“命の恩人”で家族でもある野生イルカを、今度は私が守る!~能登島イルカガイドの秘話~

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【ペットと一緒に vol.200】by 臼井京音

“命の恩人”で家族でもある野生イルカを、今度は私が守る!~能登島イルカガイドの秘話~

ニッポン放送「ペットと一緒に」

能登島でカフェ店主やイルカウォッチングのネイチャーガイドとして暮らす、坂下さとみさん。20年ほど前、まだ歩くこともできない幼い孫息子とふたりでの、新しい人生の一歩を踏み出すきっかけをくれたのは1頭の野生のイルカでした。

今回は、「イルカたちは、なくてはならない私の家族」と語る坂下さんのストーリーをお届けします。

 

野生イルカとの奇跡的な出会い

石川県の能登島で19年前、坂下さとみさんは不思議な体験をしました。

「私は当時、ひとりで孫を育てることになったんです。孫息子はぜんそく持ちで入退院を繰り返していたので、時間が自由になるカフェ経営を始めようと思っていました。そんなある日、のとじま水族館へ行こうと孫息子とドライブしていると、海を見渡せるすばらしい場所を見つけました。

エメラルドグリーンに輝く澄んだ海を見つめていたら、晴れ晴れとした気持ちになり涙が出て来て……。すると、1頭のイルカが目の前に姿を現したんです。びっくりすると同時に、イルカと心が通じ合った気がして心が癒されました。生後数ヵ月の孫も、何かを感じたのか、私の背中で足をバタバタと動かしたんですよ」

坂下さんは、その場所に“海とオルゴール”を2005年に開業しました。

“命の恩人”で家族でもある野生イルカを、今度は私が守る!~能登島イルカガイドの秘話~

海との一体感が得られる“海とオルゴール”のテラス席

「あの夏の出会いから、私はすっかりイルカに心を奪われていました。2005年のある日、すぐそばに現れた3頭のイルカのそばに行きたいという衝動から、フィンもつけずにほぼ服のまま海に飛び込んだんです。夢中で一緒に泳いでいたら、潮流のよくないところまで来てしまったようでした。

『どうしよう。このまま溺れるかも』と思ったとき、3頭のイルカが、私が泳ぎやすいように下から水圧をかけながら岸まで導いてくれたんですよ。テトラポットにしがみついた私に、イルカたちはまるで『よかったね』と言っているかのように『キュー、キューッ』と声を出してくれて……」

坂下さんは、助けてもらえた感謝の気持ちで胸が熱くなり、涙があふれたと言います。

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坂下さんは能登島のミナミバンドウイルカを撮影し続けています©Satomi Sakashita

漁師にイルカへの理解を求める

孫息子と一緒に、坂下さんは命を助けてくれた3頭のミナミバンドウイルカに名前を付けました。

「澄んだ海にちなんだスーミー、目が輝いているからヒトミ、そして光り輝く希望の子イルカのキララ」

その後、能登島の海を泳ぐイルカの数は増えて行きました。背びれが“コ”の字型に欠けているスーミーは、2020年現在も12頭の群れのキーマン的な存在だそうです。

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スーミー(右)と、お腹を出して泳いでいるスーミーの子のワク(左)©Satomi Sakashita

あるとき、坂下さんは船から棒でイルカを叩いている漁師を目撃したと言います。

「私は漁港でその船が帰って来るのを待ちました。漁師さんに『イルカは、小さな魚しか食べないので、漁師さんが獲る魚の量が減る心配はありません。イルカのしたことは、イルカと親しくしている私のせいです。イルカを叩くかわりに私を棒で叩いてください』と言いました。最初はまったく相手にされませんでしたが、お酒を持って何度か通ううちに、漁師さんたちと打ち解けて行きました」

その後、漁師さんに船を出してもらい、坂下さんと孫息子はイルカを見に行くようになったそうです。

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来る日も来る日も船に乗りイルカのもとへ©Satomi Sakashita

イルカとの触れ合いに歓声をあげる孫息子をさらに喜ばせるかのように、イルカたちはジャンプしてくれたり、船のそばまで近寄って来てくれるようになったとか。

「この幸せな気持ちを、カフェのお客さんにも味わってもらえたらなぁ」

坂下さんのその思いから、2013年、能登島で初となるイルカウォッチングツアーが誕生しました。

“命の恩人”で家族でもある野生イルカを、今度は私が守る!~能登島イルカガイドの秘話~

坂下さんが運営するイルカウォッチングツアーの1コマ

イルカの不思議な能力に助けられて

野生のイルカの平和な生活を脅かしたくない一心から、坂下さんはイルカウォッチングの観光業に乗り出した他の人々との間に不和が生じたこともあったそうです。

「一度、船上同士で言い争いになったことがありました。感情的になった自分に嫌悪感を感じて胃が痛くなり、くの字になってうずくまってしまいました。ふと顔をあげると、船のまわりを何頭ものイルカたちが囲んでいたんです。『ケンカだとわかったんだね。声を荒げて驚かせてごめんね』と言ったら、『キュキュッ』とイルカたちは鳴きました。その瞬間、胃の痛みは収まり背中もまっすぐ伸びました」

坂下さんがイルカに助けてもらった、2度目の経験でした。

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坂下さんは能登島のイルカの写真展を開いたり、石川県の調査に協力したりもしています©Satomi Sakashita

イルカは人の感情を読み取る能力にすぐれていると、坂下さんは感じています。

能登島の海で暮らすイルカは人懐っこく、坂下さんがツアー客を乗せて船を出すと、近寄って来て鳴いたり、胸ビレを動かしたり、バブリング(空気の輪っか)をつくって見せてくれたりするそうです。

 

生きる力をくれるイルカたち

坂下さんは波の穏やかな日は毎日、早朝にイルカと泳いだりして触れ合うと言います。深く潜ると心臓に負担がかかるため、水面からほど近いところでゆっくり泳ぐそうで、そんな坂下さんのペースにイルカたちは合わせながら、目を見て泳いでくれるとか。

「水中で体育座りのようなポーズをとると、イルカもマネしたりするんですよ。そうして1頭のイルカと目を合わせながら会話をするようにして触れ合っていると、『ちょっとー! こっちもかまってよ』と言わんばかりに、間に割り込んで来るイルカもいます。ひがんでいるのかな」と、坂下さんは笑います。

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日課になっている海のなかでのイルカとの会話©Satomi Sakashita

坂下さんは船長に「いまから海に入りまーす」と必ず声をかけるそうですが、恐らくその声とバシャンと海に飛び込む音を、イルカたちは聞きつけて近寄って来るのではないかと思っているそうです。

「1歳にも満たない孫息子を背負い頭を抱えていた私に勇気をくれ、命を助けてくれたイルカたち。いまは毎日、イルカと触れ合うことで疲れが癒され、元気をもらっています。いまでは、イルカファミリーは私にとっての大切な家族です」

そう語る坂下さんの明るい声が、能登島の海を臨むカフェレストランにきっと明日も響いていることでしょう。

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能登島のカフェレストラン“海とオルゴール”

連載情報

ペットと一緒に

ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

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