シーズン短縮のなか、巨人・菅野が本気で狙う記録は?

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、8月25日のヤクルト戦で、開幕9連勝を飾った巨人・菅野智之投手にまつわるエピソードを取り上げる。

シーズン短縮のなか、巨人・菅野が本気で狙う記録は?

【プロ野球ヤクルト対巨人】試合後、撮影に応じる巨人・菅野智之=2020年8月25日 神宮球場 写真提供:産経新聞社

「斎藤(雅樹)さんの記録は1つも抜けないと思っていたので、1つ抜けて嬉しいです。ここまで来たら勝てるところまで勝ちたい」(菅野)

8月25日、神宮球場で行われたヤクルト-巨人戦。広島に3連敗を喫した直後の首位・巨人は、開幕から8連勝中のエース・菅野が先発。菅野が連敗ストッパーを託されたのは、今季4度目のことでした。

神宮球場では、2018年のクライマックスシリーズでノーヒットノーランを達成している菅野ですが、意外にもレギュラーシーズンでは相性が悪く、過去10試合に登板して1勝6敗。最後に勝ったのは4年前(2016年)という“鬼門”で、この日も初回に4安打を浴び2失点と、菅野らしくない立ち上がりでした。

「何か神宮となると、ヤクルトの選手も(気構えが)違うような感じがして。きょうも初回にバンバンと点を取られて、やっぱり厳しいのかなと、正直頭によぎったんですけど……」と弱気になりかけましたが、「でも、そこに打ち勝つだけの準備を今週して来ましたし」と、すぐに切り替えられるのが菅野の強みです。

ファーストストライクを狙い、追い込まれる前に早打ちする作戦で来たヤクルトに対し、菅野は伝家の宝刀・スライダーを軸に、フォークも織り交ぜるなど配球を修正。これが功を奏し、2回以降、坂口に1安打を許した以外はパーフェクトに抑え、7回2失点でマウンドを降りました。

エースの奮投に、打線も応えます。3回、坂本が10号ソロ本塁打で反撃のノロシを上げると、5回にはウィーラーが同点タイムリー。7回には大城の勝ち越し打や、菅野自身の満塁走者一掃の二塁打などで一挙5点を奪い、巨人は逆転勝ち。連敗を3で止めました。

これで菅野は、開幕から負けなしの9連勝。過去、巨人で開幕9連勝以上を記録した投手は、ヴィクトル・スタルヒン(1938年春・11連勝、同年秋・10連勝)、藤本英雄(1943年・10連勝)、堀内恒夫(1966年・13連勝)の3人だけです。菅野の開幕9連勝は球団史上、堀内以来54年ぶり、4人目の快挙でした。

冒頭のコメント「斎藤さんの記録を1つ抜けて嬉しいです」は、斎藤雅樹の開幕8連勝を抜いたことを指しています。また「開幕投手の、開幕からの連勝記録」という限定を付けると、先述のスタルヒンの11連勝以来、何と82年ぶりの偉業達成。伝説の300勝投手と肩を並べました。

「ここまで来たら勝ち続けたいな、というのは正直あります」と試合後に語った菅野。その顔からは「シーズン終了まで負けない」という決意が見てとれました。本当に負けなしで行ったエースというと思い出すのが、2013年、楽天を球団史上初の日本一に導いた田中将大(現ヤンキース)です。開幕から24勝無敗という記録は、当分破られないでしょう。

この2013年、田中はレギュラーシーズン無敗でしたが、ポストシーズンに1試合だけ黒星を喫しています。その試合とは、巨人と戦った日本シリーズ第6戦。このとき投げ合った相手は、当時ルーキーの菅野でした。

第2戦でも2人は投げ合い、このときは田中が勝ちましたが、巨人が王手を掛けられた第6戦で、菅野は7回2失点(自責点は1)と好投し勝利。田中に投げ勝ち、チームを崖っぷちから救ったのです。

第7戦で巨人は敗れ日本一を逃しましたが、無敗のエースと大舞台で2度も投げ合い、唯一の土をつけたことは、プロ1年目の菅野にとって大きな自信になりました。翌2014年、田中はポスティングでヤンキースに移籍。かねてからメジャーへの憧れを持つ菅野にとって、圧倒的な成績を残してメジャーへ行った田中の姿は、1つの理想形に映ったのではないでしょうか。

昨年(2019年)オフ、同僚の山口俊(現ブルージェイズ)が、巨人では史上初のポスティングによるメジャー移籍を果たしました。この際、これまで巨人が頑として認めて来なかった菅野のポスティング移籍も「認めざるを得ないのでは」という話が浮上。原監督も「時代の流れもあるし、選手が頑張ったなら、特例はあってもいいと思う」と“容認”ととれる発言をしています。

いっぽう菅野も、メジャーに行くからには、それなりの“置き土産”を残してから行きたいと思っています。昨年オフの契約更改の席で、菅野はこう語りました。「(メジャー行きの意思は)変わらず持っている」「まずは来季(2020年)を戦い抜いて、そこからだと思う。日本一を目指して、その後にいろいろ話は出て来る」

さらに、今季(2020年)の目標については「20勝に挑戦する。自分にできることを理解して、課題を持ってオフに入ることが大事」と宣言しました。

20勝投手は、先述の2013年・田中将大以後は出ておらず、セ・リーグでは2003年の井川慶(20勝5敗)以来、久しく途絶えています。菅野のシーズン最多勝利は、2017年の17勝。あと3つ積み重ねることで、これまでとは違った景色を見てみたい……という思いが菅野にはあるのです。

フォーム改造に取り組み、並々ならぬ決意で臨んだ今シーズンでしたが、新型コロナウイルスの影響で、シーズン短縮が決定。143試合制でも難しい20勝が、120試合制となりさらに困難になりました。

25日の時点で、巨人は54試合を消化。レギュラーシーズンの半分=60試合到達までに、菅野はもう1回登板しますので、そこで勝てば10勝。ジャスト20勝ペースになります。負けはほぼ許されませんが、もし「120試合制での20勝」を達成できれば、田中の24勝にも匹敵する偉業と言えるでしょう。

果たして、令和のエースは不可能を可能にできるのか? 原監督も今後は中5日での起用を増やす方針ですし、後半戦、菅野のピッチングからますます目が離せなくなって来ました。

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