“歴史のかけら”リュウグウからカプセル無事帰国 ドキュメント
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「報道部畑中デスクの独り言」(第223回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、探査機「はやぶさ2」の活躍により、日本に無事届けられたカプセルについて---
探査機「はやぶさ2」が、約6年の「宇宙の旅」を終えてカプセルが帰還。小惑星「リュウグウ」からの粒子が入っているとみられるカプセルは、12月8日午前、神奈川県のJAXA相模原キャンパスに戻って来ました。
カプセル内部の解析を行う総合研究棟に、午前10時半過ぎ、カプセルを積んだトラックが横付けされます。集まったJAXAの職員は100人ほどに膨れ上がりました。ただ、新型コロナウイルスの影響でテレワークが徹底されており、敷地内の出迎えは比較的こじんまりとしたものでした。
拍手と歓声、ガッツポーズ……職員の前にはファンから贈られた「はやぶさ2 祝大漁」と書かれた大漁旗も掲げられました。トラックから30分ほど遅れて、回収スタッフが乗ったレンタカーが到着。トラックの荷台からカプセルの入ったボックスがお目見えしました。
スタッフ4人が高さ1mほどのボックスを慎重に持ち上げます。午前11時27分、カプセルは無事、建物のなかに入って行きました。
「なかを開けるのが楽しみ。みんな“白髪”になっていなかったので、開けていないということですね」
JAXAの津田雄一プロジェクトマネージャ(以下 津田プロマネ)が、到着直後にコメントを寄せました。宇宙からの“玉手箱”と呼ぶカプセルになぞらえたユーモアです。その上で「ホッとした。肩の荷が下りた」……ワクワクしながらも、重圧から解放された安堵の表情がありました。
その後に行われた記者会見でも、津田プロマネは「ついに戻って来た。心に迫るものがあった。新しい科学がここからスタートする」と、改めて喜びを語りました。
渋滞などで到着が遅れたことから、午前11時に予定されていた記者会見は午後0時半にずれ込み、所要約1時間50分に及びました。
カプセルは日本への輸送を前に、特殊なピンで“穴”を開けることで内部のガスを採取しました。日本から持ち込んだ特殊な装置で、慎重な作業が行われたということです。現状は分子量の測定にとどまっており、リュウグウから来たガスかどうかは、まだ断定できていません。
解析を担当するJAXAの臼井寛裕グループ長は「太陽風に関連するヘリウムの同位体のようなものが分析できると、リュウグウ由来かどうか確実に判断できる」と期待を寄せています。あとは、カプセルのなかにリュウグウの粒子が入っていることを祈るのみです。
ただ、カプセルは着いたからと言って、すぐ中身を開けられるというものではありません。まず、ヒートシールドという、カプセルを熱から守るカバーを取り外し、周囲を念入りに洗浄します。そして、カプセルを特殊な装置にかけ、ふたやスプリングを外して、クリーンルームに移します。
ここからがまた大変です。宇宙の環境に近い状況にするために、カプセルの周囲を真空にする必要があります。「真空びき」と呼ばれる作業は、週末2~3日はかかるとのこと。
そして、ようやくカプセル開封にありつける……よって、なかの粒子を確認するには1週間ぐらいかかるとみられます。現在もその作業が続いているでしょう。ちなみに、地球の外から採った粒子を真空の下で開封・採取するのは、日本独自の技術だということです。
粒子があるかどうか、厳密には詳細な分析を待つことになりますが、カプセルの裏側に隠れていれば時間はかかるものの、表側に黒い物質があれば「確実にある」(臼井グループ長)。いずれにしても来週が1つのポイントになりそうです。
さて、今回のはやぶさ2が行った偉業について、おさらいをしておきます。今回リュウグウから採取した粒子が意味するところは、大きく分けて2つです。
まずは「太陽系の歴史のかけら」……地球をはじめとする惑星がどうやってできたのか、解明する手がかりを得たということです。
地球は太陽系が誕生した後に、小さい天体が集まってできたと言われています。しかし、集まる際にドロドロに溶けたり、固まったりしたため、地球のもともとの状態がどうだったのかは、はっきりしていません。
一方、リュウグウのような小惑星はこうしたプロセスを経ていないので、太陽系ができた46億年前のころの状態が、そのまま残っているとみられます。さらに今回は、リュウグウの地中の粒子も獲得できたはずです。
表面は宇宙放射線や太陽風の影響を受けていますが、地中ではそうした影響も小さく、いわゆる「フレッシュな粒子」が期待できます。「もともとの状態」にさらに深く迫れる可能性があるわけです。
もう1つは「生物の歴史のかけら」……人間をはじめとする生物が、どのように誕生したかを究明する手がかりです。
リュウグウは水や有機物=炭素を含む「C型小惑星」に属します。生物はいわば「原材料」となる水や炭素を含む惑星がぶつかって生まれたと言われています。したがって、こうした惑星を調べれば、生物の起源についてわかるのではないかというわけです。
それは水や炭素が見つかるというだけでなく、炭素、水を構成する水酸基などに、これまでにないような複雑な分子構造が確認される可能性もあります。そうなれば、まさに「世紀の大発見」となるでしょう。
なお、粒子は分析をはじめとする研究に活用されますが、一部は保管されます。将来、より進んだ分析・研究手段が出現するのを見越してのことです。
カプセル帰還まで6年の長旅でしたが、今後、さらに長い分析の時間が待っています。それは技術や研究を未来につなぐ“橋渡し”でもあります。やはり、せっかちな人間には務まらないな……改めて思います。(了)