野口聡一さんISSに到着、そして「アルテミス合意」の意味
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「報道部畑中デスクの独り言」(第219回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、宇宙飛行士・野口聡一さんも搭乗する新型宇宙船「クルードラゴン」打ち上げ成功のニュースと、今後の民間宇宙開発について---
宇宙飛行士の野口聡一さんが搭乗するアメリカ・スペースXの新型宇宙船「クルードラゴン」が日本時間の11月16日午前9時27分、スペースXのファルコン9ロケットで打ち上げられ、翌日、無事にISS=国際宇宙ステーションに到着しました。
宇宙に行く前の食事は「カツカレー」とTwitterに書き込んだ野口さん。ドッキング時には、「国際パートナーの一員として民間宇宙船のドッキング成功に立ち会えてとても幸せ。訓練の間、そして打ち上がった後もさまざまな困難な状況に直面したが、全集中で乗り切って来た。これから半年の宇宙滞在も皆さんと感動を分かち合いましょう」と第一声、新型コロナウイルス感染下での苦難がにじんでいました。
そして、ISS入室後のセレモニーでは「このISSにまた戻って来ることができて、とても感無量。全集中で頑張りたい」と語りました。
民間宇宙船によるISSへのアクセスは、宇宙旅行など本格的な「宇宙ビジネス」の時代に道を開くものであり、これだけでも大変画期的なことですが、公的機関がこれまで担って来た地球低軌道から「次のステップ」……月や火星探査へ向かうきっかけとして、重要な位置づけとなるでしょう。
人類が2024年に月を目指す計画として名付けられたのが、アメリカを中心とした「アルテミス計画」。予算は第1段階で3兆円と言われています。
ちなみにアルテミスとは、ギリシャ神話に出て来る女神の名前のこと。アポロンとは双子ということで、半世紀以上前に実施されたアポロ計画になぞらえたとみられます。
この計画を進めて行く上で、ある国際的なルールが採択されました。それが「アルテミス合意」。先月(10月)、日本やアメリカの他、カナダ、イタリアを含む8つの国が署名しました。月や火星などの宇宙探査で得る資源の活用の際に、このルールが適用されることになります。
具体的には「平和目的であること」「透明性を確保すること」「月面活動で他の国に干渉しないこと」「宇宙ゴミの削減について責任を持つこと」などが盛り込まれています。
一方、国際宇宙探査についてはISECG(アイセックジー)と呼ばれるグループが結成されています。
アメリカのNASA、日本のJAXAをはじめ、ロシア、中国、インドからブラジル、ベトナム、ポーランド、ルクセンブルクなども加わった24の機関で構成され、先日、国際宇宙探査におけるロードマップに修正が加えられました。ポイントは月への活動を3つの段階に分けるというものです。
■2024年前に人類が月面に再び着陸する
■2025年から2040年ごろまでに探査の領域拡大、インフラを構築する
■2040年ごろ以降には持続的な月面活動、つまり月で生活できるような状態にする
そして、2040年ごろを境に、宇宙機関中心の開発から、徐々に民間企業も参加する形に移行して行くことを想定しています。月に行くまでに「ゲートウェー」という滞在基地をつくることも盛り込まれています。
この他、月で毎年50トンの燃料を生産することを目標に掲げています。燃料については、月の南極にある水、または氷の存在が期待されています。南極の水を液体水素と液体酸素に電気分解し、これらを燃料にするというわけです。
まさに壮大な計画ですが、一筋縄では行かない難しさがあります。技術的にも決して簡単ではない上に、政治的要素もからんで来ます。
まず、燃料となる水素を優先的に利用できれば、宇宙開発において圧倒的な優位に立てることから、この“水脈”を探し当てる「早いもん勝ち」の争奪戦が懸念されています。
アメリカ主導とされる前述のアルテミス計画に難色を示す国もあります。締結された「アルテミス合意」に中国は入っていない他、ロシアの国営宇宙開発企業「ロスコスモス」は、アメリカ主導で進むゲートウェーの建設について、大規模な参加に慎重な姿勢を示しています。
「アメリカ中心的過ぎる」というのが理由で、アメリカへのけん制とみられます。宇宙開発に軍が関わっている中国を引き合いに出すまでもなく、宇宙開発は各国の安全保障と直結する可能性があるだけに、各国のにらみ合いは今後激しくなりそうです。
日本の立ち位置はどうあるべきか、アメリカと歩調を合わせるのが現実的と言わざるを得ないなかで、貢献できることは何か?
いま、先んじて行われているのは以前、小欄でもお伝えしたデブリ=宇宙ゴミの対策です。JAXAが行っているデブリの観測の他、民間企業と共同で開発している導電性テザーを使った「宇宙デブリ拡散防止装置」など、宇宙ゴミの後始末の技術を磨いています。
そして、もう1つは月面探査車です。トヨタ自動車とJAXAが共同開発しているもので、「ルナ・クルーザー」と名付けられました。
全長6000mm、全幅5200mm、全高3800mm、マイクロバス約2台分のサイズに2名が滞在でき、内部は4畳半のワンルームより少し小さいぐらいの大きさを想定しています。動力にはトヨタの“お家芸”燃料電池を搭載し、1万kmの月面走行を目指します。
地球の6分の1の重力、250℃以上の寒暖差、宇宙放射線の影響などにどう対応するか、課題は少なくありません。
一方、JAXAの担当者はアルテミス計画への貢献次第としながら、「計画に参加するからには日本人を月面に下ろしたい。なるべく早く、アメリカ人以外で日本が最初になりたい」と話します。
時期としては2020年代後半。それを見越して、JAXAは来年(2021年)秋をめどに、新たな宇宙飛行士を募集することを発表しました。
宇宙飛行士の若田光一さんは10月23日の記者会見で、「月探査を目指した宇宙飛行士を募集する」と明言。「地球低軌道から月探査に向けて、日本の有人宇宙活動が広がって行くなかで、新しいステップ、夜明けだと思っている」と語りました。
また、選抜や訓練にあたり、新たな試みとして民間企業との連携強化を挙げました。
「自動車・航空など幅広い分野から、オペレータなど専門性のある技術者を育成・訓練している企業がたくさんあると思う」と期待を示す若田さん。月面探査車を開発しているトヨタの関係者を視野に入れているようにも感じます。
宇宙開発と安全保障は、もはや切っても切れない関係になりつつあります。科学者の純粋な思いだけでは成就できない、各国の思惑が交錯するのは否めないところですが、平和利用の理念を堅持しながら、なくてはならない技術で存在感を出す……現状、それが日本という国に与えられたミッションではないかと思います。 (了)