遠藤と北勝富士 絶好調の2人に共通すること

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、大相撲初場所で横綱・大関相手に初日から3連勝した2人の平幕力士、遠藤関と北勝富士関にまつわるエピソードを取り上げる。

遠藤と北勝富士 絶好調の2人に共通すること

【大相撲一月場所(初場所)3日目】○遠藤(つきおとし)豪栄道×=2020年1月14日 両国国技館 写真提供:産経新聞社

「しっかり体が動いてくれてよかった」(遠藤)

「自分の圧力で横綱が引いてくれるのは頭に入っていた。(場所前、鶴竜に)何番も胸を貸してもらい、成果が出た」(北勝富士)

“令和最初の初場所”はいきなり大荒れです。3日目(14日)は先場所優勝の横綱・白鵬が平幕相手に連敗。もう1人の横綱・鶴竜も敗れ、揃って金星を配給しました。2横綱がともに1勝2敗となり、白鵬は4日目から休場を発表。大関・豪栄道も初日から3連敗。もはや誰が優勝してもおかしくない雰囲気になって来ました。

荒れる初場所を演出しているのが、初日から横綱・大関相手に3連勝した2人の平幕力士、遠藤(東前頭筆頭)と北勝富士(東前頭2枚目)です。

名門・日大相撲部出身で、入門からわずか3場所で新入幕を果たした遠藤。大相撲人気の火付け役となりましたが、2015年3月の春場所で左膝前十字じん帯と半月板を損傷。以後も故障に悩まされ、幕内の上位と下位を往復するもどかしい日々が続きました。

先場所(2019年11月・九州場所)は7勝8敗と負け越し、2場所務めた小結から平幕に陥落。この初場所は遠藤にとってまさに正念場でした。

初日、横綱・鶴竜を破って幸先のいいスタートを切ると、2日目は白鵬と対戦。遠藤と白鵬には“因縁”がありました。先場所(九州場所)12日目に当たった両者。立ち合い、白鵬は左の張り手と右のかち上げを繰り出し、これをまともに食らった遠藤は鼻血を流し、敗れたのです。

この一番については、「白鵬のかち上げは、ヒジ打ちではないか?」と見る向きも多く、白鵬が右ヒジに巻いたサポーターも物議を醸していました。横綱審議委員会も「横綱として見苦しい」と白鵬に苦言を呈しましたが、白鵬は「かち上げは禁じ手ではない」と反発。

そんな因縁をファンも知っていたので、この一番は立ち合いから異様な熱気に包まれましたが、白鵬は何と、先場所同様に左から張って出て、右のかち上げを繰り出したのです。

ところが……先場所と違って、遠藤はしっかりと対策を練っていました。左に動きながら当たって、右からのかち上げを回避。そして、かち上げに行ったためにがら空きになった白鵬の脇を狙って、左を深く差しました。

不利な態勢になった白鵬は、何度か強引に投げを打ちましたが、遠藤はこらえ、逆に切り返すと、白鵬は背中から土俵に落ち、国技館には座布団が舞いました。

勝った瞬間、舌をペロリと出した遠藤。普段、土俵上で喜怒哀楽を見せない遠藤にしては珍しいシーンでしたが、そもそも白鵬が下位力士にこんな鮮やかな技を食らって敗れるのも、めったにないことです。

国技館にこだました「遠藤コール」は、因縁を知るファンからの「よくやった!」というエールであり、白鵬も「ちょっと強引に行きすぎた。相手にうまさがあった」と素直に遠藤を称えました。

初日から2日連続の金星は99年秋場所の栃東以来、戦後3人目の快挙でしたが、遠藤は余勢を駆って3日目も大関・豪栄道を破り3連勝。今後の星次第では優勝争いにも加わりそうな雰囲気で、「人気の遠藤」がいよいよ「実力の遠藤」に脱皮するかもしれません。

もう1人、波乱の立役者となったのが北勝富士です。こちらは初日に豪栄道、2日目に貴景勝と両大関を撃破。3日目は横綱・鶴竜と対戦しました。

場所前、北勝富士は出稽古で鶴竜に連日胸を借り、厳しい稽古を付けてもらっていました。その“恩返し”は本場所の土俵でするのが、相撲界の流儀です。

北勝富士は、鶴竜の押しに耐え、強烈なのど輪を繰り出し対抗。我慢比べとなりましたが、横綱が一瞬引いたスキを北勝富士は見逃しませんでした。一気に押し出し、自身通算7個目の金星を獲得。みごと“恩返し”を果たしてみせたのです。

北勝富士は4日目、白鵬との対戦が組まれていましたが、横綱が休場したため不戦勝。平幕で横綱・大関総なめという快挙を果たしました。こちらも遠藤同様、優勝争いに絡んで来るかもしれません。

一躍、初場所の主役になった遠藤と北勝富士ですが、実は両者には共通点があります。答えはともに“新婚さん”。

遠藤は昨年(2019年)5月に一般女性と極秘入籍。そのことを昨秋明らかにしました。長年暮らした追手風部屋を出て新生活をスタートさせたことが、このところの安定した成績につながっているようです。

また北勝富士も、婚約中だった4歳年上のOLと1月6日に入籍。姉さん女房は料理上手だそうで、食生活でも関取を支えています。

「(いつまでも)金星を獲っている場合じゃない。三役に定着しないと話にならない」と、さらなる番付アップを目指す北勝富士。家庭を持った責任感が、2人の大活躍の秘密かもしれません。

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