「カーボンニュートラル」で見えるクルマの電動化の課題

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「報道部畑中デスクの独り言」(第236回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、2050年カーボンニュートラルへ向けた自動車業界の課題について---

画像を見る(全7枚) 日産自動車の決算会見 2050年カーボンニュートラルへの取り組みも説明された 右端は内田誠社長(オンライン画面から)

新型コロナウイルス対策、総務省や農林水産省の幹部職員らが接待を受けた問題などが論戦の的となっている通常国会ですが、その冒頭、1月18日に菅義偉総理大臣が施政方針演説で、次の成長の原動力として「グリーン」と「デジタル」を挙げ、2050年のカーボンニュートラル、2035年までに新車販売で電動車100%の実現を明言しました。これについても看過できない注目点だと私は思います。

自動車業界でも「100年に一度の大変革」の1つに位置付けられている電動化ですが、ここへ来て風雲急を告げる動きを見せています。

1月から2月にかけて、各企業の決算が発表されましたが、自動車各社では業績だけでなく、電動化に向けたスタンスも大きく注目されました。そこには各社の電動化に対するスタンスの違いもあり、興味深いものとなりました。

日産アリア 2021年夏に一般販売の予定

「2010年にリーフを投入し、ゼロエミッションの社会実現に向けて取り組みを行って来たと自負している。10年に及ぶ豊富な経験と知識を持っている会社は世界中どこにもいないと思う」

EV=電気自動車では国内で一歩先を行く日産自動車の内田誠社長は、先駆者としての自信をにじませます。

日産は2030年代早くに、主要市場に投入する新型車をすべて電動車とすることを目指しているということです。また、EVのバッテリーについて防災分野に活用したり、鉄道の踏切装置に再利用する検討も行われています。

続いて、トヨタ自動車はHV=ハイブリッドではけん引役。政府は上記の電動化のなかに軽自動車を含める意向を明らかにしましたが、これについて近健太執行役員は、「当然進めなくてはいけない。要素技術については共有をして、グループの総合力を生かして行く部分だと思う」と話しました。

トヨタ自動車決算会見 近健太執行役員(オンライン画面から)

HVだけでなく、「究極のエコカー」と呼ばれる燃料電池車でほぼ独壇場のトヨタ、「全方位外交」の姿勢です。また、2月23日には静岡県裾野市にある工場跡地で「ウーブン・シティ」という街づくりにも着工しました。日産・トヨタ両社は電動化の先にあるものを模索しているようにも見えます。

その他、マツダは「2023年からのEV専用プラットフォームの商品開発を重視して行く」(丸本明社長)としています。三菱自動車は得意分野のASEAN諸国、車種としてのSUV(スポーツ多目的車)を念頭に、「PHEV=プラグインハイブリッドが少なくとも2030年前半までは親和性があり、そこを軸に考えている」(長岡宏代表執行役)と語っています。

また、スズキは2月24日、中期経営計画を発表し、鈴木俊宏社長は2025年以降も生き残ることができるよう、電動化技術を集中的に開発することを明らかにしました。いわば目標の「頂上」に向かって、さまざまな「登山口」からアプローチしているのが興味深いところです。

トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」(トヨタ自動車HPから)

ただ、クルマの電動化は電力・エネルギー政策を抜きにしては語れません。あたかも電動車をもって世の中がすべてEVにシフトするような空気になっていますが、そうなれば必要な電気は飛躍的に増えます。その電気をどうやってまかなうのか……。

クルマには「well to wheel(井戸から車輪へ)」という言葉があり、いくらクルマ自体が二酸化炭素を出さなくても、電気、電池をつくる段階で火力を使えばどうなるのか、エンジン車と比べてどうなのかという議論があります。

エネルギーの消費でも万能というわけではありません。電池は化学反応による産物ですが、一般に化学反応は低温では起きにくいため、寒冷地には向かないと言われています。寒冷地仕様の車両は、これを防ぐため、電池をヒーターで温めており、そのためにまた電気を消費するという構造になっています。また、工事用の車両はパワーを考えるとエンジン車の方が適していると言われています。

