千代田区立麹町中学校・工藤勇一校長 × 大橋未歩 対談インタビュー
<第4回>
2014年から千代田区麹町中学校の校長を務める工藤勇一氏。宿題、定期テスト、固定担任制の廃止など、異例の改革を次々と行う手腕には多くのメディアが注目し、麴町中学には文部科学省など全国の教育関係者が視察に訪れる。その大胆な改革の根底にある子育て論についてまとめた『麴町中学校の型破り校長 非常識な教え』(SB新書)を著した工藤校長に、フリーアナウンサー・大橋未歩がインタビュー。ニッポン放送「大橋未歩 金曜ブラボー」(2019年12月20日放送分)での対談の再録として、全4回にわたりお届けしている。
■あまりにも他の国と違い過ぎる日本の子ども
手段が目的化している日本の教育には無駄なことが多い――――こうした前回・第3回の話に続く今回は、そんな日本の子供たちが持っている意識についての課題から。
【工藤 勇一 氏 プロフィール】
1960年、山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部を卒業後、山形県と東京都の公立中学校で教員。その後、東京都や目黒区、新宿区で教育委員会に勤め、2014年から千代田区立麴町中学校の校長に就任。麴町中学では宿題の廃止、定期テストの廃止、固定担任制度の廃止など異例の改革を実行。その日常識とも言える改革は多くのメディアで取り上げられ、麴町中学には文部科学省など全国の教育関係者が視察に訪れるようになった。
(※以下、「――――」部分はインタビュアー・大橋のコメント)
――――日本の子どもたちを見ていて、大人に対して失望しているのではないかというところが怖いのですが、どのように変えていこうと取り組まれているのですか?
工藤:日本財団が調査を行った「18歳意識調査」(2019年11月30日発表)というものがあります。これは世界9ヵ国の17歳から19歳の男女1,000名ずつくらいを対象に調査したものがあるのです。これを見ると、日本の教育が何とかしなければいけないところまできているというのがわかります。例えば、「自分を大人だと思う」と答えた日本の子どもは29.1%しかいません。他の国はインド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツの結果があるのですが、ドイツだったら82.6%。アメリカは78.1%、イギリスは82.2%、中国は89.9%。
――――日本と全然違いますね。
工藤:「自分は責任のある社会の一員だと思いますか」という回答、インドは92%です。中国も96.5%。イギリスも約90%、アメリカも90%、ドイツも80%を超えています。なのに、日本は44.8%。
――――そんなに低いのですね。
工藤:あまりにも他の国と違い過ぎます。日本の子どもたちが子どもなのですよね。「自分の国に解決したい社会課題がある」と答えている人は、インドは90%近いです。アメリカも80%。なのに、日本の子どもたちは46.4%。愕然としますよね。
――――先生の最終的な上位目的はそこですよね。考えられて、大人は素敵じゃないかと思って貰える子どもを育てるという。
■子どもたちに経営権を与えている
工藤:日本のいまの教育って、学校に来れば来るほど「社会ってとんでもないところ」「大人ってとんでもない人たち」「魅力のない人たち」「大人になんてなりたくないよね」という声が聞こえてきます。でも、本当は学校に来たら「世の中はまんざらでもないし、大人って素敵」「はやく大人になりたいな」「社会の一員として課題解決をしたい」と思って欲しいですよね。
――――いま彼らには、「大人になったって何も変えられない」という諦めの感情があるように感じてしまうのですよね。
工藤:「自分で国や社会を変えられると思う」という質問があって、これがめちゃくちゃ酷いのですよ。日本の子どもたちは18.3%しかいません。他の国と比べたら、ものすごい差です。イギリスは50%を超えていますし、アメリカは65.7%。日本の子どもたちは、自分の力で国や社会を変えられないと思っています。だから、卒業して「僕は政治家になりたい」という子が出てきません。「総理大臣になりたい」と言う子がいないでしょう。僕が子どものころはいたのですよ。それは、ある意味普通のことなのです。
――――いい人材が国のトップへ行きたいのは当たり前になって欲しいのに、そうじゃない悪循環が続いていますよね。
