【ペットと一緒に　vol.205】by 臼井京音

ニッポン放送「ペットと一緒に」

ダウン症候群の佑哉くんを2012年に出産した松原未知さんは、もともと3頭のテリア犬と暮らしていました。現在は2頭のテリアがいる松原家の、佑哉くんと犬たちとの不思議な関わり方や愉快な日々を、今回はご紹介します。

つかまり立ちは愛犬を触りたくて

2020年夏現在、小学2年生の佑哉くんは、14歳のノーフォーク・テリアの湘太くんと、9歳のワイアー・フォックス・テリアのルッカちゃんと暮らしています。

佑哉くんが赤ちゃんのころには、ショードッグを引退して7歳間近で松原家に来たルッカちゃんではなく、湘太くんとノーリッチ・テリアのロージーちゃんとスージーちゃんがいました。

立ち耳のロージーちゃん（手前）と垂れ耳の湘太くんと（中央）

「度重なる流産や不妊治療のつらさをなぐさめてくれたのは、いつもそばに寄り添ってくれる3頭の愛犬たちでしたね。出生前診断でダウン症だとわかった佑哉と、3頭の犬たちが仲よくなれるかは少し心配でした。何といっても、テリアは気が強い犬種なので……」と、未知さんは当時を振り返ります。

佑哉くんが幼いころの思い出

心配をよそに、もともとは子どもが苦手だという湘太くんも、佑哉くんをあっさりと受け入れたそうです。

「犬同士は流血するほどのケンカもします。でも、佑哉にはみんなやさしいんですよね」（未知さん）

そんな佑哉くんが初めてつかまり立ちをしたのは、柵の向こうにいるロージーちゃんを触ろうとしたのがきっかけだったと言います。

「ダウン症なので発育が遅いことも承知で、焦らず見守っていましたが、犬を触ろうとして1歳半のある日、あまりにもあっさり立ったのでびっくりしました」

尻尾を引っ張られても怒らない湘太くん

犬は弟と妹？　兄と姉？

犬たちと同じベッドで寝て、犬に囲まれて成長した、佑哉くん。ロージーちゃんとスージーちゃんは天国へ旅立ってしまっていませんが、いまは散歩で訪れる湘南の海辺で、湘太くんやルッカちゃんのリードを引くこともあるそうです。

「佑哉は犬たちのことを、弟妹のように感じているのではないでしょうか。一方の犬たちも、佑哉のことは“弟”だと思っているようですけどね（笑）。ルッカにお気に入りのペンギンのぬいぐるみの目を噛みちぎられて怒ったり、ブンブンと振る尻尾で湘太にプラレールの列車を脱線させられて困り顔になったり、愛犬と佑哉のやりとりを見ていると飽きません」と、未知さんは言います。

「もうプラレールは諦めたよ。お医者さんごっこしよう～」by佑哉くん

そんな微笑ましい日常を、一気に覆す出来事が2019年の夏に起こりました。

「夕方に帰宅したら、ルッカが湘太の心臓病の薬を多量に誤食していたんです。パンツとTシャツ姿で『お腹すいたーー』と不機嫌極まりなかった佑哉に、『すぐにズボン履いて！　ルッカの病院行くよ』と言うと、『はいっ』と急いでズボンを履きました。前後ろ逆だったんですけどね（笑）。

続いて『靴履いて！』と言うと『はいっ』と珍しくキビキビと動き、『ルッカ、大丈夫？』と、キャリーバッグのなかを心配そうに覗き込んでいました。さらに、タクシーに乗車する際はキャリーバッグの持ち手を半分持ってくれたんです。お腹が空いていたはずなのに、それからは動物病院の待合室でも不機嫌そうな様子も見せず、佑哉はルッカのことを心配していました」

結局、ルッカちゃんは胃洗浄処置を受け、危ないと言われた命を取り留めたそうです。

ルッカちゃんのリードを握ってお散歩

「あの一件で、佑哉の成長をひしひしと感じました。そして、佑哉がルッカをとても大切に思っていることも……」と、未知さんは語ります。

愛犬の子孫だけを見分ける特殊能力！？

佑哉くんには、ルッカちゃんに血縁のある犬を見分ける能力があるのではないかと、未知さんは思っているそうです。

「ルッカはブリーダー宅から引き取る前に、子孫を何頭か残しています。なので、ブリーダーさんのSNSを見るとたくさんのワイアー・フォックス・テリアが出て来るのですが、佑哉はそのなかから、ルッカの孫にあたる犬たちを見たときだけ『ルッカ！　ルッカ！』と言うんです。模様はルッカと違うんですけどね」

お散歩のあとは足拭きのお手伝い

佑哉くんは小学校の友人や、友人の母親などに、ルッカちゃんや湘太くんの写真を見せたがるとか。

「自分の家族を紹介して、自慢したいんじゃないかな？」（未知さん）

そんな佑哉くんは、学校の宿題で提出する日記にも、よく犬たちのことを書いているそうです。

佑哉くんが愛犬のことを書いた日記

愛犬が理解者であり話し相手

佑哉くんはよく、愛犬たちに話しかけていると言います。

「同年齢のダウン症の子どもと比較しても佑哉は発語が少ないほうで、気持ちを表現しづらいようですね。私や夫の言うことを理解はしていても、それを受けてどう思ったかを表出しにくい。実は犬も同じで、飼い主の言うことや気持ちを理解していても言葉として表出しません。その共通点を、佑哉なりに見出したのでしょうか？　よく、湘太を前にして何かを言っています」

佑哉くんは愛犬と話すことで、友人や大人には伝えにくい思いが届いたと感じてすっきりしているようにも見えると、未知さんは語ります。

湘太くんの誕生日祝いを一緒に

「最近ようやく、佑哉が投げたボールを、犬たちは私ではなく佑哉に持って来るようにもなったんですよ。佑哉も、弟ではなく、お兄ちゃんとして湘太やルッカから認められるようになって来たのかも知れませんね」

そう言って未知さんが笑うと、同じように笑う佑哉くんと2頭の愛犬……ではなく“きょうだい”との関係性は、これからもっと深まって行くに違いありません。

「なんで掘った穴を埋めちゃうんだよー、湘太！」……ライバル心むき出しの兄弟争い！？