ポストコロナの世界の流れは「反中国、反米」となる
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月11日放送)に慶応義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一が出演。ポストコロナにおけるアメリカと中国の世界的な立ち位置について解説した。
中国当局の船、日本の領海に3日連続で侵入
沖縄県の尖閣諸島沖合で日本の領海に侵入した中国海警局の船2隻は、10日も魚釣島の西南西およそ10キロの日本の領海内に留まった。中国海警局の船が領海内で確認されたのは3日連続で、第11管区海上保安本部が直ちに出るよう警告を続けている。
飯田)漁船を追い回しているというようなことも出ていて、相当エスカレートしている感じもありますが、どうご覧になりますか?
インド太平洋・アジアでアメリカが軍事的行動できるのかを確かめている
細谷)いまいちばん大きいことは、アメリカの空母がコロナの感染で運用できない状態になっているということです。しかもアメリカは、感染者数も死者数も世界最大になっています。中国は軍事的にインド太平洋・アジアで、米軍がどれほど運用できなくなっているのかを確かめているのです。中国がこのような行動をしても、いまアメリカはほとんど反応できません。言い換えれば、アメリカが支配して来たこの地域において、その勢力を入れ替える為の準備をしていると見るべきだと思います。
飯田)尖閣の周りで海警局がこういうことをやって来ている一方で、中国の空母「遼寧」を含めた打撃群が宮古島と沖縄本島の間を通過し、台湾あたりで演習をして、また入れ替わりに3隻くらいが出て行くようなことをしています。中国は軍も公船も、連携していると見た方がいいですか?
南シナ海での実効支配と同じことを東シナ海で行っている中国
細谷)おっしゃる通りです。2012年の民主党政権のときに、尖閣諸島を国有化した後で中国が一時期、かなり尖閣諸島に圧力をかけて、可能であれば現状変更するような動きを見せていたのです。ところが安倍政権になってから、強硬な体制でそれに抵抗するようになりました。2014年にはオバマ大統領が、尖閣諸島は日米同盟の対象内だとして、アメリカが強い態度を示したことにより、一時的に中国の対応が止まっていた時期もあったのです。しかし中国は2019年、日中関係がよくなったと言われるこの1年間だけでも、尖閣諸島の領海侵犯などの行動が600を超えています。1日に2回以上のぺ―スです。アメリカがどれだけ対応できるかということを試しているのですが、米軍が支援できないということになれば、中国は国防費が日本の5倍ですから、中国にとって尖閣諸島を現状変更するということは、軍事的にはそれほど難しいことではありません。中国は常にアメリカの対応を見て、機会があれば現状変更に対して本格的に動く用意をしている。これは、南シナ海のASEANとの関係でやったことなのです。15年前に現状変更した南シナ海でやったことと、ほとんど同じことを東シナ海でもやろうとしているのです。
南シナ海と東シナ海を制海権に抑えたい中国
飯田)南シナ海の場合は岩とされているところを埋め立てて、島だと言い張って現状変更するというプロセスがありました。尖閣諸島は島であることを考えると、人を送るなり船を送るなりして、自分たちのものだということをアピールする。いまは、その直前くらいに来ていると思った方がいいですか?
細谷)もちろんそうなのですが、結局のところ中国は南シナ海と東シナ海を中国の制海権に抑えたい、つまり外国の船を入れたくないのです。中国から見ると、いまは日本が尖閣諸島を実効支配しているということで、尖閣諸島や周辺のEEZを含め、東シナ海には日本の自衛隊や米軍機がいつでも来てしまう。これを止めたいわけです。もし中国が尖閣諸島を実効支配すれば、軍事的にも完全に支配できるということになるので、自衛隊機も米軍機も一切入れなくなります。そうなれば東シナ海は、南シナ海と同様に中国の支配下に置けることになります。
飯田)東シナ海や南シナ海を見ていると、アジアの現状変更のイメージがありますが、一方でいまのコロナの話だと、アメリカでは世界恐慌よりも大きなインパクトである可能性が高い。中国が世界秩序全体を変えようとするなら、いまがチャンスだというところがありますか?
