【ペットと一緒に vol.207】by 臼井京音
伊豆半島の山麓で烏骨鶏(うこっけい)を室内でペットとして飼っている、中島さん夫妻。この夏、初めて自宅内で自然に卵が孵ったと大喜びです。
今回は、中島さん夫妻の、さらににぎやかになった烏骨鶏ライフ第3弾をお届けします。
新入り烏骨鶏がやって来た
静岡県の伊豆の国市で夫と、リビングで放し飼いにしている烏骨鶏と暮らす中島淳子さん。実家の父親が趣味で数十羽の烏骨鶏を飼っていたことから、約1年前、そのヒナ3羽を譲り受けました。
メスのピ~こちゃんが卵を産み始めたのは、生後半年が過ぎたころ。それから、チャボと暮らす近所のカフェのママさんが所有する孵卵器に、ピ~こちゃんの卵を入れてヒヨコの誕生を心待ちにしたものの、うまく行かない日々が続いていたそうです。
「ママさんは、チャボの卵を孵化させることにも成功している、鶏飼育のベテランです。令和2年の元旦をはじめ、我が家からいくつか烏骨鶏の卵をママさんに託し、孵卵器での孵化をお願いしました。ママさんや娘さんが定期的に検卵したり孵卵器の管理をしてくれたところ、3週間ほどで念願のヒヨコが4羽生まれたんですよ。我が家はオス2羽とメス1羽なので、カフェのママさんがメスだと感じた1羽を迎え入れました」と、淳子さん。
烏骨鶏の性別は、数ヵ月経たないと判明しません。
誕生したヒヨコのうち2羽は、カフェの近所の方にもらわれました。
「実は、私たちの烏骨鶏ライフに興味を持っていただき、烏骨鶏を飼いたいというご家族が増えて、近隣で烏骨鶏やチャボと暮らしている方と“にわとり友の会”というLINEグループをつくったんです」とのこと。
中島さん夫妻のまわりには、ペットとしての烏骨鶏の魅力に引き込まれる人が増えているようです。
メスのピ~こちゃんが産んだ卵を抱えて……
1月末に中島家に来たピっぴちゃんでしたが、淳子さんが泊りがけで出かけた2月の初め、1羽のきょうだいが残っていたママさん宅に預かってもらったそうです。
「2日間預けていたら、きょうだいですごく仲良くしていたんですよね。引き離すのがかわいそうになってしまって、ピっぴと一緒にもう1羽も連れて帰りました。とは言っても、うちのコにするわけではなく、しばらく預かる感じです」
実は最後までママさん宅に残っていたこのヒヨコは体が小さく、ゴハンを食べる力も弱かったとか。
「でも、うちへ来てしばらくしたら、チっちと名付けたそのコはすっかり元気になって安心しました」
5羽の烏骨鶏がリビングを駆け回り、さらににぎやかになった中島家。
「実は、唯一のメスのピ~こちゃんがチっちを育ててくれないかと期待していたんですが、自分のコではないとわかるのか、無関心で素っ気なかったです(笑)。みんなそれぞれ意思もあるし、性格も違って本当におもしろいですね」と、淳子さんは目を細めます。
そんな2月のある日、ピ~こちゃんが巣ごもりをして3個の卵を産み、抱きかかえるようになったと言います。
「2日後にはさらに1個増え、合計4個になりました。自然に卵が孵ってくれたらと願い、祈るような気持ちで3週間ほどいましたが、結局ヒナは誕生しませんでした。その卵は『捨てられないよ……』と言った夫がどこかに保管しているようです」
念願のヒヨコの誕生を目撃!
3月以降も、ピ~こちゃんは産卵を続けたそうです。
「でも、ピ~こちゃんの卵も、スーパーで売っている鶏の卵も、食べる気になれないんですよね。だから、ピ~こちゃんが抱かなかった卵は友人などにお譲りしていました」と、淳子さんは語ります。
そうして迎えた5月のある日、新入りのピッぴちゃんが雄叫びを上げたそうです。
「あぁ~、オスだったか……。と、直前までメスだと信じていたので正直少しうなだれました。鶏の仲間は、オスだけがコケコッコーと雄叫びをするんです。オスでも、もちろん我が家で家族の一員として大切にして行きますけどね」
6月になるとピ~こちゃんは、再び産んだ卵1個をひょっこり抱え始めたと言います。
「夫も私も、すっかり諦めモード(笑)。卵はピ~こちゃんのお腹の下からズレて、近くで冷たくなったりもしていました。『どうせ無理よ』と言う私を横目に、夫は検卵を続けていましたが」と、淳子さんは振り返ります。
ピ~こちゃんは卵を抱えている期間中、3日ほど産卵場所であるクッションからまったく動かないそうです。
「3日経つと、巣から出て溜めたうんちをドバっと出します。なので、私が仕事に出かける前にエサと水を用意して食べさせ、ピ~たろうやピ~じろうに邪魔されないように、食卓カバーでピ~こちゃんを覆うようにしていました」
7月10日、ついにその日は訪れました。
「カフェのママさんの娘さんを呼んで卵の様子を見てもらったところ、『卵のなかから声がするよ。きっときょう、孵ると思う』と告げられたんです。『ええええ~!』と、衝撃でした。だって、完全に諦めていましたから」と、淳子さんは笑います。
こうして、淳子さんの夫がスタンバイしたカメラの前で、無事に卵が孵化。
「感激しました。本当に、孫が誕生したみたいな気分でしたね(笑)。ピ~こちゃんは、お腹の下にヒナを入れて温めたりと母親らしさをすぐに発揮していて、ずっと眺めていたいほどに微笑ましいです」
鶏小屋のなかで人間が生活!?
7月10日に生まれたヒヨコには、しばらく名前を付けられないでいたと言います。
「夫も私も、お互いがコレだ! と思うものがなくて(笑)。でも、10日生まれなので発音の“とぅ”にちなみ、ピっとちゃんと私は呼ぶことにしました。そのピっとちゃんですが、生後3週間ほどで、天使の羽と呼んでいる小さな羽が背中に確認できるようになったんですよ。成長が楽しみです」と、淳子さんは微笑みます。
「我が家のピーくんたちが鳴き出すと、近隣の方は『あら? ロバートくんがきょうもいい声で鳴いているわね』などと家族で会話されるそうです。ロバートというカッコいい名前をはじめ、ご近所では独自の呼び名で親しまれているようです(笑)。烏骨鶏たちと散歩をしていると、よく声をかけられますよ」と、夫の雄司さん。
中島家にいる6羽の烏骨鶏たちは、夜間の就寝時のみケージに入れ、それ以外は相変わらずリビングで放し飼いだそうです。
それぞれ好きな場所があるようで、ピ~こちゃんたちのために用意したキャットタワーの上で過ごしていたり、中島さん夫妻の腕のなかでうたた寝をしたりもするとか。
「何だか、私たち夫婦が鶏小屋のなかに住んでいるような感覚になりますね」
そう言って笑う中島さん夫妻と烏骨鶏たちのにぎやかライフから、今後も目が離せそうにありません。
連載情報
ペットと一緒に
ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。