新型コロナ重症者のベッド数が足りない「本当の理由」
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月18日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。1月18日に召集された通常国会について解説した。
通常国会~焦点はコロナ対策
1月18日、第204通常国会が召集された。新型コロナウイルス対策が最大の焦点で、政府・与党は時短営業に応じない事業者への罰則を設ける特別措置法の改正案や2020年度第3次補正予算案、21年度当初予算案の早期成立を目指す。
飯田)提出を予定する法案の数は去年(2020年)の通常国会よりも4本多い63法案だということで、デジタル庁など目玉政策の法案も入っているようです。
須田)通常国会というと、予算案の審議が最優先されて、年度内にいかに成立させるかというところが通常であればいちばんのポイントになります。今年(2021年)から来年にかけてというと、15ヵ月予算編成です。例えばバブル崩壊であるとかリーマンショックであるというような、景気が大きく悪化したときは、前年度の1~3月期の補正予算と、一般会計をつけて15ヵ月予算編成という形を取ります。
15ヵ月予算編成~特別措置法の改正案
須田)今回に関して言うと、約5兆円弱の予備費の使い残しがありますから、そこを含めて一体化した予算を組むということになります。これが3月末までに、全部スムーズに進んで行くのかというところが1つの焦点です。
飯田)なるほど。
須田)そしてそれとコインの裏表、コロナ対策のなかでも、自粛要請を行う飲食店に対する予算の方で、補助やバックアップ体制を組む一方、私権の制限をしなければ、実効性が上がって行かないのではないかと。私権制限と言っても、過料を科すということは馴染まないので、店名公表ということになるのではないでしょうか。それでも、一定程度の私権の制限にはなるのですが。
飯田)そういう話が出ていますね。
感染症法の改正~私立大学病院、民間病院へのコロナ対応要請
須田)国会が始まる直前になって浮上して来たのが、感染症法の改正案です。民間病院のベッド数は、全体の8割がコロナ治療で使われていないのではないかという問題があります。緊急事態宣言が出た背景には、いろいろな要因があります。ただポイント1つを絞ってみますと、重症者数、例えば東京の場合は、120人~130人台というところで推移しているのだろうと思いますが、東京都の基準によると、ベッド数が250床しかないのです。国基準で言うと500床に増えるのですけれども、なぜこんなにばらつきがあるのか。
飯田)基準が都道府県によって違うのですよね。
須田)東京都の基準の場合、ICU(集中治療室)に入っている人は重症者にはカウントしません。あくまでも人工呼吸器やECMO(エクモ)を装着している人というのが重症者になります。基準が違う。そして、この重症者向けのベッドが間に合わなくなるから、慌てて緊急事態宣言を出した。これがことの本質なのです。
飯田)なるほど。
須田)しかしこの問題は、去年の春から言われて来た話です。なぜ、未だに解決できていないのかというと、その大部分を国公立大病院、一部の大学病院、またはごく一部の民間病院でしか対応していないからです。大部分の民間病院は対応していないではないかというところが出て来ている。そうすると感染症法の改正は、それを強く促し要請するような仕組みを盛り込もうではないかと、つまり病院に対する私権の制限なのです。それに応じないところについては、病院名の公表まで踏み込みますよと。もちろんそうする一方で、公立病院並みの資金的なバックアップ体制も予算の方できちんとするということです。これを民間病院サイド、日本医師会サイドは「どう受け止めるのか」というところになって来ているのです。
コロナ以外の患者によって成り立っている民間病院の経営上の問題
飯田)そこの補償の部分が重要だというような話があって、お医者さんを取材すると、感染症の場合、患者さんが増えたときは需要があるけれども、平時は需要がない。でもベッドはある程度空けておかなければならない。その部分の財政的な補助は絶対に必要なのだよねというのは、患者さんが来ない云々の話ではなく、同じレベルでやるためには必要だという話をしていたので、その部分が表に出て来ると議論が進むのかなというような話をしていました。
須田)そこも悩ましいところです。お医者さんや医療従事者は積極的なのです。「対策さえあればやるよ」という人が多いのだけれども、経営サイドの人と話をしていると、コロナ患者を受け入れると一般の病気の患者さんが来なくなる。または受け入れられなくなる。転院させなければならなくなる。そうすると、そういう人たちは、終わった後に戻って来てくれるのですかと言います。コロナ以外の患者さんによって経営が成り立っている以上、アフターコロナの経営に対する支援はどうなるのだと。その期間は手厚くやってもらって、それで終わりです、では受け入れられないという経営上の問題があるのです。
「やるべきことをやっていない」都知事の問題も
飯田)現場からこんなメールもいただいております。東北でお医者さんをされている匿名の方。「東北地方で民間病院に勤務している内科医です。医師5人の小規模病院で、ほとんどが60歳以上、人工呼吸器などを回せるスタッフはいません。通常の肺炎であれば対応して来たので、コロナの患者さんも軽症であれば対応できるかも知れません。しかし軽症の方が重症化した場合、コロナ専門病院がいっぱいで、『こちらで受け入れられないから重症1人くらいそちらで見てくれ』と言われる状況になったらと思うとぞっとします。“重症化した場合、100%専門病院に転院できる”という担保がなければ、中小の民間病院はどこも難しいのではないかと。最悪の場合、『なぜ専門病院に転院させられなかったのか』と訴訟問題になりかねない」ということです。この辺りも危惧するところがあるようですね。
須田)ベッドの数も多いし、医療従事者の数も多いのですが、コロナの専門病院が東京にはないのですよ。
飯田)ようやく、広尾病院や豊島病院を専門病院にするという話が出ていますが。
須田)現在は都立病院ですよね。新たな病院を建設するという話も去年からあったにも関わらず、やっていないではないですか。
飯田)専門病院に衣替えしたらどうだというのは、かなり前から提言は出ていたのですよね。
須田)「いまやるべきこと」をやっていない。それは都知事の責任も非常に大きいし、もちろん厚労省の責任もあります。ただ、現場と向き合っているのは自治体なのですから。その自治体がなぜ去年の春から問題が明らかになっていたにも関わらず、やらなかったのか。結果、そのつけが全部飲食店に回って来ているではないかと思います。
医師会をまとめ上げることができていない
飯田)そう受け止めている国民は多いです。しかし予備費をあれだけ積んでいたのに、どうしてできませんかね。
須田)そこは一言で国サイドに言うのは、「根詰まりではないだろう」と。もう1つは、やはり医師会をまとめ上げることができなかった。医師会が応援する国会議員、参議院議員はいるのです。衆議院の小選挙区でも、各地の医師会が各国会議員の組織票になっているのです。国会議員の方も、医師会などの顔色を窺わなければならないという事情があります。医師会推薦がなかったら落選する可能性もあるので。
飯田)せっかくこれだけベッド数があって、お医者さんも沢山いる、現場の人たちも士気は高いと。これを機能的にワークすれば、うまく行く可能性があるわけですよね。
須田)OECD諸国の先進国のなかでも、トップのベッド数です。それにも関わらず、なぜ医療崩壊が起こっているのか。これは問題ですよね。
飯田)通常国会では、特措法と感染症法の改正に関しては、予算と並行でやるという話も出て来ています。
須田)コインの裏表という関係にありますからね。
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