昨年(2020年)暮れ、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は400万台の自動車保有台数をすべてEVにした場合、10%~15%の充電能力が必要となり、それは原発なら10基、火力発電ならば20基が新たに必要となるという試算=試みの計算を明らかにしました。

エネルギー政策について菅総理の演説では、再生可能エネルギーの拡充、デジタル技術による効率的なダムの発電、安全最優先の原子力政策を挙げています。

原発については、東日本大震災、東京電力・福島第1原子力発電所の事故からまもなく10年、いまだデリケートな議論が続いていますが、将来の電源バランスをどうするか、政治の世界のみならず、しっかりと向きあって考える時期に来ていると言えるでしょう。

マツダMX‐30 今年に入ってEV仕様が追加された(2019年東京モーターショーから)

一方、クルマの電動化のカギを握るのは「電池」と各社口を揃えます。「電動化の大きな課題は一にも二にも電池」(スズキ・長尾常務)、「ひとえにバッテリーの進化による。細かく注視しながら、いつごろEV化をしたらいいのか検討している」(三菱自動車・長岡代表執行役)。

電池の世界、とりわけ液体系のリチウムイオンバッテリー(LiB)はすでに激しい価格競争に入っており、コスト面では中国勢と厳しい戦いを強いられています。そうしたなかの「バッテリーの進化」、とりわけ日本に活路があるとすれば、やはり全固体電池になります。

全固体電池もLiBの一種ですが、電解質を液体から固体に置き換えたもの。液体系のLiB、自動車用には何重もの安全対策が施されていますが、液体である以上、液漏れや、悪条件下では発火する可能性もゼロではありません。こうした欠点を克服するのが全固体電池、性能面でも現状の3倍の高性能と期待されています。

全固体電池については今年(2021年)に入り、中国の「NIO(ニーオ)」というメーカーが2022年に実用化すると明らかにし、衝撃が走りました。NIOは「中国版テスラ」と言われていますが、本当に実現できるかについては懐疑的な見方もあります。

オンラインで行われた三菱自動車決算会見

ある電池開発の関係者によると、全固体電池の分野は現在日本が進んでいます。例えば「プレス型」と呼ばれるタイプは、日立造船がA4サイズで厚さが“均一”のものを製造できるそうです。

なぜ、造船会社が? それは、船を製造する際、鋼板などの巨大な素材を均一にプレスする技術をもっているためです。電池は性能維持のためには凸凹がなく、できるだけ厚さを均一にする必要があるということです。

そうした技術で、電池を「シート状」にすることもあり得ます。自動車用の全固体電池は研究レベルでは完成の域に入っており、今後はコストを含めた生産技術の確立が課題です。

むしろ、関係者が心配しているのは技術面以外の要素、キモになる電池研究者は電機メーカー、自動車メーカーの間で争奪戦が激しく、国内で流動しているとのこと。これが国外に流出してしまうと、そうした日本の優位性も揺らぐ可能性があります。

スズキの中期経営計画に関する緊急会見(オンライン画面から 右下は鈴木俊宏社長)

流出と言えば、関係者が「守らなければならない」と指摘するのは製造装置。電池の場合、例えば電池に欠かせない溶媒の配合比、溶媒を塗るときの温度、乾燥のスピードなどは電池の性能を左右する要素で、こうしたものはまさに日本お家芸の「すり合わせ技術」による「ノウハウの塊」だそうです。

ちなみに電池とは違いますが、「日の丸半導体」と言われた半導体産業が凋落したのは、製造装置という「ノウハウの塊」を大切にしなかったことが原因の1つと言われています。

つまり、製造装置のメーカーが発注元の厳しいコストダウンの要求に苦しめられたあげく、装置を全世界に売り込んでしまったため、中国や韓国の台頭を許したという見方です。

全固体電池に関しては、各社機密事項となっているようですが、半導体と同じ轍を踏まないようにして欲しいものです。(了)


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