お帰りなさい!「はやぶさ2」 緊張と歓喜の2日間
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「報道部畑中デスクの独り言」(第222回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、小惑星「リュウグウ」から無事帰還、カプセルを地球に届けた探査機「はやぶさ2」について---
まさに歴史的な瞬間だったと思います。探査機「はやぶさ2」が、小惑星「リュウグウ」から採取した粒子が入っているとみられるカプセルを、ついに地球に届けてくれました。さらに、「はやぶさ2」は6年間の“長旅”を終え、別の小惑星に向かう“第二の旅”に出かけました。
これまでのミッションを成功裏に終え、12月6日夕方、神奈川県のJAXA相模原キャンパスで記者会見が開かれました。キーパーソンが集い、それぞれの思いを語りました。
「ようやく念願の夢がかない、完全にコントロールされたミッションを完遂できました。エンジニア冥利に尽きる」(JAXA宇宙科学研究所・国中均所長)
「ただいま、はやぶさ2は帰って来ました。オーストラリア・ウーメラの地に“玉手箱”を下ろすことができました。カプセルは完全な状態、なかを開けることがとても楽しみ」(JAXA津田雄一プロジェクトマネージャ 以下津田プロマネ)
12月5日のカプセル分離から6日のカプセル帰還、そして記者会見まで、私は相模原キャンパスのプレスセンターで見守りました。小欄ではこの2日間を改めて振り返ります。
久しぶりに訪れた相模原キャンパスで驚いたのは、構内の雰囲気。普段、職員や見学客で活気を見せていた構内は、随分と静かになっていました。
JAXA関係者によると、新型コロナウイルス感染防止の観点からテレワークを徹底し、出勤している職員は通常の約3分の1ということです。報道陣も人数制限、検温・消毒などの感染防止策を施しての取材となりました。
はやぶさ2の記者会見・説明会自体はこれまでもオンラインで行われて来ましたが、今回はまさにクライマックス。一堂に会するのは久々で、記者やJAXA関係者の間から「久しぶり~」と旧交を温める? 場面もありました。
初号機「はやぶさ」の苦難を教訓にさまざまな改良を加えられ、2014年暮れに打ち上げられた「はやぶさ2」。幾多の壁に直面し、時に難しい判断も迫られて来た6年間だったと言えます。
象徴的だったのは、打ち上げから3年半が経過した2018年6月にリュウグウ上空に到着したとき。地表の状況を見て、津田プロマネは「リュウグウが牙をむいて来た」と表現していました。
リュウグウは「ボルダー」と呼ばれる凸凹の岩だらけでした。どこに着陸したらいい?……最良の方法を編み出すために激論が交わされ、着陸=タッチダウンは到着から半年以上ずれ込みます。
わずかな平地を狙い、2回の着陸=タッチダウンを敢行。見事、リュウグウ地中の粒子の採取に成功しました。その感動はこれまで小欄でもお伝えして来た通りで、津田プロマネも「最大のヤマ場」と評しました。
そして、いよいよ帰還、最後の“難関”がやって来ました。
12月5日、管制室では午前10時にブリーフィングを開始し、探査機の正常を確認。その後も慎重な確認作業を経て、カプセル分離に「GOサイン」が出されました。
「5、4、3、2、1、ゼロ」……分離予定時刻の午後2時30分、カウントダウンのなか、緊張の時間が流れます。管制室で沈黙を破ったのは「キターっ」という声。津田プロマネ他、関係者がモニターで各データを確認して5分後に「成功宣言」、拍手が沸き起こりました。プレスセンターでも安堵の空気が流れました。
ところで、何をもって成功とするのか? カプセル分離では火薬を使って探査機とカプセルをつなぐバンドを切り、ばねでカプセルを押し出すという方法をとります。そのとき、探査機の飛行速度が変わります。
また、姿勢も少し変わるため、リアクションホイールという仕掛けにより、それを元に戻そうとする動きがあります。さらに火薬の影響で温度も上がる……こうした動きを示すデータが想定通りであったため、成功という判断が下されたわけです。
その後、はやぶさ2は地球離脱への姿勢変更にも成功、「第二の旅」をスタートさせました。「玄関先にランドセルを放り投げて、外へ出て行く小学生のよう」……こう語ったのはJAXAの関係者です。
着陸予定地であるオーストラリアのウーメラ。現地は「雲一つない空、月も輝いている」という情報です。カプセルは日付が変わった6日に大気圏に突入、摩擦によってまっすぐな火球=火の玉の姿が確認されます。カプセルの姿が画面に映し出され、プレスセンターも高揚し始めます。
最後はパラシュートを展開して着地。ただ、このパラシュートが開くかどうかが最後の難関、開かないとそのまま地球に激突します。「こうなると管理はできない」(津田プロマネ)、NASAの探査機でも同様の事態があったため、まさに着地するまで気を抜けない時間が続きました。
「ニューカン!」
午前2時32分、管制室がこの一言で大きな拍手に包まれました。何が起きたのか? プレスセンターも一瞬、面喰いましたが、ビーコンと呼ばれる、カプセルが自らの位置を知らせるために発する電波信号が「入感」。ほぼ同時にパラシュートが展開されたとみられます。
「ビーコン、ショーカンしました!」
午前3時7分、ウーメラから情報が届きます。ショーカンとは「消感」のこと。ビーコンの電波は地上から2~3mの地点に設置されたアンテナで受信していますが、カプセルの高さがそれより低くなると、消感=信号が受信できなくなるわけです。着陸と判断され、着地点が推定されます。
その後、ヘリコプターで探索。実況放送が終わり、プレスセンターが一時、閉鎖された後、JAXAのツイッターで午前4時47分にカプセルが着陸予定区域内で発見されたことが明らかになりました。
着陸予定区域は、長軸約150kmと短軸約100kmの楕円の領域とされていますが、分離したカプセルをこの領域に着地させるのは、「1km先にあるナナホシテントウムシの中心のホシを的にする」(津田プロマネ)ほどの精度。そこにピタリと当てて来たというのは、まさに脅威と言わざるを得ません。
ビーコンが発信されないことに備えて、自ら電波を出してカプセルに当てることで位置を特定するマリンレーダーや、ドローンによる撮影も準備していましたが、これらは不要に終わったようです。
着陸から半日以上が経ち、冒頭の記者会見と相成りました。前半はJAXA・山川宏理事長の他、ジャン・アダムズ駐日オーストラリア大使も駆けつけました。
後半は津田プロマネと国中所長が会見に対応、自己採点を記者から問われ、津田プロマネは「100点満点で1万点」と評しました。当初1時間と予定されていた会見時間は大幅に延長され、ほぼ3時間にわたりました。
カプセルは回収されて、現地の施設に運ばれています。ここでカプセルに特殊なピンで穴を開け、小惑星に由来するガスがあるかどうか簡単な検査を行います。その後は日本へ空輸、粒子の初期分析というスケジュールが待っています。
この2日間、画面に映し出された管制室は任務にあたったスタッフが約30人。新型コロナウイルスの対策として最小限の人数に絞られ、通常よりゆったりとした空間に見えました。
画面からは節目節目で緊張が伝わって来たものの、ピリピリした感じではなく、メンバーの指示や会話は大変冷静で、気心の知れた、チームワークのよさを感じました。津田プロマネがかねてから話していた「チームワーク」とはこういうことか……目に見える形で示してくれたと言えます。
ただ、このチームワークの考え方については、会見で意外なやり取りがありました。これについてはまたの機会に。(了)