日本でも頑張って欲しいですね。
飯田)ネットやテレビの配信もそうですが、需要としてはオンデマンドですよね。生放送を見るのではなくて、自分の見たいときに見たいものを見る、聴きたいときに聴きたいものを聴くという方向へ変わって行くのですね。
佐々木)例えば、この番組を聴きたい人は潜在的にはたくさんいるはずなのだけれど、朝の6時~8時という時間帯が上手くマッチングされていない可能性があったり、そもそも番組自体が認知されていなかったりします。メディアや政治の状況に対して一定の見方を提示していて、それを知りたいと思う人はいるはずです。そこに刺さることができればもっと聴かれると思うので、現状はミスマッチですよね。
放送メディアが今後生き残るために必要なこと
飯田)日本の放送局が、ある意味コンテンツをつくるところに特化して、その伝送経路は従来の電波やインターネットなどさまざまなものを駆使して行きます。今後ラジオ局はコンテンツメーカーになるのか、それともそこから垂直統合のところへ進めるのか。
佐々木)現状、ラジコのような形で水平分離して、誰にでも知られる基盤をつくらなければいけないと思うのです。
飯田)広く認知されることが、まず必要だということですね。
佐々木)それが上手く行き渡った後に、AIやデータを駆使してリスナーのマッチングへ移るのではないでしょうか。現状はラジコをすべての人が聴いているわけではないですし、日本だとまだスマートスピーカーはそこまで普及していません。インフラがまだ整っていない部分があるのではないかと思います。
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