【ペットと一緒に vol.216】by 臼井京音
初秋に愛犬2頭を連れてキャンプを楽しんでいた山賀沙耶さんに、思わぬハプニングが起こりました。ふと気づくと、愛犬の姿が消えていたのです。
今回は、延泊を重ねながら知恵を絞り、愛犬を探した山賀さんの体験談を紹介します。
シニア犬がキャンプ場で姿を消す
フリーライターの山賀沙耶さんは、シルバーウイークに愛犬2頭とともに岐阜県へ出かけました。区画内で犬をフリーにできるドッグランサイトのあるキャンプ場に2泊の予定で滞在中、結局5泊せざるを得ないハプニングが起きてしまったとか。
「10歳の愛犬ベルが、滞在2日目の夕方に逸走してしまったんです。ベルがいないことに気づいたのは、脱走してから5~10分後だったと思います。サイトの柵に設置されている扉を、ベルは鼻で押して隙間から出てしまったのではないでしょうか」と、山賀さんは振り返ります。
ベルくんはシェルティとパピヨンのミックス犬で、老犬なのでそれほど俊足ではありません。
「まずは私ひとりで探しに出ました。その間に、パートナーがキャンプ場の管理人さんに連絡。すぐ追いつけると思ったのですが、ベルはどこにもいません。キャンプ場のスタッフ10名に加え、お客さん2組も一緒に探してくれました。けれども見つけられず、暗くて捜索が困難なこともあり、23時ごろにその日は捜索を終えました」
その後、山賀さんは管轄の警察署に電話し、ベルくんを遺失物として届出。さらに、“ドコノコ”の迷子犬掲示板に投稿しつつ、同サイトで必要事項を記入して写真を添付するだけでPDFファイル化できるチラシも作成したそうです。
見つけ出すからね! 捜索を早朝から再開
翌朝は日の出とともに起床すると、山賀さんは町の中心街のコンビニでチラシを50枚カラー出力しました。
「ベルが見つかるなら誰にでも頼る気持ちで、チラシを近くのコンビニ、スーパー、駐在所、コミュニティスペース、飲食店などに貼っていただきました。それから、キャンプ場近くのすべての家を訪ねてチラシを渡したのですが、ベルの目撃情報は得られず……。午後はさらに捜索範囲を広げ、人目の届かなそうな林道などを探し歩きましたが、ベルを見つけてあげられず、延泊を決意しました」
逸走3日目となる9月24日、山賀さんはキャンプ場のスタッフに自転車を借りて、さらに捜索範囲を広げました。
「パートナーは自動車と徒歩で、別の場所へ。お互い、チラシを配りながらさまざまな人に声を掛けましたが、手がかりがまったくありませんでした。そこで、原点に回帰してベルの普段の行動を思い起こしながら、キャンプ場からの足取りをシミュレーションしてみたんです。すると、私たちが捜索の開始直後『この道は真っ暗だし何もないから』とスルーしたルートがあやしいと感じられて来ました」
そこで翌日は、真っ暗な道を40分ほど歩いた先に広がる別荘地にターゲットを絞り、捜索をすることにしたと言います。
愛犬の目撃情報が電話に
捜索4日目は、雨でした。そんななか、山賀さんたちは別荘地や観光施設などにチラシを配ったり、出会う人に情報の提供を求めたりしたそうです。
「別荘地では1軒ずつ、軒下をライトで照らしながら探しました。ガサっと動くものを見つけてベルかと思ったら、ニホンカモシカが雨宿りしていたり……。この日も暗くなるまで探し回りましたが、何の有力情報もないまま終わりました」
捜索5日目の朝。
「次の日は仕事の都合で東京に戻る必要があり、テントを撤収して車に積みました。『きょう見つかったら、奇跡だね』とパートナーと意気込みを新たにして、前日探した別荘までの道沿いをしらみつぶしに探すことにしました」
その道から続く林道を歩いて探していたとき、山賀さんは電話の着信履歴に気づいたと言います。
「それは、ベルの目撃情報でした。しかも、私たちがいる場所の近くだったのです。『ベルが生きていたー!』と、喜びながら林道の上り坂をダッシュしていると、ヘルプを依頼したキャンプ場の管理人さんの車と行き合いました。管理人さんが私たちの車の隣に停車しようとしたところ、何とそこでベルを発見! そのまま管理人さんが捕獲してくれたんです」
結局ベルくんは、キャンプ場から2km弱の場所で、何と山賀さんの車の横に座っていたということです。
同じ思いをする人が少しでも減って欲しい
「ベルは少し濡れていましたが、一見した感じでは汚れても痩せてもいませんでした。4日間もいなかったのに、『あ、どうも』ぐらいのテンションで、いつもどおりのしれっとした態度でしたね。捜索生活は、夢だったのではないかと思うほどですよ(笑)」(山賀さん)
その後、山賀さんはチラシを貼ってくれたところを中心に、お礼まわりを行ったそうです。
「犬メディアでのエディター・ライター歴が長くて知識は豊富なつもりなのに、愛犬を逸走させてしまい落ち込んでいましたが、『よかったね~』と喜んでくれる街のみなさんの温かさに心が救われました。
今回は見つかったからよかったものの、事故に遭ってケガしたり亡くなったりしていたら、楽しいはずの思い出が二度と思い出したくないものになるところでした。子犬のロッシが5月に来たばかりだったので、この脱走は『僕にももっと注目してよ』というサインだったのかなと思ったり……。
しかし、ベルのほうは『ちょっと冒険して来た』ぐらいのつもりかも知れませんが(笑)、探すこちらは疲弊するし、たくさんの方々にご心配をおかけしたので、もう二度と経験したくないし、他の人にも経験して欲しくないですね」
山賀さんは、いつもと同じ様子でマイペースにくつろぐベルくんを撫でながら、少しでも迷子になる犬が減ることを願っているとも語っていました。
■山賀さんが愛犬の迷子騒動で得た教訓
1)犬をフリーにできるドッグランサイトを利用する場合は、愛犬を放す前に脱走できる場所がないか、メンバー全員でチェックする。
2)ドッグランサイトであっても、基本的には愛犬から目を離さない。
3)暗くなったときのために、首輪などにライトをつけておく。
4)迷子札と鑑札を装着させておく。首輪やハーネスに着けると取れてしまう可能性があるので、はずれにくいチョーカーなどにつけておくとよい。
5)愛犬が飼い主から意識をそらさないよう、また呼び戻しが完璧にできるよう、トレーニングをしておく。
6)捜索時は、SNSや紙のチラシを活用しながら、愛犬がいる可能性があるエリアの人々の情報を早急に頼る。
7)チラシ作成には“ドコノコ”の迷子チラシ作成のサービスが便利。旅先の場合、印刷にはコンビニのネットワークプリントを使う。
8)チラシに個人の携帯番号を載せるのが不安な場合、NTTの050plusのアプリを使えば安心(2020年10月現在、月額330円税込)。
9)地図にもない道を探す場合は、Google Earth(Google Mapの航空写真)が便利。
10)捜索活動のクオリティに影響するので、飼い主さんの睡眠や食事は疎かにしない。暗いうちは寝て、明るい時間に活動するのがベスト。
11)捜索中は、同居犬にも気を配ろう。事故や脱走など同居犬の2次被害の予防を。
連載情報
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ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!
著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。