国際秩序に関心がないトランプ大統領と新型コロナの影響~中国が国際秩序を支配するチャンス
細谷)トランプ大統領は、国際秩序に関心がないのです。国際機構にも関心がないですし、面で国際政治を考えることができない。北朝鮮や中国もそうですが、あくまでも相手国とディールをする。ですから国際秩序全体に対して、アメリカが優位な地位に立つという発想はほとんどないのです。一方で、もしもアメリカがそのような行動を取れないということになると、WHOもそうですが、国連も含めて国際機構や世界秩序というものを、中国が軸になってつくり直すということになりかねません。そのようなチャンスは中国からすると、本来であれば10年~20年後に想定していたと思うのですが、アメリカの新型コロナ感染者数や死者数と、米軍の機能が完全に麻痺している現状があって、想定より近くのものになって来た。さらにトランプ大統領が世界秩序、あるいは国際機構に対してほとんど関心がありませんから、トランプ大統領の自国中心主義、国際機関と敵対するという行動は、中国から見れば国際機構を支配するいい機会です。WHOも別に中国が支配したのではなく、アメリカが勝手にそこから後退しているわけです。アメリカが後退すれば、空いたところに中国が入るのは当然です。この2つがいま同時進行しているということです。
飯田)一方でトランプ大統領は、中国に対して「責任追及だ」という強い態度を示していますが、それでも国際機関を取られてしまうことに変わりはないのですか?
細谷)どれだけ味方を増やせるかと考えたときに、トランプ大統領は韓国や日本、EUや同盟国に対しても、貿易交渉などでは敵だと思っているのです。本来であれば中国に対抗するなら、同盟国である日本やEU、韓国、オーストラリアを味方につけなければいけないわけです。更には国際機構も味方につけないといけない。ところがトランプ大統領は自国中心主義が鋭意で、同盟国も国際機構もすべて敵に回しています。本来であれば米中が対立するときに、アメリカは1国でも多く味方につけるべきなのです。それは第二次世界大戦後のアメリカがやったことです。NATOと日米同盟をつくって、フィリピンやオーストラリア、日本、ニュージーランドなどを同盟国にしたわけです。ところがトランプ大統領は、自国以外のすべてを敵だと思って貿易交渉しています。そうすると、結局は中国が味方を増やすチャンスになってしまう。
世界の流れは「反中国、反米」
飯田)そこで中国は、資金やマスクを出したりしている。この行く末はどうなるのでしょうか?
細谷)ただ中国はフランスに関しても、マスクを送る代わりに5Gをファーウェイにしろと圧力をかけている。前例がないほど、いま世界的に中国に対する反発が強まっています。結局のところ、EUも日本も部分的にそういうところはあると思いますが、多くの国々が中国に対して強い不信感がある。一方でアメリカは、トランプ政権で全方位の貿易交渉が敵対関係になっています。つまり、いまは世界中が反中であり、反米であるということです。これが現在の世界の大きな流れになっていると思います。
提携する相手として中国、アメリカよりも日本の方が付き合いやすい
飯田)そこに第3の核になるほど大きな国はないということですか? 日本にその資格はあるのでしょうか。
細谷)日本は想定していなかったかも知れませんが、環太平洋経済連携協定 (TPP)をアメリカ抜きで11ヵ国とつくりました。更にはEUとの間でも、日EUで経済連携協定(EPA)をつくった。どちらも日本がリーダーシップを発揮して、かなりの程度つくったわけですから、国際的には相対的に日本の地位が上がって来ています。上がっているというのは、日本を多くの国がリーダーと思っているということではなく、一緒に提携する相手として、中国やアメリカよりは日本の方が付き合いやすいということだと思います。このような状況を、日本はうまく活用するべきだと思います。
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