ニッポン放送「ザ・フォーカス」(4月28日放送)にゲストの作家・元外務省主任分析官の佐藤優が出演。金正恩委員長の体調の錯綜する情報について解説した。
トランプ氏の発言から読み取れる深刻さ
現地時間の27日、トランプ大統領は会見で健康不安説が浮上している北朝鮮の金正恩氏について「どのような状態か把握しており、元気であることを願っている」と述べた。ただし現状については「まだそれについては話せない」としている。
森田耕次解説委員)27日の記者会見でトランプ大統領は金正恩朝鮮労働党委員長について「だいたいわかっている。遠くない将来にあなたたちも知ることになるだろう。私からはいまは言えない。元気であることを願っている」と。トランプさんにしては意味深な言い方ですね。
佐藤)アメリカと韓国は明らかに「元気なのだ」という方向に誘導しようとする情報を流していますが、私のところに入って来ている情報というのは逆です。1つはアジア、1つは中東の複数のソースで、私はイスラエルと親しいですがイスラエルではありません。中東のアラブ系の国です。そのアラブ系の国は北朝鮮がさまざまなマネーロンダリングに関与しているから北朝鮮情報をよく持っているのですが、それらの国から聞こえてくる話だと、脳死状態になっていると。ただ、どの情報も裏は取れないのです。各情報機関も見方は分かれているのですが、あえて韓国とアメリカは健康説を強く出しているのが非常に気になります。それからトランプ氏は「はっきりとは言えない、いまは明らかにできない。しばらく経てばわかるだろう」と。それと、彼は「元気であることを願う」という言い方をしていますから、これはかなり深刻な事態ではないかと私は読んでいます。
森田)15日の金日成主席の生誕記念日の太陽節にも姿を見せませんでした。韓国の統一外交安保の担当者は、13日から金正恩氏は健康で別荘であるウォンサンに滞在しているという説明をしています。特別列車がウォンサンにある映像も出ています。
佐藤)ウォンサンに映像があるのは確かだと思います。それから、無線でいろいろな盗聴をしていますからそこはわかるのですが、最後は業界用語でヒュミント、すなわちヒューマンインテリジェント、人間によるスパイ活動でないと取れないのですが、いままで韓国が向こうの権力の中枢に入っていたという情報は私が知っている限りではあまりないのです。それは中国です。
森田)やはり中国ですか。
佐藤)それに次いでロシアです。この種のヒュミント情報については中・露両方の情報ですよね。
中国の軍医が入っているのであれば、北朝鮮で何かが起きているのは間違いない
森田)ロシアは国営のタス通信が「首都の平壌は平穏だ。市民は普段通り生活していて、国営テレビやラジオは娯楽番組も放送している」という報道を平壌駐在のタス通信特派員の記事として配信しているようですね。
佐藤)それはこういう風にも読めます。「が、不安はある」「噂が流れている」ということを書いたらタスの支局は閉鎖で国外追放になります。いま平壌のことはそういうニュース以外出しようがないです。まったく真実を伝えていないのだったら娯楽番組はやっているだろうし、平壌市内も正常でしょう。文脈を考えるのだったら「金正恩さんが健在で特段の問題はない」とは言えないと思います。
森田)北朝鮮は新型コロナの感染者はいないと言っているのですが、検査薬を中国が北朝鮮に提供したということは中国外務省の副報道局長が発表しています。
佐藤)軍医が大分入っているという情報もあります。ということは、何かが起きているのは間違いありません。
森田)産経新聞の報道では死者が260人以上いると言っていますが、新型コロナと金正恩委員長に関連があるのかはわからないにしても、かなり深刻な状態になっているのは間違いなさそうですか。
佐藤)新型コロナの場合はいまのところワクチンがないですから、対症療法しかありません。北朝鮮に人工呼吸器が何台あるのか、あるいは感染症にかかるのを防ぐ抗生剤がどれくらいあるのか。あるいは暫定的に使える抗ウイルス剤がどれくらいあるのかを1つ1つ考えると、かからないか自分が持っている免疫に頼る以外の方法はほとんどない状況です。ですから、感染症が広がった場合は大変なことになります。
森田)医療物資、医療従事者は北朝鮮は当然豊富とは言えないわけですものね。
佐藤)ただし、検査制度は進んでいますからね。チェックはいつもしていますからね。朝鮮労働党が「家にいろ」と言ったらみんな家にいますから、その意味では隔離などはやりやすいと思います。
森田)あとは金正恩委員長の状態ですが、近い将来明らかになるということでこの情報を待つしかありませんね。
番組情報
錚々たるコメンテーター陣がその日に起きたニュースを解説。佐藤優、河合雅司、野村修也、山本秀也らが日替わりで登場して、当日のニュースをわかりやすく、時には激しく伝えます。
パーソナリティは、ニッポン放送報道部解説委員の森田耕次。帰宅時の情報収集にうってつけの番組です。