“梅雨”……奥ゆかしい響きは過去のものになるのか?
公開: 更新:
「報道部畑中デスクの独り言」(第199回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、近年の災害をもたらす「梅雨」について---
今月(7月)上旬、九州を中心に襲った梅雨前線による豪雨。熊本県南部では“暴れ川”と呼ばれる球磨川が氾濫し、60人を超える尊い命が奪われました。
ニッポン放送では藤原高峰記者をいち早く被災地に派遣し、放送で現地の状況を刻々と伝えました。
今回も大雨特別警報が各地で出されましたが、7月4日午前4時50分に熊本・鹿児島に、6日午後4時30分には長崎・佐賀・福岡に、そして8日午前6時30分には九州から遠く離れた岐阜・長野の各県に発表されました。
命名も地名を冠さない「令和2年7月豪雨」。今回の梅雨前線がいかに広い範囲で、長い期間の被害をもたらしたかということです。
このコラムを執筆している7月17日時点でも前線は日本列島に居座り続けており、気象庁の関係者からは、これほどの長い停滞は「記憶にない」と話します。
九州の特別警報は3時間雨量、「線状降水帯」により、短時間に一気に降った雨が基準を超えたのに対し、岐阜・長野のそれは48時間雨量、山脈を這いあがった南からの暖かく湿った空気が「雨をダラダラ降らせた」ことが決め手となりました。同じ梅雨前線でありながら、雨の降り方も多様であったというわけです。
気象庁の関田康雄長官は15日の記者会見で、今回の豪雨について「前日夕方の段階で、通常の警報を超えるような状況は想定されていなかった。われわれの実力不足」と述べ、線状降水帯を含む予測精度の技術開発を進める考えを示しました。異常気象分析検討会の開催も検討するということです。
今回の豪雨で思い出すのは、2年前に起きた「西日本豪雨」(気象庁命名は「平成30年7月豪雨」)です。このときも梅雨前線が長く居座り、前線が「ロックされた」と表現する人もいました。
今回の前線停滞については詳しい分析が必要となりますが、いまのところ、太平洋高気圧の強い張り出しと、黄海付近の南に下がった偏西風の蛇行により、前線の身動きが取れなくなったことが原因と言われています。
そして、居座る梅雨前線に太平洋高気圧の縁を回る、「湿舌」と呼ばれる暖かく湿った空気が流れ込み、大雨をもたらしました。
このような現象は梅雨末期には決して珍しくはないのですが、梅雨前線は本来、太平洋高気圧と大陸からの冷たい高気圧が、せめぎ合いながら南北に動きつつ推移し、いずれは太平洋高気圧が優勢となって、消えて行くというコースをたどるもの。
西日本豪雨のみならず九州北部豪雨など、毎年のように起こる現象が起きたことは異常なことなのか、もはや通常のことなのか……関田長官は個人的な見解としながら、「梅雨末期、毎年のように降る雨は従前とは違うのではないか」と、例年の梅雨末期とは違うステージに入った可能性を示唆しました。
梅雨晴れの 夕茜して すぐ消えし
高浜虚子が梅雨の合間に、晴れて少しだけ見えた夕焼けを惜しむ気持ちを詠んだ句です。俳句で「梅雨」は夏の季語であり、この他に「梅雨雷」「梅雨曇」「梅雨空」「梅雨の月」「梅雨の星」「梅雨晴」があります。それだけ、梅雨というものはさまざまな表情を見せます。
そして、本来は日本の四季を彩り、秋の収穫などに寄与する「恵みの雨」をもたらすものですが、これだけ頻繁に災害をもたらす昨今の状況をみるにつれ、もはや、こうした“趣ある”響きは過去のものになって行くのでしょうか。
新型コロナウイルスによる「新しい生活様式」への対応が必要とされていますが、気象についても同様の意識を持つべき時代に入っていると、改めて感じます。(了)