ニッポン放送「週刊 なるほど!ニッポン」(2月16日放送)では、「茨城県笠間市が映画を製作! 素材は市民の押し入れに眠っていた昭和の8ミリフィルム!?」というトピックスを紹介した。
茨城県笠間市では、「家庭の押し入れに眠っている8ミリフィルム」を市民から募集。それを使って映画をつくるという「カサマノシネマ」プロジェクトが開催された。
果たしてどんな映画ができるのだろうか? 映画の製作・監督をされている三好大輔さんに、立川晴の輔が話を伺った。
晴の輔:笠間市の市民の家庭に眠っている、8ミリフィルムで映画を作るというプロジェクトですが、きっかけは何だったのですか?
三好:この活動は、もう10年やっております。「8ミリフィルムを集めて映画を作るという、地域映画の製作を笠間でやりたい!」という要望をいただき、地元の大学生が中心となって進めております。
晴の輔:どれくらい集まったのですか?
三好:108本集まりました。
晴の輔:どのような映像が残っていましたか?
三好:昭和30年代~50年代のものが中心で、子どもたちの運動会や七五三など。なかには笠間稲荷に奉納するための、しめ縄作りの様子などもありました。活気がある時代の記録を観ることで元気になっていただきたいし、いまの若い子にも参加してもらい、『こういう時代』があったことを知って欲しいのですね。
晴の輔:平成生まれの子たちは、8ミリフィルムを観たらどのような感想を抱くのでしょうか?
三好:自分たちがまったく知らない時代の映像ですけれど、映写機にかけて観てみると、なかには涙する子がいたりします。僕自身も今回の活動のきっかけは、友だちの結婚式のビデオを頼まれたことなのです。生い立ちを写真で綴って行くではないですか。「そのなかで使えたら使って」と8ミリフィルムを渡されて、観たときに涙が止まらなかったのです。
三好:8ミリフィルムは、撮っている人のまなざしがダイレクトに感じられるメディアだと思っています。テクニックや構図ではない、撮影するお父さんの「娘の姿を残したい」という想いだけで撮っていて、その想いがすごく伝わって来るのですね。
晴の輔:なるほど。いまの世代の子たちは写真を撮り慣れている、また撮られ慣れていて、プロに近い技術を素人が持っていたりもしますよね。でも昔は愛情でその姿を残したいという部分が、ストレートに出ているのですね。
三好:例えば「お祭りの風景を残したい」という方ですと、祭りや街に対する想いが、ダイレクトに8ミリフィルムに焼き付いているのです。
晴の輔:8ミリフィルムを提供してくれた市民の方は、もう自分でご覧になっているのですか?
三好:デジタル化したデータを提供者さんの家まで持って行き、映像を見ながら大学生がインタビューします。
晴の輔:何十年ぶりに8ミリフィルムを観る姿も撮影しているのですか?
三好:その瞬間も記録しています。カメラが回っていようと大学生がいようと、家族だけの空気になるのですね。映像を通じて、一瞬にしてつながり直すと言いますか、改めて自分たちの絆を確認し直す。そんなところも映画の魅力となっております。
晴の輔:この映画は、どこで観ることができるのでしょうか?
三好:完成上映会は2020年3月22日、笠間市立笠間公民館・大ホールで無料上映いたします。
晴の輔:楽しみですね。ちなみに監督はおいくつですか?
三好:48歳です。1972年の子年生まれです。
晴の輔:僕も1972年の子年です。我々は8ミリフィルムの世代ではないですし、監督も観たことのない映像ですよね?
三好:僕らが小学生だったころだと、クラスに1人ぐらいは8ミリフィルムを回している親御さんがいたかな…という感じですかね。中学・高校のころにはビデオが出現して、ビデオテープで映像を残されている家庭がちらほらと出ていました。
晴の輔:監督でも観たことのないような景色が、いっぱいあったりするのですか?
三好:その土地の性格が、8ミリフィルムを通じて出ています。
晴の輔:なるほど。昭和と現代で、笠間市が変わっていたところはありますか?
三好:圧倒的に昭和は子どもたちが多いです。お祭りなどでは「いまの5倍はいる」と、撮影されていた方から伺いました。街の活気がまったく違います。
晴の輔:いまのお祭りは、子どもよりも大人の方が多いですからね。そんな現実も見えて来るのですね。その時代の風景・情景を見ると、現代の見方が変わって来るかもしれません。
三好:自分たちの親世代、おじいちゃん・おばあちゃん世代がやって来たことが、時間軸のある8ミリフィルムと共に、当時の空気をそのまま伝えることができる映画ですので、ぜひ体験していただきたいと思います。
三好:みなさん、「そんな8ミリフィルムなんて…」とおっしゃるのですよね。
晴の輔:持っている方にしてみれば、自分たちの記録ですからね。「お役には立てません」ぐらいの感覚なのでしょうか。
三好:そうですね。ただ、個人が記録したフィルムには地域の性格を現したものや、当時の文化・風習を克明に記録したものがたくさんあります。40年~50年経ったいまだからこそ、見返すことによって新たな価値が生まれたり、見た人が元気になったり、昔を思い出すような時間を作り出すことができるのが、8ミリフィルムの魅力です。プロが撮るお祭りは、式次第に則ったお題目を丁寧に撮影します。でもホームムービーは家族と一緒にお祭りに行く過程で、屋台で何かを食べていたり、記録としては無駄と思われるようなこともたくさん映り込んでいます。だからこそ当時のリアルな空気が写されていて、共感されるのではないかと思います。
晴の輔:素晴らしい企画ですよね。眠っていたものが宝になる。
三好:しかしフィルムの劣化や、高齢のためにフィルムの保存場所がわからないなど、散逸が危機的な状況です。フィルムの保存は個人では難しくなっていますので、地域で守るような仕組みを作らなければいけないと感じています。
晴の輔:ぎりぎりのラインですか?
三好:そうですね。もう見られなくなってしまったフィルムもたくさんありました。1本のフィルムに映されているのは、そこにしかない貴重な記録なので、残すためにはいま動かないと、もう一生観ることができません。
晴の輔:ある意味で、遺跡の発掘作業と同じですね。
三好:全国でまだ眠ったままの、価値あるフィルムは必ずあると思いますので、掘り起こして地域で楽しむ仕組みを広げたいと思います。YouTubeでも『カサマノシネマ』のダイジェスト映像が見られますので、そちらでも楽しんでいただきつつ、興味があったら足を運んでいただきたいです。
【三好大輔】
■プロデューサー・地域映画監督。
■大学卒業後、音楽チャンネル、広告制作会社で映像制作、デザインを学び独立。
■2008年より東京藝術大学デザイン科非常勤講師を務める。
■地域に眠る8mmフィルムを掘り起こし、市民と協働する地域映画づくりをはじめ、全国にその活動を広める。
■2011年、安曇野に移住。2015年、映像制作会社・株式会社アルプスピクチャーズ設立。
■2020年より松本の築150年の古民家を拠点とする。
■東京藝術大学大学院専門研究員。