側溝からヒナの声~拾ってはダメと知りつつ野鳥に手を差し伸べた結果~

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【ペットと一緒に vol.203】by 臼井京音

ニッポン放送「ペットと一緒に」

愛犬の散歩中に足元から小鳥の鳴き声を聞いた、田尻光久さん。巣立ちに失敗したヒナを保護すべきではないと知りつつ、命の灯が消え入りそうなヒナたちを見て、手を差し伸べずにはいられませんでした。

今回は、2羽の小さな野鳥のストーリーをお届けします。

 

溝のなかから小鳥の声!?

保護猫と沖縄出身の保護犬と暮らすカメラマンの田尻光久さんは、6月半ばに不思議な経験をしたと言います。

「夕方、犬の散歩途中に溝のなかからピーピーピーと小鳥の声が聞こえたような気がしたんです。だけどそのまま散歩を続け、帰りに同じ場所を通ったら、やはりピーピーピーと聞こえて。妻と一緒に探したところ、溝のなかに2羽のヒナがいるのを見つけました。見渡しましたが、親鳥の気配はありませんでした」

あたりは薄暗くなり始め、夜からの天気予報は雨。親鳥もいなければ体が冷えてしまうし、自力で側溝から脱出できなければヒナたちは雨水に流されてしまうかもしれない……。そう思った田尻さんは、ひとまず安全な場所に移そうと、数十メートル先の自宅から段ボール箱を持って来たそうです。

誤って溝のなかに入り込んだヒナを、田尻さんが見つけた場所

「救助するにあたり、かかりつけの獣医師に相談をしました。すると、『野鳥は巣立ちに失敗した時点で自然界の落伍者だから、一時の感情に流されて保護したりせずに、自然の摂理に任せることが大切。もし助けるのであれば、自然に帰れる成鳥になるまで責任を持って育てるつもりで。けれどそれは簡単ではない』と。

だけど、自分が助けなければ確実に今夜中に命を落としそうな、まだ飛べもしないヒナだったので、覚悟を決めて保護することにしたんです」

そう振り返る田尻さんは、まず、力を込めてグレーチングを持ち上げたと語ります。それから、細心の注意を払いながらティッシュペーパーでヒナをそっと拾い上げると、段ボール箱に入れました。

産毛のようにフワフワとした羽毛に覆われたヒナ

SNSで情報を集め、命をつなぐ

500円玉位の大きさのヒナを入れた段ボール箱を、ひとまず玄関に置き、田尻さんは頭を抱えたと言います。

「小さく、か弱く見えました。お湯を入れたペットボトルを箱のなかに入れて暖かくしましたが、お腹が空いているのか元気がありません。空腹のあまり弱って行き、明日の朝まで命が持たないかもしれないなぁ……」

心配になった田尻さんは、ヒナに何を食べさせればいいかという知恵を、SNSを使って拝借。そこで収集した情報をもとに、愛犬用のドッグフードをふやかしてペースト状にして、くちばしの先端につけたそうです。

ところがヒナたちは、初めて親鳥以外からもらったエサだからか、食べ慣れないものだからか、まったく口にしなかったとか。

「『がんばれよ。目の前で命尽きないでくれよ』と呼びかけながら、私たちも就寝しました」

慣れない環境で緊張をしているのか……

ヒナがいない!

翌朝、田尻さんはヒナたちが元気でいることを確認。親鳥が迎えに来るのを待とうと、段ボール箱にヒナを入れたまま庭先に出したそうです。

「何度も庭に目をやっていたのですが、気づいたら、箱が空っぽ! 慌てて外に飛び出しました」

すると、自宅の駐車場そばの側溝に落ちそうになっているヒナたちを発見したとか。

親鳥が来るのを待っている様子

「いやぁ~、もう、ハラハラドキドキですよ(笑)。振り出しに戻りたくないので、ヒナたちを庭の草むらへと誘導しました。そちらのほうが、安全ですからね。そうしたら、何と、すごいスピードでヒナたちは庭を駆け回り始めたんです」

ヒナたちの元気そうな様子に一安心した、田尻さん。その後は、運を天に任せて、親鳥が迎えに来てくれるのを待ったと言います。

「その日のうちに、ヒナたちは姿を消していました。親鳥のもとへ帰ったと、信じるしかありません」

長い脚を高速回転させて庭を駆け回るヒナ

野鳥には触らないで

筆者も数年前、住宅街の道路の真ん中で動けなくなっているメジロの幼鳥と遭遇しました。10メートルほど離れた電柱の陰から数十分ほど小鳥を見守っていたのですが、親鳥が現れる気配はありません。

自動車が近づいても、メジロは羽ばたかずじっとしています。「わぁっ! 轢かれた?」と声をあげてしまったほどの危なっかしさで、そのまま放ってはおけませんでした。

田尻さんと同様、筆者もかかりつけの獣医師に電話をしたところ、やはりヒナを保護することはせず、見守るように説得されました。納得した筆者でしたが、スーパーのレジ袋でヒナを道路脇まで導き、「どうか無事で生き延びてね」と祈るような気持ちでその場をあとにしました。

筆者が見つけた、巣から落ちたと思われるメジロ

田尻さんは、ヒナがいなくなってから気になって散歩中に耳を澄まし続けたそうです。すると、6月下旬にようやく聞き覚えのある鳴き声を聞いたとか。

「キョロキョロと見渡すと、ようやく声の主を発見できました。観察していると、5~10メートル飛ぶのがやっと。近くにもう1羽いたので、きっと保護したヒナたちだと思います。親鳥と再会できたのでしょう」

雨の日でしたが、田尻さんは望遠レンズをつけた一眼レフカメラを取りに戻り、何とか小鳥の姿を写真に収められたそうです。

梅雨空の下を駆け回る小鳥 ©Teruhisa Tajiri

撮影した写真をもとに野鳥図鑑で調べると、保護したのはコチドリではないかとのこと。

田尻さんが保護したコチドリも筆者が遭遇したメジロも、その後たくましく育ち、いまも元気で暮らしていることを願わずにはいられません。

田尻家の庭での半日だけの思い出©Teruhisa Tajiri

■参考資料:「落ちているヒナを見かけたら」(大阪府ホームページより)
http://www.pref.osaka.lg.jp/doubutu/yaseidoubutu/hina.html

■参考資料:「野鳥の子育て応援キャンペーン」(日本野鳥の会ホームページより)
https://www.wbsj.org/activity/spread-and-education/hina-can/

連載情報

ペットと一緒に

ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。


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