工藤:うちの子どもたちには、経営権を与えているのですよね。先ほどの話の「当事者に変える」というのは教員だけではなくて子どもたちにも一部の経営権を与えているし、保護者の方にもうちの学校の経営権を与えています。教育関係者がこの放送を聞いていたらすごく驚くのは、学校のなかで学校評価という、来年の学校運営のために改善会議みたいなものを、日本中のどの学校もやっているのです。それには保護者を入れたくないでしょう。うちは、今年から保護者が入るのですよ。保護者と一緒に改善会議をやる取り組みをしています。
――――収集がつかなくなるようなイメージがありますよね。
■いじめで一番大事なのは子ども同士で解決すること
工藤:うちの教員は「やろうか」と言ったら「いいんじゃないですか」と今は言えます。なぜかというと、同じ目的を合意するということが、どれだけ教育をスムーズに進めるのかということをうちの教員は知っているからです。全員ではないですが、体制としてそういうことがわかってきたから。実は、別の会議でやるのですが、子どもたちも改善会議に入るのですよ。子どもたちを中心として学校の課題改善をして、よりよい学校にするのはどうしたらいいのかと。
うちの学校はまだまだ幼いです。皆さんが言っているほど夢のような学校ではないし、むしろ入学のときには不登校のお子さんも山ほど入ってくるし。夢のような学校だと思って、ある意味よく勘違いをして入って来るけれど、劣等感だらけの傷ついた子どもたちが山ほど入って来るので、1年生のうちは言われたことしかやり続けない子どもたち。それも嫌になって、自分なんか駄目だと思っている子どもたち。そこら中でいじめのようなものは起こるし、傷つけ合うし、弱いものはいじめるし。それに対して僕らは特殊な対応をするのですが、簡単に言うと「君はこれからどうしたい? 先生たちは何を支援してあげたらいい?」と自立を促す言葉をなるべく使おうというのがルールなのです。なかなかこれがどの教員もできるわけではないので完璧にうまくはいっていないけれど、子どもの自立を復活させるための支援をしようと。そうすると、彼らは自分で決定することを覚えていきます。いじめが起こっても、一番大事なのは子ども同士で解決することです。何でもかんでも大人が介入していたら、子どもは解決する能力を失ってしまうわけです。
――――そのまま社会に出たら、恐ろしいことになりますね。
工藤:今の風潮としては、全てのいじめに大人が関わって、解決しなければいけないと思っているでしょう。これは大きな勘違いですよね。このいじめは子ども同士で解決できるのかできないのか、誰が解決の手助けをどの程度したらいいのか。それを大人が見極めて助けてあげるのが大事であって、基本的には子ども自身が解決していく力を支えてあげるのが大人なのです。そういった教育が、日本中でひっくり返ってしまっています。みんなが学校を責め、先生を責め。子ども同士がトラブっているのを支えるのが教員なのに、解決しないのは先生がだらしないからだ、というような風潮があります。このこと自体がもうおかしいのですよ。
――――本来あるべき「社会に出るための練習」という学校の場を取り戻そうとされているということですね。私も授業を受けているような気になりました。社会に出てする勉強は興味のあることだから、楽しいのですよね。
「『最上位の目標』という言葉がたくさん出てきましたが、工藤校長にとっての『最上位の目標』というのは『自立した子どもを育てる』ということなのです。それがぶれないし、麴町中学の教員と意思疎通できています。何か迷う度に『最上位の目標』は何かというところに戻るから、対立しても恐れないし、子どもたちに当事者の意識を与えることもできるし、宿題を廃止しても大胆な改革ができるのは、最終的には『最上位の目標』は何かというところに戻ることができるからなのです。そこが明確にあるということが大事だなと思いました」
インタビューを終えた大橋は、工藤校長の改革の哲学についてこのように振り返った。そして、「先生という存在とお話するのは本当に久しぶりで、社会人になってから先生とお話するのはいいなと思いました。このインタビューを聞いて、間違っていたところがあったら工藤先生に指導してもらいたいです。何か恩師ができたような気持ちになりました」と、感想を述べた。
番組情報
『“一緒に笑顔になる時間”「大橋未歩 金曜ブラボー」』金曜午後にお届けする、「トーク」&「ミュージック」を基本とした大型ワイド番組です。番組の大テーマは、「笑顔(Smile)」。パーソナリティ大橋未歩の明るい笑い声で、リスナーのあなたの笑顔を増やし、ガンバるあなたにとっての癒しとなれるような、そんな心地よい時間を届けます。